ウスカワイソギンチャク / Bubble-Tip Anemone

ウスカワイソギンチャク、マリンアクアリウムを楽しまれている方でも聞きなれない名前かと思います。

本種はサンゴイソギンチャクやタマイタダキイソギンチャクに非常に近縁、もしくは同種として扱われるイソギンチャクです。多くのマリンアクアリストにとっては姿はよく見かけていても、本来の名前は知らないという方も少なくないかと思われます。

今回はサンゴイソギンチャクグループ第3弾として、そんなちょっと謎の多いウスカワイソギンチャクについて解説していきます。

基本情報

サンゴイソギンチャクにそっくりな姿をしていますが、触手の模様で見分けることができます
流通名ウスカワイソギンチャク
学名Entacmaea quadricolor
別名バブルチップアネモネ
分布房総半島以南~オーストラリア北部までの太平洋、インド洋
グループイソギンチャク
飼育しやすさ★★★★☆
共生イソギンチャクとしては飼育しやすい部類
入手しやすさ★★★★★
よく見かける
※サンゴイソギンチャクの名前で販売されることも

日本近海(黒潮海域)にも生息しているイソギンチャクで、クマノミと共生していることで知られる共生イソギンチャクの一種です。本種もサンゴイソギンチャク同様に英名ではバブルチップアネモネと呼ばれ、太平洋からインド洋まで広く分布している広域分布種です。

外見の形状はサンゴイソギンチャクにそっくりですが、触手の模様が異なることで見分けられます。

サンゴイソギンチャクとウスカワイソギンチャクの見分け方

触手形状はほぼ同じですが、サンゴイソギンチャクには途切れない線状模様が入るのに対し、ウスカワイソギンチャクは「点線のような破線」、もしくは「ランダムな細かいスポット模様が入る」という違いがあります。

サンゴイソギンチャク
触手に途切れない線状の模様が入る
ウスカワイソギンチャク
触手に破線、もしくはランダムなスポット模様

性質の面では、房総半島まで分布が見られるサンゴイソギンチャクと比べるとやや南方系の種類でもあることから、サンゴイソギンチャクよりもタマイタダキイソギンチャク寄りと言える面があります。

本種も学術的には複雑な扱いをされるイソギンチャクで、日本国内ではEntacmaea quadricolorとしてサンゴイソギンチャクとは別種として扱われることが多いですが、海外ではバブルチップアネモネEntacmaea quadricolorの代表的なパターンとして扱われることが多いようです。

※海外では下記の3種は同種(Entacmaea quadricolor)として扱われています
サンゴイソギンチャク
E. actinostoloides
タマイタダキイソギンチャク
E. ramsayi
ウスカワイソギンチャク
E. quadricolor

この3種類は同種と扱われる見解もあることから、自然下ではそれぞれが交雑したと思われるハイブリッドな特徴を持つ個体も見られます。

ウスカワ×サンゴイソギンチャクと思われる個体
※線状と破線状の模様が混在
ウスカワ×タマイタダキと思われる個体
※タマイタダキの触手形状+ウスカワの模様

このようにサンゴイソギンチャクグループがEntacmaea quadricolorとして1種であるという説については、こうした交雑しやすい一面から、形状の差異をそれぞれ独立した種類ではなく「個体としての個性」もしくは「地域個体群程度の差異」であるという主張も存在しています。

カラーバリエーション

ウスカワイソギンチャクも非常に多岐に渡るカラーバリエーションが存在しています。
先述のとおり、なかにはハイブリッド個体と思われるものも多々見かけることがあります。

その一部を紹介します。

ピンク&グリーン
イエロー&ホワイトラメ
グリーン&イエローチップ
ピンク&ホワイトラメ
レッド
レインボー
オレンジ&ピンクチップ
レッド&グリーン

本種のRFP(蛍光レッドたんぱく質)について

ウスカワイソギンチャクが持つGFP(蛍光グリーンたんぱく質)からRFP(epFP611)に変化している途中の様子

本種が持つeqFP611という蛍光レッドたんぱく質は高水温に弱く、28℃以上で退色してしまうことが知られています。レッド系のカラーをより美しく出したいのであれば、性能の高い水槽用クーラーを使用して水温の上下が少ない安定した環境を用意するようにしましょう。

また、このeqFP611は光量をあまり必要としないとも言われていますが、励起波長が559nm(ショルダーが525nm)となっているため、イエロー~グリーンの間の光を当てることで蛍光レッドの発色が強まるようになります。

一般的なブルー系照明のスペクトルとeqFP611の励起波長との比較

飼育要件

自生地の環境 / Habitat Sea Area
給餌は少なめ
栄養剤の使用や給餌が有効

光合成のみでは栄養が不足しやすい面があります。
給餌や栄養剤の使用で調子が上がりやすくなります。


適正水温 / Water Temperature
高めの水温
標準的な水温
低めの水温
深海性

一般的なサンゴが好む水温を維持します。
・赤い蛍光色を持つものは水温が28℃を超えないようにする
・海外産の個体は低水温に弱い傾向があり、18℃を下回ると体組織が壊死してしまうことがあります。


光色のセッティング / Lighting Spectrum
水深10m未満
水深10-30m
水深30-50m
水深50-80m
PARの目安100~150

光量は弱~中程度。光が強すぎると強光障害を起こす可能性があります。
・赤い蛍光色を持つ持つ個体は559nm周辺の緑色光を増やしましょう。


水流 / Water Flow
サンゴが左右に揺れる水流
澱みのないランダム水流
太くて強い水流

コントローラー付きサーキュレーターの使用推奨。触手が左右に揺れるような水流を作りましょう。
・水槽内をよく移動するため、サーキュレーターに吸い込まれないようにガードを付けましょう。


エサの種類とサイズ / Feeding Menu
液体
パウダーサイズ
顆粒サイズ
ペレットサイズ

動物質中心で消化吸収しやすいサイズのエサを与えます。
給餌の頻度は2~3日に一度程度を目安に。給餌量は残餌が出ない程度の少量に留めます。


リーフタンクにおける飼育のポイント

基本的なセッティングは一般的なソフトコーラルが飼育できている環境であれば大丈夫です。
しかし、長期飼育を成功させるためにはいくつか押さえておかなければならないポイントがあります。

サーキュレーターに吸い込まれないようにガードを付ける

ウスカワイソギンチャクとその近縁種は、イソギンチャクの仲間としては頻繁に動き回る性質を持っています。落ち着ける環境がないと水槽内のあちこちを動き回っていきます。

ガラス面にも張り付いて移動できることから、その際にサーキュレーターやフィルターのストレーナーに吸い込まれて体がズタズタに引き裂かれてしまう事故が起きてしまいます。

移動中にサーキュレーターのスリットに吸い込まれるとインペラーで裁断される事故が起きてしまいます

体力がある個体であれば少しの傷ができても回復する可能性はありますが、大型で強力なサーキュレーターを使用している場合はプロペラに触れてバラバラにちぎれて死んでしまうこともあります。

そのため、サーキュレーターやフィルターなどの吸い込み口は必ず細かいネットで覆うなどしてウスカワイソギンチャクが吸い込まれないようにガードを付けてください。

適度な給餌と栄養剤によるトリートメント

サンゴからイソギンチャクまで幅広く使える栄養剤
レッドシー「リーフエナジーAB+」

イソギンチャクの飼育で問題になりやすいのは栄養不足です。
ウスカワイソギンチャクの体内には褐虫藻がおり、光合成による栄養を供給してもらう共生関係を持っています。

しかし、水槽内では栄養が不足しやすい傾向があるため、徐々に体が小さくなったり、表皮が弱くなることで病気に罹りやすくもなってしまいます。また、ウスカワイソギンチャクの仲間はよく動き回ることから、代謝が高めで体力の消耗も早いイソギンチャクであるということを押さえておく必要があります。

クマノミと一緒に飼育しているのであればクマノミがエサを運んでくれることもありますが、イソギンチャクが小さくなったり弱った素振りがあれば、給餌を行ったり栄養剤によるトリートメントを行いましょう。

白化個体のトリートメント

また、海外のシッパーから輸入されたウスカワイソギンチャクに顕著ですが、褐虫藻がほとんど抜けてしまった白化個体が多く見られます。

見た目は透明感があり、とても美しいのですが褐虫藻が少ないことで光合成による栄養供給はほとんど見込めないことから、飼育難易度はやや上がります。

褐虫藻が抜けたホワイトタイプ(白化個体)
褐虫藻が多くいる個体は濃い褐色になります

特に白っぽい個体や透明感が強い個体は褐虫藻が非常に少ないため、人の手により栄養剤の投与や給餌を行うことで生存に必要な栄養を供給する必要があります。

よく見かける失敗例としては褐虫藻の保有量が少ないクリアカラー個体を光合成のみで飼育しているパターンで、必要な栄養が得られず弱っていってしまいます。そういった褐虫藻の保有量が少ない個体ほど、給餌や栄養剤投与の重要性が上がります。

ウスカワイソギンチャクが必要とする栄養がしっかり摂れているかどうかが、本種の長期飼育を成功させるための最も重要なポイントと言っても過言ではありません。

ある程度、給餌を行っていくと褐虫藻が徐々に増えてくるので、そうなれば栄養剤の投与や給餌の頻度は減らしても大丈夫です。

他種との混泳について

イソギンチャクの仲間は、触手に刺胞毒があるため、遊泳する空間がない場合は、弱い魚や甲殻類の仲間は影響を受ける可能性があります。ウスカワイソギンチャクは刺胞毒はあまり強く無い部類に入りますが、まれに体力が落ちた小魚やエビなどが食べられてしまうことがあります。

とはいえ、基本的には健康な魚やエビであればほとんど心配はありません。

大きな魚やクマノミなどがいない水槽ではイソギンチャクと共生するカクレエビの仲間を入れることで、クマノミとは違った興味深い共生を見ることもできます。

イソギンチャクと共生するエビの一例
イソギンチャクモエビ
カザリイソギンチャクエビ
イソギンチャクカクレエビ

共生するクマノミの仲間

ウスカワイソギンチャクはクマノミ類との共生をすることでも知られおり、数種類のクマノミ類と一部のスズメダイの仲間がイソギンチャクと共生します。

ただし、個体差や環境、そして、相性があるようで必ずしもイソギンチャクに入るというわけではありません。

ウスカワイソギンチャクにはナミクマノミ、ハマクマノミ、スパインチークアネモネフィッシュなどが好んで共生する傾向があります。

ナミクマノミ
ハマクマノミ
スパインチークアネモネ

一般的にカクレクマノミの野生採集個体はサンゴイソギンチャクに好んで入らないことが多く見られます。
ウスカワイソギンチャクは形状がサンゴイソギンチャクとほぼ同じですが、生息海域は南方系でカクレクマノミと生息海域が被ることがあるタマイタダキイソギンチャクと重なります。
※クマノミの仲間とイソギンチャクの種類ごとの相性は、生息海域が被るかどうかで大きく左右されます。

そのため、ウスカワイソギンチャクのクマノミとの相性はタマイタダキイソギンチャクとほぼ同じと見てよいでしょう。

飼育しているカクレクマノミが採取個体であれば、サンゴイソギンチャクよりもウスカワダキイソギンチャクを選ぶと入ってくれる可能性は上がります。

一方、カクレクマノミのブリード個体であればイソギンチャクの種類をえり好みしない個体が多く見られます。
ブリード個体を飼育されているのであればサンゴイソギンチャク、タマイタダキイソギンチャク、ウスカワイソギンチャクの3種類からお好みで選んでいただいても大丈夫です。

イソギンチャクと混泳要注意の海水魚

人気のあるヤッコやチョウチョウウオの仲間にはサンゴなどを食べるポリプ食性のものがいます。
その中でもイソギンチャクを好んで食べるような種類と一緒にすると、ウスカワイソギンチャクの触手が食べられてしまうこともありますので、混泳させる魚種には注意しましょう。

チョウチョウウオの仲間
ヤッコの仲間
カゴカキダイ

低水温に注意

海外から輸入されてくるウスカワイソギンチャクは、実質海外産のタマイタダキイソギンチャクとほぼ同じ性質を持っており、同様に低水温に弱い傾向があります。

特に海外から輸入されてくるフィリピン産やインドネシア産の個体に顕著で、水温が18℃を下回ってしまうと体組織が壊死しやすい傾向があります。この症状が出ると、内臓から溶けるようにして崩壊していきます。

内臓からの壊死が進行するタマイタダキイソギンチャク
※ウスカワイソギンチャクでも同様の症状が出ます

外側が一見元気に見える状態であっても、内臓にこのような溶けの症状が少しでも出ていると助かりません。

そのため、冬場の水換え時にバケツへ避難させるときや、ショップで購入してからの帰り道など、水温が18℃以下になってしまわないように注意しましょう。

この低水温に弱いという特徴は海外産に顕著ですが、沖縄産であれば若干の低温耐性があり、体力がある個体であれば16℃程度まで耐えることができます。

それでもサンゴイソギンチャクに比べれば低温に弱いことには変わりませんので、冬場のメンテナンス時における取り扱いには低水温に晒されないようにしてください。

ウスカワイソギンチャク まとめ

美しいラメ模様入りのレッドタイプ

ウスカワイソギンチャクは姿形はサンゴイソギンチャクそっくりですが、性質はタマイタダキイソギンチャクに近いイソギンチャクです。とはいっても大きな違いがあるわけではなく、日本近海産のサンゴイソギンチャクと比べて「低温に弱い」と「カラーバリエーションがさらに多い」という点が異なる程度です。

海外からサンゴイソギンチャクの名前で輸入されてくるイソギンチャクは本種であることが多く見られます。
特筆すべきはカラーバリエーションの豊富さで、蛍光グリーンや蛍光レッドだけでなく、蛍光イエローや本種に特有の白いラメ模様の入った個体なども見ることができます。

中には単純なカラーバリエーションだけでなく、サンゴイソギンチャクやタマイタダキイソギンチャクと自然下で交雑したと思われるハイブリッド個体なども見られ、個性が非常に際立つイソギンチャクとも言えます。

クマノミのベッドとして微笑ましい様子を楽しむも良し、カラーバリエーションをコレクションして色揚げを楽しむのも良しと、ビギナーからハイマニアまで幅広く楽しめるイソギンチャクです。

ぜひ、お気に入りの個体を探してみてください。

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