クサビライシ/Mushroom coral

その独特な形状と美しい色彩で多くのアクアリストに愛されるサンゴ、クサビライシ。
この記事ではクサビライシの基本的な特徴から飼育方法、注意点といった、実践的な情報を提供します。

クサビライシの基本情報

流通名クサビライシ
学名Fungia sp.
※クサビライシの名で流通するサンゴには複数種が含まれています。
分布太平洋~インド洋の熱帯海域
グループハードコーラル(LPS)
飼育しやすさ★★★★☆
ポイントを押さえれば比較的容易
LPSの中では容易な部類に入ります
入手しやすさ★★★☆☆
まずまず見かける

クサビライシは、イシサンゴ目クサビライシ科に属するハードコーラルです。

平らでキノコの傘を裏返したような形状をしており、中央部はドーム状に盛り上がった円形ないし楕円形をしています。
色彩はオレンジ、グリーン、ベージュなど多様で、特に青色LEDの光の下で美しく輝きます。

クサビライシは、野外ではサンゴ礁の岩礁や、斜面となった岩盤上、砂礫底などで見られます。
これらの環境は、比較的安定した水質と適度な水流のある環境であることが特徴です。

クサビライシが他のサンゴと異なる大きな特徴の一つとして、群体ではなく単体のポリプで存在しているという点が挙げられます。

また、クサビライシは単独で自ら移動することもあります。
ハードコーラルでありながら自ら動き回れるという特性は、他の多くのサンゴとは異なるユニークな特徴です。
移動能力が高いわけではないので、激しく動き回ることはありませんが、配置した場所から移動していることがまれにあります。

リーフタンクにおける飼育のポイント

給餌は少なめ
栄養剤の使用や給餌が有効

光合成のみでは栄養が不足しやすい面があります。
給餌や栄養剤の使用で調子が上がりやすくなります。

適正水温

高めの水温
標準的な水温
低めの水温
深海性

一般的なサンゴが好む水温を維持します。
・水温が28℃を超えるとブラウンジェリー発症の危険性が出てきます。

光量

水深10m未満
水深10-30m
水深30-50m
水深50-80m

・サンゴの蛍光色素に対応した光色のものを使用しましょう。
光量は中程度。蛍光色がきれいに出る程度で問題ありません。

水流

サンゴが左右に揺れる水流
澱みのないランダム水流
太くて強い水流

・弱~中程度の緩やかな水流を当てましょう。
・強い水流を当てると共肉がはがれてしまいます。

クサビライシは、弱すぎず強すぎない水流を好みます。
直接強い水流が当たるとダメージを受ける可能性があるため、間接的に水流が当たるように配置しましょう。

エサの種類とサイズ

液体
パウダーサイズ
顆粒サイズ
ペレットサイズ

動物質中心で消化吸収しやすいサイズのエサを与えます。
・個体のコンディションに応じて最適な餌のサイズが異なります。様々なサイズを取り揃えたほうが良いでしょう。

給餌の頻度は2~3日に一度程度を目安に。給餌量は残り餌が出ない程度の少量に留めます。
共肉と骨格の境目(通称:ワックス)が薄いようなら栄養が不足しています。


パウダーサイズを与えるべき個体

購入直後や、状態の立ち上がらない個体には液体やパウダータイプの飼料を与えます。

共肉が膨らんでおらず、骨格が浮き上がってしまっている個体は状態を崩しています。
このような個体には栄養を与える必要がありますが、顆粒サイズの餌を与えると、回復させるつもりがとどめを刺してしまうことがあります。

顆粒サイズを与えるべき個体

共肉が膨らんで調子のよい個体には、ホワイトシュリンプや魚用の顆粒餌を与えると調子が上がりやすくなります。

健康で状態の良い個体には1-10mm程度の固形飼料を与えると良いでしょう。

ペレットサイズを与えられる個体

共肉が膨らみ、抜群に調子のよい大型個体には、クリルなど少し大きめの固形飼料も与えられます。ただし、クリルでも丸ごと1匹は大きいです。
一度の給餌にはクリルを半分にちぎった程度が、適量といえるでしょう。

一度に与える餌が大きいと逆に状態を崩してしまうことがあり、その判断はやや見極めが難しいです。
慣れないうちは、10mm以下にちぎった餌を与えるのが良いでしょう。

栄養剤を与えるべき個体

共肉が全く膨らんでおらず、骨格のギザギザが目立つような個体はかなり痩せて衰弱しています。

このような個体に給餌すると最後のとどめを刺してしまうので、栄養剤を与えてのトリートメントが必要です。

栄養剤

クサビライシは光合成を行い、光のみでも育成可能といわれていますが、実際には給餌の重要性が高いLPSです。
粉末状や液状のコーラルフードを与えると、共肉がよく膨らみます。

クサビライシに与える餌としては、ブラインシュリンプやコペポーダ、魚用の顆粒餌などが適しています。
これらの餌は、海水に浸して柔らかくしてから与えると良いでしょう。

常温保存できる生エサもあります。
魚用の顆粒餌も有効です。

餌のサイズが大きい場合は、クサビライシの口に合わせて小さめにカットすることが重要です。
可能であれば、パウダーに近い消化の良い餌を与えると良いでしょう。

また、調子を崩している個体に粒の大きい餌を与えると、消化に負担がかかりさらに追い打ちをかけてしまうことがある点に注意しましょう。

購入したばかりなどで状態が完全に立ちあがっていない場合は、まず液体フードから与えることをお勧めします。

カラーバリエーション

クサビライシは、オレンジ、グリーン、ベージュ、パープルなど多様な色彩を持ちます。

特に青色LEDの光の下で美しく輝くため、照明の設定によってその美しさを最大限に引き出すことができます。

グリーン
オレンジ
レッド

クサビライシのカラーバリエーションは単色のものだけではありません。
複数の色彩を持つ個体も存在します。

例えば、中心部がブルーで外周がオレンジの個体や、ピンクとグリーンが混ざり合った個体など、非常に多様なカラーバリエーションが楽しめます。

オレンジ×ブルー
ブルー×オレンジエッジ
ブルー×ポリプグリーン
ブルー×ポリプグリーン×オレンジエッジ
マルチカラー
マルチカラー

コレクション性の高さも、クサビライシの魅力と言えます。

その形状から上見で楽しむこともでき、ロータイプの水槽でクサビライシの仲間を専門にコレクションする愛好家もいます。

クサビライシの配置と注意点

クサビライシの配置

クサビライシは砂の上に置くことができますが、直接砂の上に置くのはできれば避けた方が良いです。
砂の上に置くと、底部に水流が当たらず、硫化水素が発生する可能性があります。

これらのトラブルを避けるには、レイアウトロックやサンゴ岩の上に配置するのが理想的です。

扁平な形状のレイアウトロックの上などが配置しやすいです。

他の生物との相性

クサビライシは、他の生物との相性を考慮することが重要です。

相性の良い魚

カクレクマノミ
デバスズメダイ
ハタタテダイ
クマノミの仲間

クサビライシと非常に相性が良いです。
クマノミはサンゴを傷つけることなく、安全に共存可能です。

スズメダイの仲間

スズメダイもクサビライシとの相性が良く、サンゴを傷つけることなく共存できます。
デバスズメダイ以外の種類は気性が荒いことも多いので、魚同士の組み合わせには注意してください。

遊泳性ハゼの仲間

ハゼの中でも遊泳性のグループは、クサビライシとの相性が良いです。
底床を掘ってしまったり、クサビライシに砂をかけるようなことはありません。

※底生ハゼはちょっと注意

ミズタマハゼ

多くのハゼは底生性の魚で、底床を掃除する役割から人気です。

しかしながら、クサビライシを底床の上に直接置いてしまっている場合、クサビライシに砂をかけて埋めてしまうことがあります。

クサビライシをレイアウトロックの高い位置に配置すれば、ある程度共存させることは可能です。

相性の悪い魚

イナズマヤッコ
ナミチョウチョウウオ
オトメベラ
ヤッコの仲間

ヤッコはサンゴをつつく習性があり、クサビライシを傷つける可能性があります。

チョウチョウウオの仲間

チョウチョウウオもサンゴを食べることがあるため、クサビライシとの混泳は避けた方が良いです。

ベラの仲間

ベラは砂を巻き上げる習性があり、クサビライシの周囲の環境を悪化させる可能性があります。
ただしハゼ同様、レイアウトロックの高い位置に配置すれば、ある程度までは共存可能です。

ロータイプ水槽で楽しめる

クサビライシはその特性から、ロータイプ水槽との相性が良いサンゴです。
ロータイプの水槽で飼育する場合、次のようなメリットがあります。

もし、他のサンゴや魚を入れず、クサビライシ単独で数を集める場合は、ロータイプ水槽も十分選択肢になります。

上見で楽しめる

クサビライシは扁平で独特な形状を持つため、クサビライシを専門に集めるのであれば横見よりも上見のほうがその色彩を楽しめます。

このとき、水槽の深さはそれほど重要ではありません。
ロータイプの水槽のほうが水位が低い分、より鑑賞しやすいです。

給餌がしやすい

水位が低いので給餌も容易です。
短いスポイトでも、狙った位置に餌を置きやすいです。

管理面でも、ロータイプ水槽のほうがやりやすいでしょう。

増殖方法

クサビライシは、芽と呼ばれる部分から新たな個体を形成するユニークな繁殖方法を持っています。
この芽がライブロックに付着している場合、そこから新たなクサビライシが成長します。

ここでは、カットして増やす方法について詳しく説明します。

カット方法

  • 準備: クサビライシをカットする前に、清潔なカッターやハサミを用意します。
    器具は必ず消毒しておきましょう。
  • カット位置の選定: クサビライシの中央部を避け、外周部分をカットします。
    カットする際は、できるだけ一度に切り落とすようにし、サンゴにストレスを与えないように注意します。
  • カット: カットした部分は、別のライブロックやサンゴ岩に固定します。
    固定には、サンゴ用の接着剤を使用すると良いでしょう。

カット時の注意点

  • 消毒:使用する刃物は必ず消毒し、感染症を防ぎます。
    消毒用アルコールや煮沸消毒が有効です。
  • 切り口の処理:カット後の切り口には、ヨウ素溶液(ディップ剤)を塗布して消毒します。
    これにより、感染症のリスクを減らします。

カット後の管理

  • 回復: カット後は、クサビライシが回復するまでの間、適切な水質と照明を維持します。
    回復期間中は、特に水質の変動に注意が必要です。

病気と対策

クサビライシは比較的丈夫なサンゴですが、以下のような病気にかかることがあります。

白化

白化現象は、サンゴがストレスを受けた際に発生します。原因としては、水温の急激な変化、強すぎる光、栄養不足などが考えられます。
対策としては、水温を安定させ、適切な光量を維持し、定期的に餌を与えることが重要です。

組織の剥離

組織の剥離は、細菌感染や物理的なダメージが原因で発生します。
水流が強すぎる場合も共肉がはがれてしまうので、水流の強さも見直しましょう。

細菌感染が疑われる場合は、抗菌剤を使用することが有効です。

ブラウンジェリー

ブラウンジェリーとは、繊毛虫が共生している褐虫藻を食い荒らすことによりサンゴの体組織が崩壊して、茶色の粘液状の物質で覆われる病気です。
原因は細菌感染であり、早期に対処しないとサンゴ全体に広がる可能性があります。

対策としては、感染部分を切除し、抗菌剤を使用することが推奨されます。


状態を崩しているときは

クサビライシは給餌が重要なサンゴではありますが、状態を崩しているときは粒の大きな餌を与えると逆にとどめを刺す結果になることがあります。
状態を崩しているときは、トリートメント用の栄養剤を与えると良いでしょう。

クサビライシ まとめ

クサビライシは、その美しい色彩とユニークな形状で多くのアクアリストに愛されるサンゴです。
LPSハードコーラルの中では、飼育は比較的容易な部類に入ります。
適切な環境を整えることで長期間楽しむことができます。

カラーバリエーションも極めて多様で、コレクション性が高いのも魅力です。

この記事が、クサビライシの飼育に役立つ情報を提供できれば幸いです。
ぜひ、飼育にチャレンジしてみてください。

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