サンゴのポリプが開かない!ときのチェック項目

サンゴを購入していざ水槽へ迎え入れる、最高にワクワクする瞬間です。
ですが、水槽へ入れてからサンゴのポリプがどうにも開かない。サンゴ飼育者であれば誰もが通る道です。

ある程度飼育に慣れた方であれば何が原因かある程度目星が付けられるかと思いますが、初心者にとってはなかなか難しいことです。せっかくワクワクしながらサンゴを水槽に入れても、元気な姿が見られなければがっかりしてしまいます。

そこで、今回はサンゴ飼育初心者のための「サンゴのポリプが開かないときのチェック項目」として、解決するためのポイントを解説していきます。

最優先チェック項目【水質】

サンゴのポリプが開かない第一の原因として、まずは水質の問題が考えられます。
以下の項目をチェックして、適切な水質を維持できているかチェックしましょう。

特に①、②、③はサンゴの命に直接関わることがあります。
まずはこちらを最優先にチェックしてください。

優先度① 塩分比重の確認

比重を精密に計れる屈折比重計
比重にプラスして水温の計測もできるデジタル比重計

サンゴに適した塩分比重は1.023~1.025です。比重計を使って定期的にチェックし、必要に応じて調整します。塩分比重が適切でないと、サンゴがストレスを感じてポリプが開かないことがあります。

比重計は使用しているうちに表示する数値がズレることがあります。
簡易的なコンパクトタイプだけでなく、屈折式やデジタル式など精度の高い比重計も数値にズレが現れることがあるため、定期的な校正が必要になります。

屈折式とデジタル式は精製水や校正液を使った構成が必要となります。
数値がズレていたら、それぞれの比重計に合わせた調整を行いましょう。

デジタル比重計は専用の校正液、屈折比重計はRO水や精製水などを使って構成します

塩分比重を正しく調整しているつもりでも、比重計がズレていて「とんでもない数値になっていた」ということは意外に見落としやすいポイントであることを覚えておきましょう。

比重計のズレに気付かなかったというミスは、実は中級者以上でも意外に多く見られる要素でもあります。

塩分比重のチェックは基礎の基礎となる要素ですので、慣れた人ほど見落としやすくなる傾向にあるとも言えます。
実際に筆者も比重のズレを見落としていた経験があります。

比重計のズレは油断せずにしっかりとチェックしておきましょう。

コンパクト比重計はズレが生じた場合、校正ができないので新しく買い直すことになります

また、コンパクトタイプには調整機能がないので、数値がズレてきてしまったら校正することができません。
数値にズレが出るようになってしまったら新しいものに買い替える必要があります。

塩の結晶が析出した影響であればよく水洗いすることで治ることもありますが、プラスチック製のものは使い続けていると可動部が摩耗したりして正常な数値を出せなくなることがあるため注意しましょう。

優先度② 水温の確認

塩分の比重と並んで、サンゴ飼育の基礎としてもうひとつ重要な要素が「水温」です。

サンゴは温帯から熱帯にかけて生息しているため、温かい水を好むように思われがちですが、実際には熱帯地域でもエルニーニョ現象などの異常高水温を除けば、30℃を超えることはほとんどありません。

多くの熱帯性サンゴが好む海水温は20~25℃の範囲であり、30℃を超えたり15℃を下回ったりすると、調子を崩して死んでしまうことが多く見られます(※下限値については、低温に強い温帯性や深海性のサンゴはこの限りではありません)。

このように、水温はサンゴの基本的な生存条件のひとつであり、塩分比重と同様に正確な数値を把握することが非常に重要です。

現在の水槽用クーラーには水温表示機能が備わっているため、別途水温計を用意しなくても水温を確認できます。しかし、クーラーの水温センサーに異常が生じ、表示される水温が実際と異なるケースもあります。

水槽用クーラーには水温表示インジケーターが付属していますが、保険のために別の水温計も用意しましょう

そのため、万が一に備えて、クーラーとは別に単体の水温計を用意し、常に正確な水温を把握できるようにしておきましょう。

用意する水温計は連続して計測できるものと、任意のタイミングで計れるものを揃えておくと安心です。
任意のタイミングで計れるものではデジタル比重計やpHメーターに水温計機能が備わっているものもありますで、そういった製品を利用するのもオススメです。

海水対応の防滴型水温計
ニチドウ マルチ水温計 H】
水温計も搭載したpHモニター
【マクロアクア PHモニター M2】
水温計測機能付きデジタル塩分比重計
防水デジタル塩分計 SAL-1700】
水温計測機能付きデジタルpH計
【マーフィード エコペーハー DUO】

優先度③ pH、KH、Ca、Mg、NO₂(もしくはNH₃)の数値

塩分比重比重に問題がないことを確認したら、次は基本的な水質の部分です。
主にpH、KH(炭酸塩)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、亜硝酸塩(NO₂)もしくはアンモニア(NH₃)などをチェックします。

基本的な水質チェックの目安
pH8.1~8.4
KH 8dKH(平均値)~12dKH(高めの設定)
Ca濃度400~450ppm
Mg濃度1250~1350ppm
NO₂(もしくはNH₃)0ppmもしくはごく僅か

水質のチェックには精度を求めるのであればデジタル式のものや試薬を使用することが推奨ですが、初心者にとっては高価でハードルが高いものも少なくありません。

最もお手軽なものでは、まとめて水質をチェックできるワンセットの試験紙などもあります。
まずはワンセットの試験紙でも充分ですので、これらを使い、水質に異常が出ていないかを確認しましょう。

ワンセットの試験紙は水質をさっとチェックしたいときに役立ちます

また、亜硝酸塩NO₂とアンモニアNH₃が検出されるようだと、ろ過バクテリア(好気性の硝化バクテリア)がしっかり機能できていないことの目安となります。

アンモニアは低濃度であればサンゴの栄養にはなりますが、高濃度になるとダメージが現れます。
そして亜硝酸塩はサンゴに対して強い酸化ストレスを与えることが知られています。

さらにアンモニアと亜硝酸は海水魚やエビなどの無脊椎動物にとっては猛毒として作用します。
この2つが検出されるということはろ過能力が不足していることの証となりますので、フィルターやプロテインスキマーの性能を強化する必要があります。

サンゴの割合、特にハードコーラルが多ければプロテインスキマーの強化を。
海水魚とソフトコーラル、イソギンチャクの割合が多ければ生物ろ過の強化を行いましょう。

優先度④ 硝酸塩、リン酸塩の数値

優先度③の水質に問題がなければ、次は硝酸塩とリン酸塩といった栄養塩のチェックです。
ですが、栄養塩に関しては極端に高い数値になっていなければサンゴが開かなくなるほどの影響はすぐには現れません。

この項目に関しては、ミドリイシなどの栄養塩に敏感なサンゴでない限りはそれほど優先度は高くありません。

それでも水換えをしばらく行っていなかった水槽などでは念のためチェックしておきましょう。

優先度⑤ 微量元素の欠乏、もしくは過剰

サンゴは体組織を作ったり代謝を行うために人間と同じくさまさまな物質を材料にします。
そして微量元素もその材料です。

微量元素が関わっている場合は、欠乏か過剰のどちらかです。
上記の硝酸塩とリン酸塩もこちらの範疇に含まれる物質です。

微量元素が欠乏する場合は、「サンゴが多い」「水換えをあまりしていない」「添加剤を使用していない」条件が重なると起こりやすくなります。「サンゴの数が程々」で「定期的な水換えをしっかり行っている」水槽では起こりにくい傾向があります。

逆に微量元素の過剰は、「添加剤を使用している」水槽で起こりやすくなります。
直前に何らかの添加剤を使用していなければ、こちらの可能性は低いといえます。

元素の欠乏と過剰の基本対策は、新しい人工海水で定期的な水換えを行うことで対応が可能です。
人工海水にはサンゴが必要とする元素がひと通り含まれていますので、海水の水換えは「不足した元素の補充」と「過剰な元素の排出」を同時に行うためのものになります。

人工海水にはサンゴが必要とする微量元素がひととおり入っています

➨水質に問題があったときは、まず水換えを

水質に問題があった場合は、まず水換えを行いましょう。
水換えによって問題のあった水質を改善し、サンゴが健康を取り戻すことができます。

「なんだかサンゴの調子が悪いな・・・」と思ったときは、まず水換えをしてみるのも有効です。
サンゴの仲間は種類にもよりますが、清浄で新鮮な海水が大好きです。

新しい海水で水換えをした直後は、なかなかポリプを開かないサンゴでもポリプを満開に開くことがあります。この反応は特にヤギの仲間などで顕著に見られます。

水換えをして水質がクリアされてもサンゴがポリプを開かないときは、別の原因があると推測できるようになります。次のチェック項目へ進みましょう。

2番目のチェック項目【水流】

水質に問題がなかったときの次のステップは水流のチェックです。

自然の海中でサンゴは大きな波に揺られることによって酸素や栄養などの代謝を行っています。
サンゴの飼育では種類に合わせた適切な水流を維持することが重要です。

水流が充分でないとサンゴは代謝が落ちて弱りやすくなってしまいます。

サンゴは水流を受けることで呼吸をしたり水中の元素を摂り込んだりしています

また、サンゴの種類によって適した水流の強弱が異なります。
サンゴの種類に応じた適切な水流を作ることが重要となりますので、まずはその点から調べていきましょう。

優先度① 水流が弱くないかを確認する

水流が弱いと、サンゴに栄養や酸素が行き渡らず、ポリプが開かないことがあります。
適度な水流を作るために、サーキュレーター(水流ポンプ)を使用しましょう。

ポリプが小さく短めなスターポリプは比較的強めの水流を好みます

また、水流を作るには単純に強いポンプを使えばいいというわけではありません。

海の中では往復するうねりのような潮の流れがあります。
これを再現するには水流コントローラー付きのサーキュレーターが必要になります。

ポリプが大きめで長く伸びるスターポリプは前後左右に揺れる波のような水流を好みます

優先度② 水流が強すぎないかを確認する

水流が弱いとサンゴの代謝が落ちてしまいますが、だからといってやみくもに強くすればいいわけではありません。

例えば、サンゴのポリプが一方向に強く伸ばされてしまうようでは水流が強すぎるため、サンゴが弱ってしまいます。強すぎるときはポンプの流量を調整したり、サンゴの配置場所を変えるなどして対応しましょう。

またサンゴの種類によっても好む水流の強弱は変わります。
基本的にミドリイシのようなポリプが小さいSPSは強い水流を好み、大きなポリプを持つLPSやソフトコーラルは左右にユラユラ揺れるようなゆったりとした水流を好みます。

LPSなどはポリプが一方向に偏ってしまうような強い水流を当て続けると弱ってしまってしまうことがあります。
水流は必ずサンゴの種類に適した強さに調整しましょう。

強すぎる水流を好まないLPSの例(ふわふわした長いポリプを持つ種類
ハナサンゴの仲間
ハナガササンゴ(ロングポリプ)

➡サンゴの種類に合った適切な水流を作る

サンゴの一般的な傾向として、ポリプの長いものは緩やかで大きく揺れるような水流を好みます。
そしてポリプが小さく短いものは水流の強い環境に生息しているものが多いため、ソフトコーラルやLPSではポリプの長さを見ることで好む水流の強さをある程度計ることができます。

似た種類であってもポリプの長さによって好む水流が変わることもありますので、これも判断基準のひとつとなります。

ウミキノコ ロングポリプ】
ゆるやかな水流を好む
【ウミキノコ ショートポリプ】
強めの水流を好む

あとは実際に水槽内へ配置して、ポリプの伸び具合で適した場所を調整しましょう。

ボルクスジャパン「Vesta Wave Slim 2」の動画で、小型水槽に適した水流の付け方を見ることができます

3番目のチェック項目【光】

水流に問題がないことが確認できたら、次は光です。
光に関しても弱すぎたり、強すぎてもサンゴにはよくありません。

サンゴの種類により、適した光の強さは変わります。

一般的にLPSは濁った海域に多く、強い光を好みません。
反対にミドリイシなどのSPSは透明度な高い海域に多く、ある程度強めの光を好みます。

LPSやソフトコーラルが多い中栄養海域】
水がやや濁り気味で、強い光が届きにくい
ミドリイシなどSPSが多い貧栄養海域
水の透明度が高く、強い光が届きやすい

この違いを把握しておくと、光の調整もしやすくなりますので覚えておきましょう。

優先度① 光色がサンゴに適しているかを確認する

近年のサンゴ用照明は、水槽サイズに応じた製品を使えば極端に弱すぎるということはほとんどありません。
しかし、一般的な熱帯魚用の照明をそのまま使用すると機種によってはサンゴに適さないことがあります。

サンゴを飼育するための光は、褐虫藻が光合成に利用する分の他に、サンゴの色素を引き出せる波長域の光を含んでいる必要があります。

サンゴ用LED素子の一例】
サンゴに必要なさまざまな波長域(色)のLED素子が組み合わせられています

サンゴに必要な光は、単純な出力の強さではなく特定の波長域の光を含むことが重要です。
※PAR(光合成有効放射)については別の記事で解説予定です。

よくあるパターンとして蛍光色の強いサンゴに一般的な白色光を当ててしまうと、蛍光色が薄くなってしまうということもあります。

海中の光は水深10m未満の浅瀬では白っぽい光が届きますが、蛍光色を持つサンゴは水深10mよりも深いところに多く、水深が深まるほど赤~黄色までの光が少なくなり青みがかった光になっていきます。

そのため、サンゴが持つ体色によって照明の光色を使い分ける必要があるのです。

白色光の照明でサンゴの育成自体は可能ですが、蛍光色が弱くなってしまうことがあります
※非蛍光色の色素を持つサンゴであればOK

光色の使い分けは、同じ種類のサンゴでも蛍光色を持つか持たないかで使い分けます。

蛍光グリーンの体色を持つなら青みがかった光を当てます。
蛍光色を持たず、非蛍光の色素を持つサンゴであれば白色光でも問題ありません。

スターポリプでの一例
【蛍光色ないタイプ】
白色光でOK
【蛍光グリーンを持つタイプ】
青みがかった光を当てる

優先度② 光が強すぎないか確認する

逆に光が強すぎるとサンゴがダメージを受けてしまうことがあります。
このメカニズムは非常に複雑なため、その仕組みの説明はここでは割愛しますが、要は日焼けに近いものでサンゴの体組織が光によってダメージを受けてしまうことがあるのです。

これは先述のパターンとは逆に、高価なサンゴ用照明(システムLED)を使っているときに起こりやすくなります。システムLEDは調光機能を搭載していることから、光が強すぎるようであれば出力を弱めるなどして対応します。

システムLEDはアプリで調光が可能なので、強いようなら出力を弱めに設定します

調光機能がない照明を使用しているときは、サンゴを日陰になっている部分など、光源から離れた位置に移動して様子を観察しましょう。

また、強光障害はKHが高い水質と色素が薄いサンゴの組み合わせで発生しやすい傾向があります。
強光障害が疑われるときは、KHのチェックも併せて行いましょう。

➨サンゴの種類に合った適切な光を当てる

多くのサンゴが持つ蛍光グリーンタンパク質(GFP)は、褐虫藻が嫌う青い光(短波長の可視光)を光合成に適した緑の波長に変換する変換器として働きます。そのため、青い光が強くなるほどサンゴの蛍光グリーンも増すことになります。

蛍光グリーンを持つサンゴに青っぽい光を当てる理由は主にこれによるものです。

サンゴが持つ蛍光色は、エネルギーの強い青い光から自身の体と褐虫藻を守る役割を持っています

サンゴの持つ色素に適合する光を当てることによって褐虫藻の光合成効率も上がることになり、サンゴが得られる栄養も増すことになります。サンゴの栄養が増えればおのずと色素も濃くなり、色が濃くなることで強光によるダメージも軽減されることに繋がります。

光がサンゴにとって適切な強さになっているかどうかは、常にサンゴの様子で見て取れるため、日頃の観察は欠かさないようにしましょう。

サンゴ用照明を適切に使うことで蛍光色がきれいに出るようになります

3項目をチェックしたら、栄養剤を使ったトリートメントへ

水質、水流、光と3つの環境要素に問題がないはずなのにサンゴのポリプが開かないようであれば、サンゴ自身の体力が落ちてしまっていることが考えられます。

環境が良くても体力が落ちてしまっていると、免疫が下がりビブリオ菌に感染してしまうことがありますので、サンゴ用の栄養剤を使って体力を回復させるステップへ進みましょう。

ビブリオ菌がどういった存在で、どのような影響をサンゴへもたらすかは別記事でも解説していますので、併せてお読みください。

サンゴ用栄養剤を使ったトリートメントについては注意点がいくつかありますが、別の記事で詳しく解説しています。初めてでも安心してトリートメントを行うためのポイントを解説した記事となっていますので、こちらも併せてお読みください。

サンゴのポリプが開かない!ときのチェック項目 まとめ

サンゴのポリプをしっかり開かせるには、まずは基礎となる環境をしっかり整えることが何よりも大切です。

基礎となる部分は、第一に水質です。
ここをしっかり押さえられていないとサンゴを生かすことすら難しくなります。
まずは何よりも水質のチェックから始めます。以下の①⇒②⇒③の順に環境を整えていきましょう。

①水質【サンゴが生きるために必要な基本条件】

②水流【サンゴの代謝を促進させるための要素】

③光【サンゴが美しく健康に育つための要素】

「買ってきたサンゴのポリプがなかなか開かない!」とお困りのときは、まずこの3要素を①②③の順に見て飼育環境をチェックし直してみましょう。

この3つの項目をクリアできていれば、ポリプが開かない原因はサンゴの体力自体が落ちてしまっていることが浮上してきます。次のステップである栄養剤によるトリートメントへ進みましょう。




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