水槽の水が透明できれいに見えても、生体が突然調子を崩したり、エサ食いが落ちたり、最悪の場合は死んでしまったりすることがあります。 その原因の多くは、目に見えない「毒」であるアンモニアと亜硝酸です。
アクアリウムにおいて、これらは単なる「汚れ」ではありません。 生体の細胞膜を溶かし、脳神経を破壊し、呼吸を止める、極めて危険な化学物質です。
なぜアンモニアと亜硝酸がこれほどまでに危険なのか。
そして、なぜ淡水と海水でその毒性の現れ方が違うのか。
本記事はその第一弾として、アンモニアの毒性メカニズムに焦点を当てて解説していきます。
目次
アンモニア(NH₃)とアンモニウムイオン(NH₄⁺)の違いについて
水槽内で発生するアンモニアには、大きく分けてアンモニア(NH₃)とアンモニウムイオン(NH₄⁺)という2つの形態が存在します。この2つは水中で常にバランスをとって存在していますが、どちらの形態が多いかによって、生体への「毒性の強さ」が劇的に(約100倍も)変化します。
まずは、その性質の違いについて見ていきましょう。
形態による性質の違い
アンモニア(NH₃)とアンモニウムイオン(NH₄⁺)の最も大きな性質の違いが「細胞透過性」です。
細胞膜の表面を構成するリン脂質は、電荷を帯びたイオンを通しにくい性質があります。
そのため、プラスの電荷を持つアンモニウムイオン(NH₄⁺)の形態では、細胞膜上にあるイオンポンプやイオンチャネル、トランスポーターといった「特定の入り口」を経由しなければ、細胞内には容易に入れません。
一方、電荷を持たない低分子であるアンモニア(NH₃)は、高い水溶性と同時に脂溶性も併せ持つため、リン脂質からなる細胞膜をすり抜けるように通過し、細胞内へ無差別に侵入してしまいます。
この特性により、アンモニア(NH₃)の形態では急性中毒を引き起こしやすくなるのです。

▶アンモニア(NH₃):毒性が強い
脂溶性で細胞膜を通過しやすく、急性中毒を引き起こしやすい。
また、NH₃にはアルカリとしての作用もあるため、粘膜部の化学的損傷(腐食)作用も持つ。
(※アンモニアの毒性の項目で後述します)
▶アンモニウムイオン(NH₄⁺):毒性が比較的弱い
電荷を持ち親水性のため細胞膜を直接通過しにくく、NH₃よりも急性中毒のリスクは低い。
ただし、過剰蓄積により浸透圧異常からなる代謝阻害作用を持つため無害ではない。
pHが毒性のスイッチを切り替える
この「猛毒」と「弱毒」の比率は、水のpH(水素イオン濃度)と水温によって決定されます。
これは化学平衡の法則に基づくものです。
▶酸性・中性の水中での挙動(pH7以下)
水中には水素イオン(H⁺)が豊富にあります。
アンモニアはH⁺を受け取り、毒性の低い「アンモニウムイオン(NH₄⁺)」の割合が増えます。NH₃ + H⁺ → NH₄⁺
▶アルカリ性の水中での挙動(pH8以上)
水中には水酸化物イオン(OH⁻)が多く、H⁺が少なくなります。
するとNH₄⁺からH⁺が奪われ、猛毒の「アンモニア(NH₃)」の割合が急増します。NH₄⁺ +OH⁻ → NH₃ + H₂O
この性質により、pHの高い「海水水槽(通常pH8.1〜8.4)」や「アフリカンシクリッド水槽」では、弱酸性の淡水水槽(pH6.0〜6.5)に比べて、同じアンモニア総量であっても毒性が飛躍的に高くなります。
海水水槽において、わずかなアンモニアの検出が致命的な結果を招きやすいのは、この「化学平衡」が猛毒側に傾いているためなのです。
アンモニアの毒性メカニズム:細胞破壊のプロセス
魚の代謝や残餌の分解によって生成されるアンモニアは、単なる汚れではありません。
生体の機能を物理的・化学的に破壊する一面を持っています。
その毒性は、主に以下の3点に集約されます。
毒性①:脳神経系へのダメージ(脳浮腫の発生)

「魚が水面で痙攣している」「暴れるようにきりもみ状に回転して泳いでいる」。
このような異常な泳ぎ方をしている場合、アンモニア中毒による中枢神経障害の典型的な症状の可能性が疑われます。
アンモニア(NH₃)は高い水溶性をもちながら脂溶性をも備えているため、血管内に入ると脳を守るためのバリアである「血液脳関門」を容易に突破し、脳内へ直接侵入します。
「トロイの木馬」仮説
脳組織内に入ったアンモニアは、細胞内の酵素によって、解毒のために「グルタミン」へと変換されます。
しかし、アンモニア濃度が高すぎると、このグルタミンが細胞内に過剰蓄積します。
グルタミンは強力な浸透圧物質であり、周囲から水分を強引に引き寄せる性質を持っています。
その結果、「解毒のために作った物質が原因で、細胞内に水が過剰に入り込む」という事態に陥ります。
浸透圧を狂わされた細胞は内側からパンパンに膨れ上がり、頭蓋骨の中で脳が物理的に圧迫されます。
こうして痙攣や異常行動を引き起こす原因である脳浮腫(細胞毒性浮腫)を発症します。
最終的には過剰な浸透圧によって膨張した細胞は内部の圧力に耐えきれなくなり破裂します。
こうして脳細胞が破壊され、生体は甚大なダメージを受けることになります。

細胞内にグルタミン(Gln)が増え、過剰な浸透圧の上昇に耐え切れなくなった細胞は破裂してしまいます
【回復の可能性について】
脳浮腫が軽度(細胞が膨張しているが破裂していない)であれば、水質改善により回復の余地はあります。しかし、圧迫により細胞が壊死してしまうと、その損傷は不可逆的であり回復しません。たとえ一命を取り留めても、泳ぎ方がおかしいままになる等の後遺症が残ることがあります。
毒性②:アンモニア(NH₃)によるエラ組織の破壊(酸欠)

高濃度のアンモニアは、脳へのダメージに加え、エラなどの粘膜組織に対して化学熱傷(やけど)のようなダメージを負わせます。
NH₃はアルカリ性であり、細胞膜を通過する際に膜の主成分である脂質と反応し、「鹸化(けんか)」と呼ばれる現象を引き起こします。 これは石鹸が油汚れを溶かすのと同じ原理です。
魚の体組織の中で最も繊細な器官であるエラの上皮細胞は、この作用によって文字通り「溶かされ」、破壊されます。

NH₃が水分子と反応して発生したOH⁻が細胞膜を破壊します
また、エラの破壊と機能不全は淡水魚と海水魚で進行の仕方が異なります。
上記のイメージ図は高pHの水槽で発生する「NH₃」による症状の発生メカニズムとなりますが、淡水の弱酸性水質で起こるエラの破壊はNH₄⁺の蓄積によるもので、脳浮腫が起こるのに近いメカニズムで徐々にエラが機能不全になっていきます。

脳浮腫と同じような仕組みで、エラの細胞が徐々に破壊されていきます
▶海水魚における症状の特徴
【症状の特徴】
NH₃による化学的熱傷(急性的なエラの破壊)
【外見的変化】
初期:エラが真っ赤になり、呼吸が激しくなります。
進行期:エラの組織が急速に破壊されるため、出血斑が見られたり、逆に貧血で白っぽくなったりします。エラの先が溶けたようにボロボロになることがあります。
▶淡水魚における症状の特徴
【症状の特徴】
NH₄⁺に対する防御反応による肥大と水ぶくれ(慢性的なエラの破壊)
【外見的変化】
初期:エラから大量の粘液が分泌され、白っぽく膜が張ったように見えます。
進行期:エラの細胞が毒から身を守ろうとして分厚くなる「上皮過形成(過剰な増殖)」や「癒着」が起こります。これにより、酸素を取り込む表面積が減り、慢性的な酸欠状態になります。エラが棍棒のように丸く腫れ上がるのが特徴です。
このように、同じ「エラの機能破壊」の症状でも、海水と淡水ではそのメカニズムと症状の進行は異なります。
毒性③:浸透圧調整の崩壊と代謝不全の引き金
毒性が低いとされるアンモニウムイオン(NH₄⁺)であっても、高濃度では深刻な代謝障害を引き起こします。
NH₄⁺のイオンの大きさ(イオン半径)は、生物が生きていく上で必須のミネラルであるカリウムイオン(K⁺)と非常に似ています。
そのため、細胞膜にある「カリウムを取り込むためのポンプ(Na⁺/K⁺-ATPase)」が、本来取り込むべきK⁺と間違えて、形状の似たNH₄⁺を体内に取り込んでしまう「拮抗阻害」が発生します。
これにより、神経伝達や筋肉の動きに必要なカリウムが不足し、細胞内のイオンバランスが崩壊します。

細胞内のイオンバランスと浸透圧が狂わされることにより、さまざまな代謝の阻害に繋がっていきます。
解毒の代償:ATPエネルギーの枯渇
魚類は脊椎動物の中でも、アンモニアからアミノ酸(グルタミンなど)を合成する能力(窒素同化)が非常に高い生物です。特に淡水魚は、ある程度のアンモニア濃度であれば、この合成能力によって耐えることができます
しかし、この解毒プロセスには「代償」があります。
アンモニアをグルタミンに変換する化学反応には、大量のエネルギー(ATP)と糖質(炭素骨格)が必要です。
▶Step 1:エネルギー(ATP)を使って毒を封じ込める
アンモニア(NH₄⁺の場合)を無毒化するときの反応式グルタミン酸⁻ + NH₄⁺ + ATP → グルタミン + ADP⁻ + P⁻ + H⁺
▶Step 2: 糖質(炭素骨格)を使ってアミノ酸に作り変える
グルタミンからピルビン酸(炭素骨格)を使ってアミノ酸合成するときの反応式グルタミン + ピルビン酸 → アラニン + α-ケトグルタル酸
※反応式はわかりやすさを重視した表記になっています
研究によると、アンモニアストレスに晒された魚の肝臓では、解毒エネルギーを捻出するために貯蔵していた糖(グリコーゲン)が急速に分解され、枯渇していくことが確認されています 。
つまり、栄養状態が悪く痩せて体力が落ちた魚は、代謝のエネルギー源となるATP枯渇によりアンモニアを解毒できなくなり、中毒死のリスクがより高まるということが示唆されています。
排出不能による「毒性のスパイラル」
さらに恐ろしいのは、この毒性が「毒性②:エラ組織の破壊」と合わさった時に起きる致命的な悪循環です。
通常、魚は体内で発生したアンモニアの大部分を、エラを通じて水中へ排出しています。
しかし、アンモニア(NH₃)によってエラの組織が破壊・変性されてしまうと、この「排出口」が物理的に塞がれてしまいます。

血中のアンモニアの約80~90%をエラから排出します
出口を失ったアンモニアは体内に急速に蓄積され、血液中のアンモニア濃度は跳ね上がります。
その結果、本来であれば排出されるはずのNH₄⁺によって、浸透圧調整やイオンバランスの崩壊を一気に加速させます。
つまり、エラがやられるということは、呼吸ができなくなるだけでなく、毒を外に出す機能も失うことを意味するため、症状は加速度的に重篤化してしまうのです。
また、魚類にとってエラは呼吸だけでなく、体全体の浸透圧を調整するメインの臓器です。
エラの機能が低下すると、淡水魚では水が体内に過剰に入り込んで体がむくみ、逆に海水魚では体から水分が奪われて脱水症状に陥ります。

体内の水分が過剰になりむくみが生じます

水分が過排出されて脱水症状を引き起こします
このように、アンモニアはさまざまなプロセスを経て、生体の代謝や機能を阻害してダメージを与えていきます。
生物の種類と環境によるアンモニア毒性の違い
アンモニアの毒性は、生物の「体の構造」によっても影響の出方が大きく異なります。
前述した3つの毒性のうち、①脳浮腫(神経毒)は高度な脳を持つ生物に特有のものであり、②エラ障害は呼吸器の構造に依存し、③代謝阻害はすべての生物に共通するものです。
ここでは生物の種類と環境の違いにより、どのような違いがあるのかについて触れていきます。
アンモニア中毒で脳浮腫を起こしやすい生物(脊椎動物)

脊椎動物は複雑な脳神経系を持つことから、アンモニアによるダメージが特に大きく現れます。
脳浮腫は脊椎動物特有の症状ともいえます。
水生の脊椎動物を健康かつ安全に飼育するためには、この点をしっかりと留意する必要があります。
■水生の脊椎動物をアンモニア中毒から守るために知っておきたいこと■
海水魚と淡水魚のアンモニア処理システムの違いや、水生カメや両生類飼育時におけるアンモニア中毒の注意点については下記の項目にまとめました。こちらもぜひお読みください。
※下記の項目をクリックorタップで文が開きます。淡水魚と海水魚:水域環境の違いによるアンモニア排出システムの「戦略差」
魚類にとってアンモニア排出は生命維持の要ですが、「淡水」に住んでいるか「海水」に住んでいるかという環境の違いによって、その排出メカニズムには劇的な違いがあります。
以下の表は、その違いを整理したものです。
特徴 淡水魚の戦略 海水魚の戦略 水質環境 イオン(Na⁺)が少ない イオン(特にNa⁺)が過剰 排出
メカニズムイオントラッピング
(イオン化による排出)濃度勾配を利用した排出
(塩分排出への便乗)エネルギー源 pH調整による化学的勾配 塩分ポンプ(Na⁺/K⁺-ATPase)の動力 弱点 pHの上昇(アルカリ化) 体力の低下(代謝不全) この違いは、どちらが優れているかではなく、それぞれの環境に適応した結果です。
アンモニア排出の仕組みが違うので、それぞれ抱えている弱点が変るということです。▶淡水魚の場合:「イオントラッピング)」
淡水環境は、魚の体液に比べてナトリウムイオン(Na⁺)が極端に少ない環境です。本来、細胞はNa⁺を取り込むエネルギーを利用してアンモニアを排出しますが、淡水ではそのNa⁺が不足しています。
その代わり、淡水魚はエラ周辺の水をわずかに「酸性化」させる能力を進化させました。
排出されたアンモニア(NH₃)は、水中の水素イオン(H⁺)と即座に結合して毒性の低いアンモニウムイオン(NH₄⁺)に変わります。イオン化したアンモニアは脂溶性を失うため、エラの細胞膜を通って体内に逆戻りできなくなります。これを「イオントラッピング」と呼び、淡水魚はこの化学的な仕組みを利用して、エネルギーを節約しながら効率よく毒(アンモニア)を体外へ排出しています。
▶海水魚の場合:「塩分排出への便乗(リーク排出)」
海水環境は、大量の塩分(無機のイオン)が含まれる世界です。海水魚は、飲み込んだ海水の「過剰な塩分」を排出するために、エラで常に莫大なエネルギー(ATP)を使ってイオンポンプ(Na⁺/K⁺-ATPase)をフル稼働させています。
海水魚のアンモニア排出は、この「塩分を強力に押し出す流れ」や「イオン濃度の勾配」に便乗する形で行われています。
しかし、ここには致命的な弱点があります。病気やストレスで魚の体力が落ち、塩分排出ポンプを動かすエネルギーが不足すると、道連れになる形でアンモニアの排出量も低下してしまうのです。
海水魚が弱るとすぐに危険な状態(アンモニア中毒)になりやすいのは、このように「塩分排出」と「アンモニア排出」が運命共同体となっているためです。
▶飼育するにあたって押さえておきたいポイント
【淡水水槽】
「pHと水質の維持」が鍵になります。
pHが急上昇すると酸性トラップが機能しなくなり、アンモニアが体内に逆流しやすくなります。【海水水槽】
「魚自身の体力(代謝エネルギー)」が排出(アンモニア処理)の鍵です。
体力が落ちてしまった個体ほど、急性アンモニア中毒のリスクが高まります。水生爬虫類・両生類:丈夫に見えるがゆえの落とし穴「アンモニア・亜硝酸中毒への警鐘」
カメなどの水生爬虫類や、カエル・イモリなどの両生類もまた、複雑な脳を持つ脊椎動物であるため、アンモニアは猛毒の神経毒として作用します。
しかし、魚類と異なり、両生類の多数は成長するとエラから肺呼吸に移行して陸に上がり、爬虫類も肺呼吸のうえ皮膚も魚より丈夫な角質で覆われているため、エラからアンモニアを取り込むリスクは魚ほど高くありません。
ですが、これが逆に大きな落とし穴となります。
「カメは水が汚れていても死なない」という誤解から、投げ込み式フィルターのような簡易的なろ過設備だけで飼育されがちですが、これは非常に危険です。
水生爬虫類と両生類は魚よりもはるかに水を汚します。
カメの場合、一般的には同サイズの大型魚の4倍以上水を汚すと言われ、「ある種の魚が1週間で出す排泄量を、水棲ガメは1日で出す」と例えられることもあるほどです。▶水生カメ・トカゲ
急性中毒で即死することは少なくても、高濃度のアンモニアは目や皮膚の粘膜を焼きます。
目が白く腫れたり、皮膚病が治らないのはアンモニアによる化学熱傷が原因であることが多いのです。
※水質の酸性化を抑えるためにカキ殻などを入れている場合、pHの上昇により粘膜腐蝕作用のあるNH₃の割合が増えます。また、表皮からの吸収はほとんどありませんが、飼育水にアンモニアや亜硝酸が大量に含まれている場合、これを「飲み水」として摂取することで消化器官から一気に吸収し、急性中毒に陥ってしまう可能性があります。
さらに急性アンモニア中毒に加え、急性亜硝酸中毒を併発すると、血液が酸素を運べなくなるメトヘモグロビン血症により、酸欠で窒息してしまいます。
水生カメやトカゲは、飲んだ水に含まれるアンモニアと亜硝酸を消化器官から吸収してしまいます ▶両生類
カエルやイモリは皮膚呼吸への依存度が高く、皮膚からの透過性が高いため、魚に近いレベルでアンモニアと亜硝酸の影響を受けます。皮膚からの吸収量は多い一方で、魚のエラのように特化した効率的な排出システムだけに頼ることが難しいため、水生の両生類は脊椎動物の中でも特に水質悪化に弱いといえます。両生類は飲み水と、エラを含む体表の粘膜部からもアンモニアと亜硝酸を吸収してしまいます また、急性アンモニア中毒にならなくても、微量のアンモニアを吸収し続けることで、慢性的な中毒状態に陥ることがあります。この場合、たいていは飼い主が気づかないうちに、じわじわと内臓や神経を蝕まれていくため、定期的な水質チェックは欠かせません。
水生爬虫類と両生類に共通する特徴として、一度体内に取り込んでしまったアンモニアを外部に排出する能力は魚に比べて低いため、ひとたび急性アンモニア中毒を発症した場合、魚よりも重篤な症状に陥りやすい傾向があります。
▶水生爬虫類・両生類を長期飼育するために押さえるべきポイント
ショップなどでは、プラケースにエアレーションのみといった簡素な設備でストックされていることがありますが、これは水換えと掃除を行うメンテナンスを「毎日」行っているからこそ維持できる環境です。実際の飼育下で、水生爬虫類や両生類に健康で長生きしてもらうためには、水を汚す大型魚のろ過システム以上に、強力で余裕のある生物ろ過環境を用意することが推奨となります。
さらに、両者ともに亜硝酸中毒にも弱い傾向があるため、水生カメやトカゲ、ウーパールーパーやサンショウウオなどの水生有尾類、水生カエルを健康に飼育するためには、アンモニアおよび亜硝酸を処理するろ過(硝化バクテリアを機能させる好気性ろ過)をしっかり構築することが何よりも重要となります。
脳神経よりも代謝阻害のダメージが大きい生物(甲殻類・貝類)

脊椎動物では、脳浮腫によるダメージが深刻化しやすい一方で、脳神経系を持ちながらあまり影響を受けにくいのがエビなどの甲殻類や貝類などです。
これらは脊椎動物ほど脳神経系が複雑化しすぎておらず、また構造などの仕組みも異なることから、脳浮腫の症状はほとんど起こりません。
ですが、甲殻類では脱皮不全など、体の代謝系へのダメージが大きく出ることになります。
エビ・カニにおける「脱皮不全」のリスク
アンモニアによる浸透圧調整の崩壊は、甲殻類において致命的な「脱皮不全」を引き起こします。
甲殻類が脱皮をして殻を脱ぎ捨てる際、体内に大量の水を取り込み、その圧力(膨圧)を利用して内側から古い殻を割る必要があります。 しかし、アンモニアによって浸透圧調整が正常に働かず、適切な水分調整ができなくなると、体を膨らませるための十分な圧力を生み出せなくなります。
その結果、古い殻を割ることができず、脱皮の途中で殻に閉じ込められたまま力尽きてしまいます。
甲殻類は体内の浸透圧を微調整できなくなると脱皮不全を起こしやすくなります
あくまで、脊椎動物である魚に比べ、急性の神経症状に陥りにくいというだけであり、決して無害ではありません。
どちらかといえば、甲殻類にとってアンモニアは「代謝毒」として静かに、確実に命を奪いにくる存在です。
浸透圧調整の失敗による「脱皮不全」は、アンモニア濃度上昇時によく見られる死因です。
エビや貝類は、一見問題なく生きているように見えてもアンモニア中毒により深刻な代謝異常を発症している可能性があるため、飼育管理には慎重な注意が必要になります。
複雑な脳神経系を持たない水生生物(サンゴ・藻類・海草)

脳神経系を持たないサンゴやイソギンチャクなどの無脊椎動物、藻類、植物などに対しては、即効性の神経毒としての影響が出ることはほとんどありません。
むしろ、光合成を行うサンゴ(と共生する褐虫藻)にとって、アンモニウムイオン(NH₄⁺)は効率の良い窒素源(栄養源)としての側面すら持っており、特に藻類にとっては重要な栄養源といえます。
※アンモニウムイオン(NH₄⁺)は硝酸塩(NO₃⁻)と比べて、窒素源として効率の良い物質でもあるため、コケ(藻類)の増殖効率も上がります。
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しかし、これは「適量であれば」の話です。
アンモニウムイオン(NH₄⁺)過剰による浸透圧調整の異常は、シンプルな体構造の生物でも致命的な影響が出ることがあります。
特にサンゴやイソギンチャクにおいては表皮が薄く、NH₃の侵入による影響も大きいため、代謝阻害によるダメージに加えて、表皮のただれなどの外傷も現れやすい傾向があります。サンゴにとっては神経毒ではなく、体組織を内から徐々に蝕む代謝毒と表皮を傷つける溶解毒として機能します。
また、ひとくちにサンゴといっても種類によってアンモニア耐性は大きく変わります。
LPSやソフトコーラルでは比較的高いアンモニア耐性を持っている種類もいますが、ミドリイシなどは急激なアンモニア濃度の上昇には非常に弱いことが知られています。
そしてサンゴのアンモニア耐性は、種類の違い以外にも、健康状態によって大きく左右されている可能性が示唆されています。※サンゴの窒素源としてのアンモニアの利用については別記事で解説予定です。
さらに過剰な窒素源は共生する褐虫藻の異常増殖を招き、サンゴの色素が破壊され茶色くなる「ブラウニング」を引き起こすほか、生理バランスの崩壊による白化リスクも高めます。
このように、アンモニアは生物の種類や生息する環境によって、毒性の性質が大きく変わることがあるのです。
アンモニア中毒が疑われる場合の対処法
「魚が水面で口をパクパクさせている」「狂ったように泳ぎ回る」「底で横たわり呼吸が早く荒い」。
もし、これらの症状が見られ、試薬検査で高濃度のアンモニアが検出された場合、事態は一刻を争います。
硝化バクテリアの増殖を待つ時間はありません。
物理的・化学的手段を用いて、直ちにアンモニアを除去する必要があります。
即座に行うべき応急処置は以下の4つです。
| ①大量の水換え、別容器への隔離(アンモニアの希釈) |
最も確実かつ即効性のある手段です。水中のアンモニア総量を物理的に減らします。
水槽全水量の1/3〜1/2程度の水を換えるか、水温とpHを合わせた新しい水を入れた別容器に魚を隔離させます。
【※注意点】
新しい水は温度とpHを必ず合わせてください。
弱った魚にさらなるショック(水温とpHショックなど)を与え、最期の一押しになってしまう危険性があります。
| ②アンモニア中和剤・除去剤の投入 |
市販のアンモニア中和剤を使用し、毒性の強い遊離アンモニア(NH₃)を無毒化します。
あくまで一時しのぎですが、根本解決までの間、生体のダメージを軽減する時間を稼げます。
万が一のアンモニア中毒の発症に備えて常備しておくと安心かもしれません。

亜硝酸も無害化します

カルキ抜き+アンモニア無害化
【※注意点】
一般的なアンモニア試薬は、含まれるアンモニア体窒素(NH₃とNH₄⁺)の総量(TAN=Total Ammonia Nitrogen:全アンモニア量窒素)を検出します。さらにアンモニア試薬は、NH₃とNH₄⁺以外にも中和剤で無害化されたアンモニア化合物まで区別することなく、まとめて「アンモニア」として検出してしまいます。
中和剤を使用してすぐは、実際には無害化されているものの、アンモニア試薬では検出される状態になっているため、絶対に製品の規定量以上は投入しないようにしてください。
| ③エアレーションの強化 |
アンモニア中毒の魚はエラが損傷し、酸素を取り込む能力が著しく低下しています。
通常よりも強めにエアレーションを行い、溶存酸素量をなるべく高めることで呼吸をサポートします。
また、アンモニア中毒が発生した時点で亜硝酸中毒も併発している可能性があります。
亜硝酸中毒は重度の酸欠症状を引き起こすため、エアレーションを施し、少しでも酸素を摂り込める状況を作ることが重要です。
【※注意点】
エアレーションの勢いで魚が流されてしまうほど強くする必要はありません。
水流に逆らうために体力を消耗し、魚がさらに弱ってしまう可能性があります。
| ④給餌の一時中断 |
エサの消化吸収には、莫大な酸素とエネルギーを消費します。
また、エサの代謝自体が新たなアンモニアの発生源となってしまいます。
解毒のためにエネルギー(ATP)を使い果たしている内臓を休ませ、残された体力を「消化」ではなく「解毒と身体の修復」に集中させる必要があります。
本水槽でアンモニアが検出されている場合は、硝化細菌が充分に増えて活動してくるまで給餌は3日ほど休止して、水質の変化を確認しましょう。
隔離水槽に移した場合も最短でも3日ほど絶食期間を設けて、急性アンモニア中毒の症状が緩和してきているかを観察してください。
症状の回復が見られたら一度にたくさん食べさせるのではなく、ごく少量ずつ与えて数日かけてエサの量を元に戻していきましょう。
【絶食期間を設ける理由】
隔離水槽の水質が完璧でも、魚の体(特にエラと内臓)はすでにダメージを受けています。
この状態で餌を与えてはいけない最大の理由は、「体内の酸素欠乏」を防ぐためです。
▶エサの消化には大量の酸素を使う⇒魚が餌を消化・吸収する際、大量の酸素を消費します。
▶エラの機能不全 ⇒アンモニア中毒の魚は、エラの細胞が壊死・腫れを起こしており、酸素を取り込む能力が極端に低下しています。
▶負の連鎖 ⇒「酸素を取り込めない状態」で「酸素を大量消費する食べたエサの消化」をさせると、魚は体内で酸欠になり、トドメを刺すことになりかねません。したがって、「エネルギー補給」よりも「臓器の安静と修復」を最優先するために、最低3日は胃腸を休ませる必要があります。
予後について
ただし、これらの処置を行ったからといって、必ずしも全ての生体が助かるわけではありません。
前述の通り、アンモニアによる「脳細胞の壊死」や「エラの変性」は、ある一線を超えると不可逆的(元に戻らない)なダメージとなります。 一度破壊された神経組織や、焼けただれたエラは、きれいな水に戻したからといって即座に再生するものではありません。
また、弱った生体が水換え後に死亡してしまうことがありますが、これは単純に水換えのショックだけではなく、「処置をした時点で、すでに致死的なダメージを負っていた(手遅れになっていた)」ケースも少なくありません。
それでも、私たちは諦めるわけにはいきません。
魚の自己修復能力が、ダメージを上回ることに賭けて、環境を整える。
それが、飼育者である私たちが果たすべき役割なのです。
まとめ:アクアリウムにおけるアンモニアの毒性について
アンモニアは水質(pH)と生物の種類によって、異なるメカニズムで生体を死に至らしめます。
| アンモニアの毒性 | 水のpHが高くなるほど毒性が強くなる。(pH8以上) ⇒脊椎動物の脳とエラを破壊し、即効性の猛毒として作用する。 ⇒シンプルな体構造の生物には遅効性の代謝毒として作用する。 |
これらの毒性メカニズムを理解することは、トラブルが起きた際の原因究明や、飼育環境(淡水か海水か、など)に応じたリスク管理に役立ちます。
定期的な水質検査を行い、目に見えない毒の蓄積を見逃さないことが、アクアリウムの成功への第一歩となります。
しかし、最も重要なのは、アンモニアと亜硝酸を速やかに無害な「硝酸塩」へと変えてくれる強力な濾過バクテリアのコロニーを水槽内に構築することです。
次回は、このアンモニアがバクテリアに硝化される過程で生じる亜硝酸の毒性について詳しく解説していきます。



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