紫外線殺菌灯の基礎と仕組み

アクアリウム用として古くから利用されている紫外線殺菌灯。海水魚中心の水槽や大型魚の飼育をしている方であれば、既に設置している方もおられるかと思います。

しかし、おおまかに殺菌や殺虫を行う機材であることには触れられても、具体的にどのような原理なのか、効率的に使うにはどうすればよいのかについての説明はあまり見かけません。

今回は、紫外線殺菌灯を効率よく使うための前段階として、その仕組みや原理にフォーカスを当てて解説していきます。※設置の仕方などについては別記事で解説予定です。

紫外線殺菌灯とは

紫外線殺菌灯は、紫外線を照射して細菌類を殺菌する機材です。
アクアリウムでは海水魚中心の水槽や淡水の大型魚の飼育においてよく利用されています。

元々は水産用途で病気の予防や水質改善の目的で使われていましたが、その有用性が確認されるにつれ、日本でも1970年代~80年代にかけてアクアリウムに導入されるようになりました。

その主な目的は細菌性疾病の予防や、グリーンウォーター(アオコ)の原因となる浮遊性微細藻類の除去などに用いられています。

UV-Cの性質とその作用

紫外線殺菌灯とは、その名のとおり紫外線を照射して細菌類を殺菌する機材です。
ひとくちに紫外線といっても波長域により複数の種類に分けられており、殺菌灯に使用されているのはUV-Cと呼ばれる領域の紫外線です。

まずはこのUV-Cがどういったものなのかについて触れていきましょう。

UV-Cの波長と特性 

紫外線には複数の種類があり、殺菌灯に使用されるのはUV-Cと呼ばれる領域の紫外線です。UV-Cは波長が200~280nmで、特に254nmをピークとします。

紫外線殺菌灯に使われる紫外線は254nmをピークとするUV-Cの領域です

近紫外線はどの領域もタンパク質を変性させる作用を持っていますが、UV-Cはそのなかで最もエネルギーが高く、タンパク質以外にもさまざまな分子を分解する作用を持つため生物にとって非常に危険な紫外線です。

この危険なUV-Cはオゾン層でそのほとんどが遮られることが知られています。

酸素原子は240nm以下の紫外線を吸収する性質があり、UV-Cを吸収した酸素(O₂)は光解離によって活性酸素(O⁻)に分離します。それがO₂と結びついてオゾン(O₃)が発生し、さらにオゾンがUV-Cによって分解されるサイクルが発生します。このサイクルによりUV-Cはオゾン層でそのほとんどを吸収され地表まで届かなくなるのです。

UV-Cがオゾン層で遮断されるのは3種類の酸素化合物による吸収反応サイクルがあるためです

UV-Cが酸素原子を含む物質と反応して活性酸素(O⁻)を発生させるという点は、なぜ殺菌力が強いのか?という部分にも関わってきます。UV-Cそのもののエネルギーに加えて活性酸素(O⁻)を発生させることから、生体に対して非常に大きなダメージを与えるというわけです。

UV-Cが細菌や微生物に与える影響 

UV-Cは高エネルギーで、細胞内のDNAを破壊し、活性酸素を発生させることで細胞を破壊します。このため、細菌や微生物に対して非常に強力な殺菌効果を持ちます。

UV-Cは細胞内のDNAと直接反応して破壊し、正常な再生能力を失わせます。
それと併せて細胞内で活性酸素(O⁻)が発生することで細胞の破壊が進み、修復困難なダメージとなります。

紫外線(UV-C)によるDNAの破壊+活性酸素での細胞破壊」のイメージ図

そして、この性質は物体の奥へ届く透過力にも関わります。

UV-Cは酸素原子を含む物質に吸収され反応しやすいという性質から、透過力はそれほど強くはありません。一方でUV-AはUV-Cほどに酸素原子に吸収されやすい波長ではないため、物体の奥にもある程度透過しやすい性質を持っています。

UV-C、UV-B、UV-Aそれぞれの性質の比較

UV-Cの「分子を分解する作用が強いために、分子が密集している場所に対して透過力が低い」という性質は紫外線殺菌灯を効果的に使用するためのポイントになります。

このUV-Cの性質を把握しておくことで、水槽の容量や生物の種類などに適した紫外線殺菌灯を選ぶ目安を付けやすくなります。その点についてはこちらで後述します。

余談となりますが、サンゴの色揚げに使用されるUVは主にUV-A~可視光(バイオレット)の領域を指すことが多く紫外線殺菌灯に使われるUV-Cとは別ものとなります。同じ紫外線(UV)というくくりでも生体に対する作用が大きく異なるため、この点も留意しておきましょう。

サンゴの色揚げに必要なUVはこのあたりの領域で、殺菌灯のUV-Cとは波長域が異なります

紫外線殺菌灯の構造と仕組み

次は紫外線殺菌灯がどのような構造で殺菌や殺虫を行うかを見ていきましょう。

殺菌灯の内部構造 

紫外線殺菌灯は、ハウジング内を通過する水に対してUV-Cを照射する構造になっています。多くの製品は内部で水流がらせん状に回る設計です。

紫外線殺菌灯はハウジング内を通過する水に対して、なるべく長くUV-Cを照射する必要があります。
そのため、多くの製品は内部で水流がらせん状に回る構造となっています。

紫外線殺菌灯(ハウジング)の内部イメージ図
飼育水がUV-Cに長い時間触れるように、バルブの周りをらせん状に流れる構造になっています

このように水槽の飼育水が殺菌灯のバルブ本体を覆う石英ガラス管の周りを回転するように流れることで、まんべんなくUV-Cが照射されるようになっているのです。

UV-Cの照射時間と殺菌効果 

殺菌灯ハウジング内を流れる水を殺菌するためには出力(W数)に応じてUV-Cが照射される時間が長ければ長いほど効果を発揮します。W数に応じた殺菌線量は以下のような計算式で求められます。

照射量(W/m²)×時間(s=秒)=殺菌線量(J/m²)
もしくは照射量(μW/cm²)×時間(s=秒)=殺菌線量(μJ/cm²)

これは大雑把にいうと「W数と照射時間により殺菌力が増す」ということを意味しています。

この数式と理屈は別記事で触れる殺菌殺虫対象の違い配管のセッティングの仕方で大きく関わってきます。
上記の数式を直接使って計算する機会は少ないですが、この理屈を把握しておくと紫外線殺菌灯の効果的な使い方ができるようになりますので記憶の片隅に留めておきましょう。

殺菌が及ぶ範囲と及ばない範囲

紫外線殺菌灯で誤解されやすいポイントのひとつが「殺菌灯内を通り抜けた水のみ殺菌する」ということ。
UV-Cが照射されない本水槽内までは殺菌されません。

殺菌は水槽内全てに及ぶものではないということを前提として憶えておきましょう。

浮遊性の細菌類は殺菌灯に運ばれますが、基質に固着したバクテリアには影響はありません

紫外線殺菌灯による殺菌が及ぶのはUV-Cが照射されるハウジング内のみとなります。

ライブロックやフィルター内のろ材など、水槽内の基質に付着したバクテリアに対しては殺菌効果が及ばないため、硝化作用や脱窒などのろ過システムに対する影響はほとんどありません。

紫外線殺菌灯の効果は「水中に浮遊している」細菌や微細藻類、微生物などに対して発揮されるものとなります。

殺菌、殺虫する対象の違いについて

次は紫外線殺菌灯を用いる目的ともいえる、殺菌と殺虫に関する違いについてです。
この殺菌殺虫したい対象によって必要となる紫外線殺菌灯の出力が変わります。

ひと口に殺菌と殺虫といっても細菌類と寄生虫(白点虫を代表とする繊毛虫など)では、サイズが大きく異なります。

水中の細菌や藻類については、単細胞からなる生物が多く体のサイズもμm(マイクロメートル)単位の微小なサイズのものがほとんどです。対して寄生虫(※ここでは白点病の原因となる白点虫を主に想定します)は多細胞生物で、細菌や微細藻類に比べると体のサイズがmm単位とかなり大きくなります。(※1mm=1000μm)

白点虫と細菌、微細藻類とのサイズ比較 イメージ図

細菌類や微細藻類など単細胞生物は体が小さく体組織も単純なため、ある程度出力が低くても充分に細胞を破壊することが可能です。一方で体の大きい多細胞生物相手の場合、出力が低いと細胞壁表面を破壊できても中心部までは届かないといった場合があるため注意が必要です。

出力が低いと白点虫のシストのような強固な外殻があるものは殺虫しきれません

そして前項で説明した「UV-Cは分子を破壊するエネルギーは強いが、透過力が低い」という性質から、白点虫のような多細胞生物に対しては体表奥深くの深部組織までUV-Cを届かせるために殺菌灯の出力を上げる必要があるのです。

白点虫など外殻が強い多細胞生物相手には出力を上げて対処します

目安として細菌類や微細藻類を殺菌したいのであれば10W以下でも充分ですが、白点虫のような体の大きな多細胞生物を駆除するためには10Wを超える高出力(※水槽のサイズや飼育生物によっては20W以上)の紫外線殺菌灯が必要になるということを憶えておきましょう。

殺菌だけではない紫外線殺菌灯の効果

最後に紫外線殺菌灯の意外な効果について。

UV-Cには酸素原子に吸収されやすく活性酸素O⁻を発生させる性質がありますが、その影響は細菌類や寄生虫の殺菌殺虫に留まりません。

水中を漂うデトリタスや、タンニン、リグニンといった植物由来の難分解性の有機物を分解する作用もあります。

デトリタスはセルロースといった植物由来の繊維質にバクテリアのコロニーが付着したもので、非常に大きな分子の鎖を形成しており、バチルス菌などのセルロース分解能を持つバクテリアが活動していなければ分解は促進されません。

セルロース分子のイメージ図
一般的な細菌類が分解できない複雑な分子構造をしています

ですが、UV-Cには先述の酸素原子に吸収されやすい波長を持っており、セルロースを一般的な微生物が分解できない強固な分子に仕立て上げているグリコシド結合を分解する作用があります。

UV-Cが照射されたセルロース分子のイメージ図

セルロースに限らず、タンニンやリグニンといった海水が黄ばむ原因となる難分解性の有機物もUV-Cによって分子の鎖を破壊され、多くの微生物が利用しやすい有機物へと変化させます。

セルロースが分解されることでセロビオースC₁₂H₂₂O₁₁やグルコースC₆H₁₁O₆などに変化していきます

セルロースが効率よく分解されるにはUV-Cを12時間以上照射する必要がありますが、セルロース分子の鎖が少しずつでも破壊されることでバチルス菌などによる分解を促進させることにも繋がります。

紫外線殺菌灯を設置して飼育水の透明度が上がったと実感されたことがある方もいるかと思いますが、その仕組みは白濁の原因となる細菌類の殺菌だけでなく、水を着色してしまう有機質由来の高分子化合物も分解してしまう作用によるものです。

リーフタンクに置ける高分子化合物の除去は主にプロテインスキマーが担っていますが、紫外線殺菌灯にも高分子の有機物を分解する作用があります。これを応用することで、より透明度の高い飼育水を作ることにも繋げられるのです。

長くなりましたが、ここまでが紫外線殺菌灯の基礎(原理)部分となります。

まとめ

今回は紫外線殺菌灯についての基本的な原理部分について解説しました。
細かい部分を見ていくと、UV-Cの性質や「殺菌や分解の対象への必要な出力」など一般的には難解といえる化学的な知識も必要となってしまいます。

しかし、紫外線殺菌灯の最も核となる部分はおおまかに「紫外線、特にUV-Cは酸素原子と反応することで有機物を分解する作用がある」ということです。この点を把握しておけば、細菌や寄生虫以外にもリーフタンクで余剰となる有機物の分解にも活かすことができるようになります。

まずは紫外線殺菌灯を効率よく使うための前段階として、今回の記事を記憶に留めてもらえれば幸いです。

セッティングについての解説はこちらをご覧ください

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