比重計の基本と使い方

海水魚やサンゴとの暮らしを始めるとき、まず整えたいのが「海水の質」。その中でも塩分濃度を管理するために欠かせないのが比重計です。目には見えない塩分濃度を、数値として可視化するこの小さな道具は、海の生き物たちにとっての“安心”をつくる大切な存在です。

今回はリーフタンクに限らずマリンアクアリウムの最も基礎的な部分を担うアイテム、比重計について解説していきます。

比重計の種類

比重計にはさまざまな種類があります。
この項では、比重計の種類とその特徴に触れていきます。

コンパクト比重計

プラスチック針の浮力で比重を読み取ります

まずはコンパクト比重計から。
最も安価で手軽に使用できることから、ビギナーが手に取りやすい比重計です。

ただし、経年劣化や気泡の付着による誤差には注意が必要です。
特に経年劣化による数値のズレが生じてしまった場合、校正ができないため新しく買い直す必要があります。

使い続けていくうちに、いつの間にかズレが出るようになってしまったというケースが散見されるため、コンパクト比重計を使用するのであれば予備(ボーメ計など)を用意しておくのが安心です。

一般的な丈夫な海水魚飼育に用いる分には問題はありませんが、ある程度の正確性が必要とされるサンゴ水槽では若干心もとない面があるというところには注意しましょう。

向いている用途海水魚(丈夫な種類)中心の水槽
メリット・安価で手軽に使用できる
デメリット・プラスチック製のものが多く、経年劣化しやすい
・ズレが生じた場合、校正ができない。買い替えが必要になる

ボーメ計

本来は理化学機器であるボーメ計

ボーメ計はコンパクト比重計に並ぶ安価で購入できる比重計です。
理化学機器としても使われるボーメ計は、正確性が高く、他の比重計の補正用としても活躍します。
ガラス製のため取り扱いには注意が必要ですが、1本持っておくと安心です。

ただし、正確性は高いものの、本体に記されたボーメ度から計算して比重を算出する必要があることから、手軽に使える比重計とは言いにくい面があります。

日常の比重計測用というよりは、上記のコンパクト比重計のズレ確認用の補佐用として使用するのが推奨です。

向いている用途海水水槽全般比重計の数値ズレ確認用
メリット・安価ではあるものの正確性が高い
・比重のズレに対しては最も安定している(※汚れたり破損しない限り)
デメリット・ガラス製品なので割れやすい
・計測にはボーメ度から算出する必要があり、手間がかかる

・水槽の本数が多いと比重の計測が大変になる

屈折比重計(屈折計)

海水の屈折率から比重を計測します

数値の精密さとトータルでのコストパフォーマンスにおいては、屈折計は非常に優れています。

屈折計とは、物質の屈折率を利用して液体に溶けた物質の濃度を測るための器具です。

屈折比重計は水に溶けた海水塩の濃度により、光の屈折率が変わることを利用して数値を表示するため、コンパクト比重計を上回る精密さと正確性を持っています。サンゴ水槽を管理するうえで必ず用意しておきたい比重計です。

その特徴は精密性だけに留まりません。
もし計測数値にズレが出てしまった場合でも、校正を行うことで正確な数値を計ることができるようになります。

しかし、屈折比重計を使用するにあたって予め知っておきたい注意点があります。
それは「計測水温が20℃を基準とした製品が多い」ということです。

左:計測水温20℃基準の屈折比重計 右:計測水温25℃基準の屈折比重計

塩分と比重の関係は水温によって変動が起こるため、屈折比重計で計るときは使用する製品の基準水温を合わせる必要があります。

例えば同じ塩分濃度35pptであっても下記の図のように、製品ごとの基準水温と違う水温で比重を計ると若干のズレが生じることになります。この点を把握しておくと実際の数値の目安をつけやすくなります。

20℃基準設定の屈折計で水温25℃の海水を計測した場合、比重は1.001程度低く表示されます

製品ごとの基準水温による比重のズレが生じるデメリットもありますが、コンパクト比重計よりも細かい数値まで計測できることから正確性は高く、リーフタンク維持のメイン比重計としてオススメです。

また、使用頻度や状況によっては表示される値にズレが出る場合があります。
そのため使用時は先に真水で1.000が表示されることを確認してから、海水の比重を計るようにしましょう。

向いている用途一般的なサンゴ水槽
メリット・正確さとコストパフォーマンスのバランスが良い
・手間なく素早い計測が可能
・校正は真水も使用可
デメリット・製品によって計測基準水温が違うものがある
・使用状況によってはズレが生じやすくなるため、小まめな校正が必要

デジタル比重計

塩分の単位をPSUとppt、S.G.(比重)の表記が可能なタイプ
※水温も℃と℉で表記可能

アクアリウム用に市販されている比重計のなかでは最も高価な製品となりますが、その分だけ使いやすさと正確性は群を抜いています。

精密な数値を計測し、正確性が非常に高いことからミドリイシのような比重の変化にシビアなサンゴや無脊椎動物の飼育には特に向いていると言えます。

さらに比重だけでなく、塩分(ppt)での表示も可能で、同時に水温の計測機能も付いている製品もあるため、計測の手間が省けるメリットもあります。

計測においてはトップクラスの正確性を持ち、ほとんどデメリットはありませんが、一方でその正確性を保つには専用の校正液が必要となります。また、電子機器であることから電池交換も必要です。

向いている用途デリケートなサンゴ水槽(SPS)や無脊椎動物の飼育
複数の水槽管理
メリット・群を抜いた正確性の高さと使いやすさ
・比重に加えて塩分濃度(ppt表記)も表示可能
・水温計測機能も備えた製品が多い
デメリット・本体自体が比較的高価
・校正には専用の校正液が必要
・電子機器のため電池交換が必要

比重計の校正

コンパクト比重計は一度ズレが生じてしまうと買い替えるしかありませんが、屈折比重計とデジタル比重計は校正を行うことでズレを補正し、正しい数値で計れるようになります。

屈折比重計の校正

屈折比重計の校正には専用の校正液などは必要ありません。
塩分を含まない真水があれば充分です。

大雑把な校正であれば水道水でも問題ありませんが、硬度の高い地域など水道水の水質によっては極わずかなズレが生じる可能性があります。可能であればRO水やドラッグストアで購入できる精製水などを用いて校正するのが推奨です。

精製水イメージイラスト

デジタル比重計の校正

デジタル比重計の校正には専用の校正液が必要です。
製品により校正液の中身が違うことがあるため、必ず使用している製品用の校正液を確認しておきましょう。

基本的には特定の値(35.0pptもしくは30.0pptなど)の塩水を校正液として用いる製品が多いので、デジタル比重計を複数持っていれば自前で校正液を作ることも可能です。※必ず校正済みで正しい数値を表示している比重計をご使用ください。

30.0ppt基準の校正液
35.0ppt基準の校正液

意外な落とし穴 比重計のズレにご注意を

最後に比重計のズレについて。

これまでご紹介してきたように、どの種類の比重計を使用していても、表示される数値には少なからず“ズレ”が生じる可能性があります。精密な測定が可能とされる屈折式やデジタル式の比重計であっても例外ではありません。

そのため、水槽の比重を計る前には必ず「真水で計測して1.000を表示する」ことを確認しましょう。
これは、比重計が正しく校正されているかを確かめる基本的な手順です。

比重の測定は海水水槽管理の基礎であり、日常的に行われる作業だからこそ、慣れてくるとつい油断が生じがちです。実際に、サンゴ水槽の調子が崩れ、水質には問題が見られないにもかかわらず、原因が比重計や水温計の誤表示だったというケースも少なくないのです。

最も基本的な部分だからこそ、常に丁寧に確認し、正確な数値を把握することが安定した飼育環境を保つための大切な一歩となります。

比重計の選び方 まとめ

今回は、比重計の種類ごとにその特徴と用途について解説しました。
海水魚やサンゴの飼育において、比重計は塩分濃度を管理するために欠かせない道具です。

比重計には、コンパクト型・ボーメ計・屈折式・デジタル式の4種類があり、それぞれに適した使用環境や条件があります。そしてサンゴ水槽では、精度の高い屈折式やデジタル式の使用が推奨されます。

初心者の方には、扱いやすく正確性も高い屈折式比重計から始めるのがオススメです。

ただし、どの比重計であっても、使用状況や経年劣化によって表示される数値にズレが生じる可能性があります。
そのため、定期的な校正や、真水での確認を行うことが大切です。

基本的な道具だからこそ、慣れていても油断せず、ていねいな管理を心がけましょう。

CORALROOM Writer R

ライフワークはアクアリウムの仕組みを紐解いていくこと。 リーフタンクの生態系をミクロフローラとケミカルサイクルの要素からも解説します。

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