茶ゴケ(付着性珪藻類)

海水水槽における茶ゴケとは主に付着性の珪藻類のことを指します。
水槽セット初期などによく現れ、水槽のガラス(もしくはアクリル)面を茶色で覆い見苦しい光景になってしまうことがよくあります。

今回は全てのアクアリストが手を焼いたと言っても過言ではない、茶ゴケの正体と対策に迫っていきます。

珪藻類とは

珪藻類は海の生態系において最も基本となる一次生産者の地位にある生物です。


一次生産者とは食物連鎖の基礎となる生物を指す言葉で、主に光合成によってバイオマス(生物由来の有機炭素量を数値で表したもの)を生産する藻類がこの地位を占めています。その藻類の仲間で特に栄養価が豊富で海の生物達の栄養源となっているのが珪藻類です。

DHAやEPAといった海の生物にとって必要な必須脂肪酸の主要な生産を担っているのもこの珪藻類で、海の生態系を支える重要な役割を持った生物であると言えます。

どれだけ栄養豊富なのかを示す例として、巻貝の仲間には茶ゴケ(付着性の珪藻)を専食している種類もいるほど。
シッタカ貝などがその代表で、専ら茶ゴケを食べますが緑色のコケを食べることはほとんどありません。

なぜ茶ゴケが発生するのか?

茶ゴケが発生する最大の要因は「水槽内に茶ゴケを食べる生物がいない」ことが挙げられます。

リーフタンク内における生態系サイクルのイメージ
このバランスが整っていないと茶ゴケが過剰に増えてしまいます


海中の一次生産者であるということは、珪藻類を好んで食べる生物は多種多様に存在します。
付着型の珪藻であれば「主に巻貝の仲間」や「底棲性の動物プランクトンの仲間」が該当しますが、これらの捕食者が水槽内にいないと際限なく増殖してしまいます。

水質が富栄養になることで茶ゴケがたくさん出やすくなるという側面はたしかにありますが、「生態系の最も基本に位置する生物」でもあるため「水槽セット直後に現れやすい」のも大きな特徴と言えます。

この新たに立ち上がった環境に最初に進出する生物をパイオニア種と呼び、これが生態系の最も基本となる一次生産者となります。この一次生産者の過剰増殖を抑えるためには、それを捕食する一次消費者とさらなる高次の消費者の存在が必要になります。

そのため、茶ゴケの発生を抑制するためには栄養塩の数値を低く抑えるだけではなく、これを食べて増殖を抑制する貝類(特に巻貝)や動物プランクトンの存在が必要となるのです。

実は意外なメリットも

アクアリウムの厄介者として名高い存在になってしまっている茶ゴケこと珪藻類。
ですが、彼らはアクアリウムにおいてデメリットのみをもたらす存在ではありません。

珪藻類は一次生産者として藻類食性の動物たちの重要な栄養源になるだけではなく、実は水槽内で発生するさらなる厄介者たちの抑制役としても働いているのです。

珪藻類を主体とした水槽内微生物生態系のイメージ図

珪藻類自身が餌となることで他の有害藻類を捕食する動物プランクトンの数も増えることになります。
その結果、ダイノスやシアノバクテリアも増殖を抑制されてその姿を潜めていくことになります。

水槽セット初期に現れる茶ゴケはリーフタンク内の微生物相を健全に整える働きを担っているとも言えるでしょう。

さらに近年の研究では、浮遊性珪藻類の仲間にビブリオ属細菌やシアノバクテリアに対してアレロパシー(多感作用)による抑制能力を持つものがいることも判明してきました。まだ明らかにはなっていませんが、もしかすると付着性珪藻の仲間にも有害な他の藻類やバクテリアなどを抑制する作用を持つ種類がいるのかもしれません。

対策

実は有用な面もある茶ゴケですが、そのまま増殖するに任せていては水槽の美観が損なわれてしまいます。
美しい水槽を維持するためには増殖を抑えなければいけません。

茶ゴケ以外にも共通することですが、コケが発生してしまった際の対策は大きく分けて3つ。

ひとつは「人の手で除去する」こと。この方法が最も確実できれいになる対策です。
もうひとつは「茶ゴケを食べてくれる生物を入れる」こと。
そして「薬品を使って除去する」の3つの方法があります。

人の手で除去する

水槽のガラス面が茶色く覆われてしまっている状況では人の手で擦り落とすのが最も確実で早くできる対策です。
ガラス面に発生してしまったものはスクレイパーを使って擦り落としましょう。

茶ゴケは柔らかいスクレイパーでOK

擦り落とした茶ゴケは褐色の埃の塊のようになって底に沈殿します。
ベアタンクや海水魚中心の水槽では美観を損ねるため水換えも兼ねて吸い出します。

微生物相を重視するリーフタンクでは、擦り落とした茶ゴケがベントス食の生物たちの良いエサにもなりますので多少残っても問題ありません。

茶ゴケを食べてくれる生物を入れる

ガラス面の茶ゴケを擦り落としたら再発生を予防するために、茶ゴケを好んで食べる生物を入れます。
入れる種類は主にシッタカ貝やマガキ貝が適任です。
海水魚中心の水槽ではヤエヤマギンポなどブレニーの仲間が適しています。

シッタカ貝
マガキ貝
ヤエヤマギンポ


巻貝が茶ゴケを食べて出した糞を餌としてバチルス菌などのバクテリアが増殖し、そのバクテリアを餌として微細な動物プランクトンが増え、より大きな動物プランクトンも種類を増していくことになります。

さまざまな動物プランクトンが増えることにより、珪藻類を直接食べる動物プランクトンも増えていきます。
そうして微生物の食物連鎖サイクルが機能していくにつれて、茶ゴケの発生も次第に落ち着いてくることになります。

ただし、微生物による茶ゴケの抑制が機能している水槽であってもそれを上回る増殖速度になってしまうと再び茶ゴケが目立つようになってしまいます。茶ゴケの増殖が加速しないように栄養塩の数値が高くならないように清浄な水質を保つことも重要となります。

また、生物による茶ゴケ対策はあくまで「少量出るものの抑制」と考えてください。
例えば、水槽全体を覆うほどの茶ゴケが出たときにその全てをシッタカ貝に処理させようと大量に投入してしまうと、茶ゴケを食べ尽くした後に餓死するシッタカ貝が現れて水を汚すことに繋がります。

人の手で茶ゴケを除去した後に、「生物たちに抑制してもらう」くらいに留めましょう。

抑制剤を使用した駆除

茶ゴケ対策には専用の抑制剤も存在します。

珪藻の仲間は水中のケイ酸を取り込んで細胞壁にケイ素を使用するという性質を持っています。
このときに、ケイ素に似た性質を持つゲルマニウムを代わりに摂りこませることで珪藻の細胞分裂を阻止するという製品です。

珪藻を水槽内の微生物サイクルに組み込むリーフタンクにはあまり向いていませんが、ヤッコやチョウチョウウオをはじめとした海水魚中心の水槽やベアタンクでの茶ゴケ対策におすすめです。

まとめ

従来、珪藻の仲間はアクアリウムでは水槽の美観を損ねる邪魔者としか紹介されてきませんでした。
しかし、珪藻類は自然の海中では生態系の基礎を形作る重要な役割を持った生物であり、バクテリアと微生物のサイクルを取り入れたリーフタンクでは近年その存在が見直されてきています。

その有用な役割の一方で水槽内で大量に増えてしまうと美観を大きく損ねてしまうことから、茶ゴケ(珪藻)の存在は「水槽内の微生物バランスと物質サイクル(Biochemical cycle)がしっかりとできあがっているか」を視認するための生きたバロメーターと言えるでしょう。

海水魚中心の水槽では抑制剤の使用が最もお手軽な対策方法となりますが、サンゴ中心のリーフタンクでは水槽内の生態系に組み込む形で対処する方法が健全な微生物環境を構築するためのコツに繋がるのです。

主な発生要因・水槽内の微生物バランスが出来上がっていない
・捕食者がいないことによる過剰増殖
・水質の悪化(富栄養化)
主な対策・なるべく人の手で除去する
・茶ゴケを食べる生物の投入
・抑制剤の使用
人の手による除去方法・スクレイパーで擦り落とす
主な捕食者・シッタカガイなどの巻貝の仲間
・ヤエヤマギンポ、ブレニーの仲間
・コペポーダなど動物プランクトンの仲間

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