SPSリーフタンクにおける海水魚の選び方

キレイなサンゴがたくさん入った魅力的なリーフタンク。
サンゴにあわせて海水魚をついついたくさん入れてしまいたくなってしまいます。

しかし、それはサンゴを中心としたリーフタンクにおいてはとんでもない落とし穴なのです。

今回はSPSを中心としたリーフタンクに収容する海水魚の選び方とその役割について解説していきます。

リーフタンクに海水魚を入れ過ぎてはいけない理由

一般的にミドリイシをはじめとしたSPSの飼育難易度は高いと言われています。

その理由としてSPSの仲間は貧栄養海域のサンゴ礁に生息するハードコーラルであることから、水質は硝酸塩とリン酸塩の数値が低い貧栄養環境を保つ必要があります。

リーフタンクにおける硝酸塩とリン酸塩の供給源は、主に魚やサンゴへの給餌に由来するものです。
SPS中心のリーフタンクにおける失敗の多くは、海水魚を入れすぎてしまい栄養塩過多の環境になってしまっているパターンが多くを占めます。

水槽内生態系のイメージ図
一般的な海水魚水槽ではこうなりがち

硝酸塩とリン酸塩が多すぎる水質になってしまうとハードコーラル、特にSPSは骨格の形成を阻害されてしまうことが知られています。また、褐虫藻からの栄養供給が平常に行われなくなりサンゴの色と健康状態が悪くなってしまいます。SPSを健康的に育てるためには硝酸塩とリン酸塩の値を低く保つ必要があるのです。

栄養塩による影響で褐色化してしまったミドリイシ

たくさんの海水魚を追加すればするほどSPSの飼育難易度は飛躍的に上昇してしまうため、水槽に入れる海水魚の種類や匹数はよく吟味する必要があります。

魚の数はできるだけ控えめに抑えることが、SPS中心のリーフタンクを成功させる秘訣です。
水槽に入れる海水魚は最初は少ない匹数からはじめ、管理のコツが掴めてきたら、徐々に数を増やしていくと良いでしょう。

リーフタンク内の栄養塩の流れを把握する

SPSを主軸にしたリーフタンクを構成するには、まず水槽内の栄養塩の流れを想定しなければなりません。
栄養塩の流れは水槽内生態系の食物連鎖に準じます。

水槽内における栄養塩の大まかな流れ

給餌によって水槽内に入ってくる栄養塩がサンゴや藻類によって吸収される量を超えてしまうと、コケの大発生やサンゴの褐色化といった影響として現れます。給餌量は水槽に収容している海水魚のサイズと匹数によって変わるため、栄養塩過剰になってしまわないようなバランスが求められます。

そのために核となるのはプロテインスキマーの存在です。
リーフタンクに収容できる海水魚のキャパシティは、プロテインスキマーの性能に比例します。

リーフタンクへ海水魚を多めに入れたいのであれば、性能の高いプロテインスキマーの使用が必須となるのです。

プロテインスキマーを組み込んだ栄養塩サイクルのイメージ図

リーフタンクに向いた海水魚の種類

性能が高いプロテインスキマーを使わなければSPSと海水魚両方の飼育を成り立たせることは非常に困難です。

海水魚の数だけでなく、体が10cmを超えるような大きめの海水魚がいるとSPS飼育の難易度は跳ねあがります。そのため、リーフタンクに収容する海水魚は体が小さめの種類が適しています。

ある程度飼育経験のある中級者以上であれば問題はありませんが、初めてSPSを飼育するビギナーであれば収容する海水魚は体長が5cmを超えない小型魚が望ましいといえます。

収容する魚種を選ぶための注意点

リーフタンクでは微生物も含めた水槽内生態系の構築が重要です。
そのため水槽に収容する海水魚はリーフタンク内における「役割」を付与させることが求められます。

海水魚として人気のあるクマノミやスズメダイなどは種類によって体長10cmを超えるサイズに育つものもいます。体の大きい魚ほど摂食量も多いことから、そういった種類はSPS中心のリーフタンクにおいては水量に余裕のある大型水槽(60×45×45cm以上)での飼育が推奨です。

60cm以下の小型SPS水槽にクマノミやスズメダイ、ヤッコの仲間など体が5cm以上になる海水魚の収容はあまりおすすめできません。

10cmを超えるハマクマノミ
スズメダイの仲間も10cmを超えるものがいます

そして、リーフタンク内における体が最も大きな魚は水槽内生態系における頂点捕食者となります。
水槽内環境の広さ(容積)に対して頂点捕食者が強くなりすぎてしまうと、その影響は栄養塩の量が多くなり過ぎるだけに留まりません。

水槽内生態系の下位に位置する動物プランクトンへの捕食圧が強くなり、茶ゴケやシアノバクテリア、ダイノスといった有害藻類の発生に繋がることにもなるのです。

ミドリイシをはじめとしたSPSの調子を第一に考えるのであれば、むやみな海水魚の投入は避けたほうがいいといえます。収容するのであれば、その魚の生態をよく調べてから向き不向きを把握したうえで選びましょう。

ボトムフィーダー(ベントス食性魚)

まずSPS水槽に向いているのはベントス食性の海水魚です。

代表的な種類としては底棲ハゼの仲間が挙げられますが、リーフタンクへの相性が良い種類としてはスクーターブレニーやマンダリンに代表されるテグリの仲間が挙げられます。

マンダリン
スポッテッドマンダリン
スクーターブレニー
スターリードラゴネット

流通しているテグリの仲間は大きく育ったものでも5~6cmほどで、ゆったりと泳ぎながらライブロックなどに付着した生物をついばみますが、サンゴに害をなす種類もいるヒラムシ(※正確には無腸動物と呼ばれる種類)を食べて抑制してくれる役割も担います。

これらの性質からSPSだけでなくLPSを主体としたリーフタンクとの相性も良いのです。

テグリの仲間は捕食圧の緩やかなボトムフィーダーとして機能します

海水魚を入れ過ぎてしまうとサンゴへの悪影響も出やすくなりますが、逆にまったくいない水槽ではカンザシゴカイの仲間をはじめとした小型ゴカイなどの「ベントス(底生生物)」が増えすぎてしまうことがあります。

リーフタンク内の生態系を構築する大切な存在であるベントスも過剰に増えすぎてしまうと見た目的にもよくありません。ベントス食性の魚たちはサンゴ中心のリーフタンクにおける上位捕食者として水槽内生態系を整える役割もあるのです。

ボトムフィーダーの注意点
同じボトムフィーダーでもベントスハゼと呼ばれるミズタマハゼなどを収容するときは注意が必要です。

ベントスハゼは主に砂をはんで撒散らす性質を持っていますが、底砂付近に置いたサンゴに砂が被さり弱ってしまいます。ベントスハゼをリーフタンクに収容するには、底砂付近のボトムエリアと上層のサンゴエリアを明確に分ける必要があります。
ベントスハゼの収容には注意が必要です

小型遊泳性ハゼの仲間

ボトムフィーダーだけではなんとなく寂しいという方におすすめなのは、小型の群泳魚です。

海水魚では小型魚の分類に入りながらも成長すると体長が10cmほどに達してしまう、淡水魚では中型に分類されてしまうような種類も少なくありません。そのため、選ぶのであれば成長しても体長が5cmを超えない種類が望ましいといえます。

サンゴ中心のリーフタンクと相性の良い小型群泳魚はオヨギイソハゼなど小型遊泳性ハゼの仲間が挙げられます。
オヨギハゼの仲間は実際にサンゴ礁のミドリイシの合間などで見られることから、見た目と生態的役割の両方の面からもリーフタンクと相性の良い海水魚といえます。

オヨギイソハゼ
アオギハゼ
アカメハゼ
ヒメアオギハゼ

小型遊泳性ハゼの仲間はアカメハゼなど成長しても2cmを超えない非常に小型の種類も多いことから、一般的な海水魚のコミュニティタンクでは他の魚に食べられてしまうことが多いです。

また、体の大きな海水魚の収容数が少ないリーフタンクでは、コペポーダような小さな動物プランクトンが湧いてくることがあります。そのような水槽では小型遊泳性ハゼも栄養循環を担う上位捕食者として機能することになります。

そういった点でも、小型遊泳性ハゼの仲間はリーフタンクでの飼育に向いているといえます。

小型遊泳性ハゼの注意点
小型遊泳性ハゼ飼育の注意点は先述のとおり「体の大きい魚がいると食べられてしまう」という点です。

この仲間を飼育するときは、絶対に体の大きい魚を入れてはいけません。
混泳させるのは上記のテグリの仲間や、同じ小型遊泳性ハゼの仲間で統一するのがおすすめです。

サンゴ共生ハゼ(サンゴハゼの仲間)

ミドリイシを主体としたリーフタンクであればサンゴハゼ(コバンハゼ)の仲間も欠かせません。

キイロサンゴハゼ
ベニサシコバンハゼ

キイロサンゴハゼに代表されるサンゴハゼの仲間はミドリイシとほぼ共生といえる関係を構築しています。

サンゴハゼの仲間はミドリイシの枝の合間を住処としており、プランクトンなど微生物のほかミドリイシの粘液(ミューカス)をエサとしています。ミドリイシの粘液は強力な抗酸化物質の塊ともいえるもので、コバンハゼの仲間はこれを摂食することで免疫を強化していると考えられています。

実際にキイロサンゴハゼはサンゴのない水槽で飼育して長期間飼育していると、全身にイボ状の突起物が表れるサンゴハゼ病という症状に罹り死んでしまうことが知られています。

ところが、ミドリイシなどのサンゴと一緒に飼育するとサンゴハゼ病はほとんど発症しません。

逆にサンゴ側はサンゴハゼの排泄物から出るアンモニアを吸収し、サンゴ体内の褐虫藻へ供給します。
そしてサンゴは褐虫藻から供給される栄養から粘液を生産するというサイクルがあるのです。

サンゴハゼとミドリイシの共生関係

ミドリイシの粘液は自然の海中でも炭素循環の要となっており、バクテリアや微生物のエサとして機能しています。そういった自然の海で行われる共生関係を観察できるのもSPSリーフタンクでの醍醐味といえます。

サンゴ共生ハゼの注意点
サンゴハゼはサンゴの粘液を啄んで食べますが、水槽導入直後のミドリイシは体力が落ちていて粘液を生産できないものがいます。そういったミドリイシはサンゴハゼに粘液の供給ができず、また余計な体力を消耗してしまうため注意が必要です。

SPS水槽にサンゴハゼを泳がせるには、サンゴ用栄養剤による充分なトリートメントを行ってミドリイシがしっかり粘液を生産できる環境を作りましょう。

まとめ

この栄養塩サイクルを構築できるような構成を目指しましょう

SPSを中心としたリーフタンクに収容する海水魚の選択は、状態の良いリーフタンクを構築するためには欠かせない要素です。その選択の基準はリーフタンク内の生態系と食物連鎖を考えることが前提となります。

貧栄養な水質を保つのも重要ではありますが、水槽内の魚がリーフタンク内でどのような役割を担うのかを考慮することで栄養循環のサイクルを促進させることができるようになります。

従来のSPS水槽ではとにかく栄養塩の数値を下げることが重要だと言われてきました。
しかし、近年ではサンゴと小型海水魚間における栄養循環を考慮した飼育システムが注目されてきています。

そして一般的な海水魚のコミュニティタンクでは飼育が難しい面のあった小型海水魚も、リーフタンクの生態系に組み込むことで飼育のハードルが下がるようになるのです。

これらのような興味深い生態を持つ小型魚を、サンゴと一緒に楽しんでみるのもいかがでしょうか?

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