ハードコーラルを調子良く育てるには安定したKH(炭酸塩)とカルシウム濃度が重要です。
一般的なサンゴには添加剤などを使って補われる方法もありますが、ミドリイシなどのデリケートなサンゴの仲間はKHやカルシウムをはじめとした元素濃度の急激な変化を好まないことから一定の値を保つことが重要です。
そこで使われる機材がカルシムリアクターとドーシングポンプ。
今回はカルシウムリアクターの構造や設置の仕方など、基本部分にスポットを当てて解説していきます。
目次
カルシウムリアクター概要
カルシウムリアクターはメディアとなるアラゴナイトロック(サンゴ礫)を二酸化炭素を使って溶かす装置です。
サンゴの骨格を構成するアラゴナイトは炭酸カルシウム(CaCO3)を主成分としていますが、炭酸カルシウムは水に対して難溶な性質を持つためそのままでは水に溶けません。ですが、二酸化炭素(CO2)が溶けこんだ水と反応して炭酸水素カルシウム(Ca(HCO3)2)になることで水に溶けるようになります。
その用途は主にミドリイシやコモンサンゴといったSPSと呼ばれるハードコーラル育成用に使われます。
では、なぜカルシウムを供給するのにこんな大掛かりな装置を使うのか?
それは主に次のような理由があります。
- ミドリイシなどのSPSの仲間は成長が早く、骨格形成に必要な元素の消費量が大きい。
- SPSの仲間は大きなKHの変動を嫌うため、安定した炭酸塩とカルシウム濃度を保つことが重要。
- 添加剤での元素供給はコストがかさみ、手動添加ではKHの値が変動しやすくなってしまう。
これらの問題を解決するために考案された装置がカルシウムリアクターです。
つまり「SPSの仲間が健全に育つ環境構築」と、「メンテナンスの手間と添加剤のコストを大きく減らす」ことの両立がカルシウムリアクター使用の最大の目的と言えます。
カルシウムリアクターの使用が適しているサンゴの目安
カルシウムリアクターの使用が推奨されるサンゴは、「骨格形成に必要な元素を大量に消費するハードコーラル」と「水質の変化に過敏な種類のサンゴ」が挙げられます。これらのサンゴ飼育が上手くいかない場合はカルシウムリアクターを導入してみるのもひとつの手になるでしょう。
カルシウムリアクター本体の構造と仕組み
カルシウムリアクターはさまざまなメーカーのものが流通していますが、基本構造はほぼ同じです。
主に下図のような構造になっている製品が多く見られます。
カルシウムリアクターの構造の核となるのは「CO2を溶かしこんだ水をチャンバー内に循環させてアラゴナイトメディアと反応させる」という部分です。アラゴナイトは炭酸カルシウムを主成分としており、CO2が溶けた水と反応することで徐々に溶かされていきます。
このように炭酸水素カルシウムCa(HCO3)2が溶けたチャンバー内の水を少しずつ本水槽内へ戻すことにより、KHとカルシウムイオンを供給するという仕組みになっているのです。
カルシウムリアクターの設置
カルシウムリアクターを設置するにあたっては、本体以外に追加で準備する必要がある器具が存在します。
別途購入が必要な用品は主に下記の2種類です。
- CO2ボンベとレギュレーター
- 本水槽へ接続する配管部品類
これらを含まない製品が多いため、本体のみでの単独使用はできません。
特にCO2ボンベとレギュレーターは別途必要になることが多いので注意が必要です。
配管部品については製品によって内容が異なるため、購入前に事前に確認しておきましょう。
CO2ボンベとレギュレーター
まず必要なものはカルシウムメディアを溶かすためのCO2供給元です。
これは水草水槽用のCO2添加キットでも問題ありません。
基本的にはカルシウムリアクター内への直接添加となるため拡散筒などは必要なく、レギュレーターとボンベを用意すれば大丈夫です。近年では電磁弁一体型のレギュレーターなども比較的安価で流通するようになってきたため、そういったものを使用することで初期コストを抑えることもできるようになってきました。
また、従来の充填式高圧ガスボンベだけでなく「クエン酸と重曹を使った化学反応式CO2ジェネレーター」などもあります。近場に業務用CO2ボンベ(通称:ミドボン)を借りられる酒屋さんなどがない方は、こういった製品を使用することでランニングコストを抑えることも可能です。
給水側の分岐
カルシウムリアクターへの給水は循環ポンプの配管から分岐して接続します。
※今回はオーバーフロー水槽でのセッティングを前提とした接続となります。
主に必要になるものは下記の4種類の部品です。
配管部品は接続部のサイズが共通しているものを選びます。
接続の規格はカルシウムリアクターの製品によって変わるものがあるため、必ず確認しておきましょう。
これらの部品を使い、下図のように配管して分岐します。
また、メールコネクターの代わりにメールコネクターと一体になったメールボールバルブがあればそれを使用しても問題ありません。
処理水の添加場所について
カルシウムリアクターでの処理水には溶存CO2が含まれています。
炭酸カルシウムがCO2と反応するにはpHが 6.1 ~ 6.5ほどである必要があり、アラゴナイトメディアを溶かした処理水のpHは約6.0前後になっていることが多いため、そのまま本水槽に直接添加するとpHの低下を招きます。
そのため、処理水はサンプ内に添加して余分なCO2を抜くようにします。
残留CO2をしっかりと抜くには、カルシウムリアクターからの排水チューブ先端をプロテインスキマーの吸水口付近に設置して処理水がプロテインスキマーに吸い込まれるようにセッティングしてください。
プロテインスキマー内の曝気により溶存CO2が気中へ放出され、処理水のpHが7~8前後まで上がるようになります。
出水側に使用するバルブはボールバルブでも大丈夫ですが、添加量を細かく調整したい場合はニードルバルブを使用しましょう。ボールバルブは開閉が容易な構造をしていますが、その反面に微細な調整を苦手としています。
KHを上げすぎないように添加量を微調整するのであれば、ニードルバルブが使いやすくオススメです。
水槽への添加量は飼育しているサンゴの種類と総量により変わります。
その目安はKHの試薬などを用いて算出しますが、それについては別記事で解説しますので公開までお待ちください。
カルシウムリアクターに使うメディア
カルシウムリアクターに使うメディアは大粒のサンゴ礫、もしくはサンゴの骨格から形成されたアラゴナイトの石灰岩を使用します。これはカルシウムだけでなく、マグネシウムやストロンチウムといったハードコーラルが骨格を形成するために必要な微量元素を供給するのが目的です。
ひとくちに石灰岩といってもさまざまな種類がありますが、その中でカルシウムリアクターのメディアに最も適しているものがアラゴナイトです。アラゴナイトは石灰岩のなかでも最も水に溶けやすい結晶構造をしており、また上記のようにマグネシウムやストロンチウムといったカルシウム以外の微量元素もわずかに含みます。
同じ石灰岩でもカルサイトやマグネシウムを多く含むドロマイトなどはアラゴナイトよりも水に溶けにくい結晶構造をもっており、カルシウム以外の微量元素の量や比率も形成の元になった年代と生物の種類によって変わります。
リーフタンクのカルシウムメディアとして適しているのは、新生代以降に形成されたサンゴの骨格や貝殻を元に形成されたアラゴナイト石灰岩です。これらは現生のサンゴに近い種類の骨格から形成されているため、サンゴの骨格形成に必要な元素を供給できるというメリットがあります。
また、飼育しているサンゴの種類や海藻なども加えたリーフタンクではマグネシウムの消費が進むこともあります。そういった水槽用にマグネシウムの含有量が多いメディアもありますので、飼育生体の種類と収容数に応じてメディアをブレンドして使用するとよいでしょう。
カルシウムリアクターのメンテナンス
カルシウムリアクターは長期間稼働させているとチャンバー内にスラッジ(汚泥)が蓄積していきます。
これは炭酸カルシウムが再結晶化して沈殿し、それらの粒子表面にバクテリアによるバイオフィルムが形成されたものです。
このスラッジがチャンバー内のメディアの隙間に堆積してくると、メディアの溶解効率が落ちてきます。
さらにチャンバーが透明なカルシウムリアクターは光が内部まで届くことから、メディア表面に藻類が生えてしまうこともあります。表面を覆われたメディアはCO2との接触面積も減るため同様に溶解効率が落ちます。
3か月に一度くらいの感覚で、メディアの汚れやスラッジの蓄積が目立ってきたら洗浄するようにしましょう。
メディアの洗浄は一般的なフィルターのろ材と違って、水道水で洗浄しても問題はありません。
むしろメディア表面のバイオフィルムを洗い流すことを考慮すると、カルキの含まれた水道水での洗浄が適しているとも言えます。
メディア洗浄の際に量が減ってきているようなら、新しいメディアを補充するようにしましょう。
外部式フィルターを使った廉価版カルシウムリアクターについて
カルシウムリアクターは便利な機材ですが、高価な製品が多く導入に二の足を踏んでしまう方も少なくありません。
そこで比較的気軽に導入できる外部式フィルターを使用した簡易型カルシウムリアクターもご紹介しましょう。
今回解説してきた基本構造を踏襲することで、簡易的なカルシウムリアクターを自作することも可能になります。
下図のような外部式フィルターをカルシウムリアクター化する配管キットなどもあるので、そういったものを利用するのもひとつの手ではあります。
しかし、大型水槽に対してはこの外部式フィルターを利用したシステムはあまりおすすめはできません。
その理由として、CO2の添加量が増えた場合にホース配管では圧力に耐えきれない可能性があるからです。
外部式フィルターを使ったカルシウムリアクターは60cm水槽以下の小型水槽に対して用いるのであれば、ほとんど問題はありません。しかし、90cm以上の大型水槽用に自作される場合は耐圧性能に優れた塩ビ管を配管に用いるのが良いでしょう。
メーカー製のカルシウムリアクターに高額な機種が多いのはアクリル素材によるハンドメイドが多いという要素も大きいですが、安全性の高い耐圧性能を持っている設計であるということも挙げられます。
高額な機材が高額になってしまうのはしっかりとした理由があるからなのです。
まとめ
カルシウムリアクターはハードコーラル、特にSPSを健全に育てるために必要な骨格形成に使われる元素を半自動で添加する装置です。ですが、すべてのサンゴ飼育において必須の設備ではありません。
その肝の部分はハードコーラル飼育におけるメンテナンスの手間や添加剤などのランニングコストを大きく減らすということに集約されます。
カルシウムリアクター導入の是非はご自身の飼育スタイルに応じて変わります。
ハードコーラル、特にSPS飼育がいまいち上手くいかないという方や、SPS飼育が上手くいっているものの添加剤の使用コストを減らしたいという方はカルシウムリアクターの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
カルシウムリアクターの主目的
- カルシウムを中心とした骨格成分の消費量が大きいハードコーラル(SPS)向きの装置。
- KHとカルシウム濃度を大きく変動させずに安定した環境を作る。
カルシウムリアクターのメリット
- アラゴナイトメディアにより、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウムなどの元素供給が可能。
- 添加剤使用に比べて飼育水のイオンバランスを崩しにくい。
- 必要な消耗品がメディアとCO2なので、添加剤に比べてランニングコストを大きく抑えられる。
- 半自動的な添加方式となるため、元素の添加やメンテナンスの手間を大きく省くことができる。
カルシウムリアクターのデメリット
- 高額な製品が多く、初期投資が大きくなってしまう。
- ソフトコーラル中心のリーフタンクでは過剰な設備になってしまう。
- 高度な自動化をするには、さらに設備投資をする必要がある。
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