マリンアクアリウムに発生する厄介者として扱われるカーリー(アイプタシア)。
サンゴのいるリーフタンクではペパーミントシュリンプなどの捕食者に頼ることが難しいため、基本的にはカーリー駆除剤を使用して駆除します。
ここではカーリー駆除剤がどういう原理でカーリーを駆除するのか、そしてその使用方法について解説していきます。
目次
駆除の仕組み
市販されているカーリー駆除剤には「液体の中に白い粉末が入っている」ものが多く見られます。
カーリー駆除剤にとって重要な機能はこの白い粉末にあります。
この白い粉末は水酸化カルシウムなど水溶性があまり高くない(水に溶けるがすぐには溶け切らない)強アルカリの水酸化物からなるもので、強アルカリによるタンパク質の加水分解作用によってカーリーなど駆除対象の体組織を溶かします。
基本的には白い粉末がゆっくり水に溶けることにより、じわじわとカーリーの体組織を溶かしていきます。
そのため、カーリーを駆除するにはこの白い粉末をしっかりと被せることが重要です。
製品によっては液体部分に水酸化ナトリウムを加えているものもあり、即効性を高めているものもあります。
総じてカーリー駆除剤は強アルカリの物質を含む製品となるため、取り扱いには注意が必要です。
それを前提として、使用および保管に臨んでください。
使い方とそのポイント
使い方は非常にシンプルです。
ボトル内の白い粉末をスポイトやシリンジで液体ごと吸い出して、カーリーが白い粉末に埋まるようにしっかりと吹きかけるだけです。
使用時に以下のポイントを押さえれば、ほぼ確実にカーリーを駆除することができるようになります。
カーリーの体が白い粉末で埋まるように吹きかける
このとき重要なのは、「カーリーの全身が白い粉末で埋まる」ようにすること。
カーリーは非常に強い再生力を持っているため、体組織が一部残ってしまうとそこから再生してしまうことがあります。
カーリー駆除剤の白い粉末はそんな再生力の強いカーリーの体組織を完全に溶かしきるため、ゆっくりじわじわと効いていく作用になっています。
そのためカーリーの全身を白い粉末で埋めるようにして吹きかける必要があるのです。
とくに体の大きい個体は耐久力と再生力も強いため、出し惜しみせずカーリーの全身が埋まる量を使います。
なぜ強アルカリの駆除剤を使用して体組織の駆除を行うかの理由については、こちらの記事をご覧ください。
水流で粉末が流されないようにする
粉末がカーリーの体から離れて流れてしまうようだと駆除できません。
粉末は水を含んでふわふわした状態になっているため、水流がある場所では容易に吹き飛ばされてしまいます。
水流のある場所にいるカーリーに対してはサーキュレーターを止めて駆除作業を行うことがポイントです。
もしくはサーキュレータの向きを変えて駆除するカーリーのいる場所に水流が当たらないようにしてください。
大量に駆除する必要があるとき
カーリーが大量に増えてしまった場合は1匹ずつカーリー駆除剤を吹きかけて駆除しますが、1度で大量に使いすぎると小型水槽などではpHを上げてしまう可能性があります。
基本的には白い粉末がゆっくりと溶けていくので、水量に対してよほど大量に使いすぎなければそれほど心配しなくても大丈夫です。しかし、30cmキューブ水槽など小型水槽に対して、一度にボトル1本を使い切ってしまうような使い方は推奨できません。
水量に対して少量の使用であれば炭酸化の作用によりpHが上がり過ぎてしまうことはないので、安心して使用できます。
しっかりと駆除するにはカーリーの体が白い粉末に埋もれるくらいに吹きかける必要がありますので、水量が限られる小型水槽(30cmキューブ水槽以下)では1日あたりの駆除数を「大型個体で5匹、小型個体で10匹」程度に留めておくのが安全です。
体の大きい個体は配偶子を放出して新しく幼体を生む可能性があるため、大きな個体から順を追って駆除していきましょう。小さい個体は後日に対処しても大丈夫です。
カーリー以外の生物の駆除も可能
強アルカリの作用を利用した直接噴霧タイプの駆除剤ですので、カーリー以外にも厄介者となる生物の駆除に使用できます。
リーフタンクではハネモやアミジグサといった海藻食の生物でもなかなか食べない種類がいますが、そういったサンゴの飼育に邪魔となってしまう海藻類を駆除することにも使用できます。
海藻の場合は枯死した藻体が残りますので、変色して枯死したことが確認できたら手で取り除きましょう。
他にも大きく動き回らない生物であればカーリー駆除剤を使って駆除することが可能です。
使い方の手順
カーリーをしっかり駆除するために下記の手順を守って使用してください。
処置後、1日経過してカーリーが完全に消えていれば駆除成功です。
体組織が残っていると再生してしまうので、その場合はもう一度同じ手順を繰り返します。
白い粉末がサンゴにかかってしまった場合は、慌てずスポイトで海水を吹きかけて飛ばすだけで大丈夫です。マメスナギンチャクやスターポリプなど外皮の厚いサンゴであれば、ポリプが閉じた状態で少量の粉がかかっても問題はありません。
表皮の薄いサンゴは共肉上に粉が乗っていると、その部分が痛むことがあるので注意しましょう。
使用上の注意
カーリー駆除剤は強アルカリの物質を含んだ製品であることから、取り扱いには注意が必要です。
具体的にはタンパク質を溶かす作用から、人の体組織に対しても影響があります。
そのためボトル内の液体が肌に触れたり、飛沫が目など粘膜部に入らないように注意しましょう。
しっかりと安全を確保するためには、水を通さないポリ製使い捨て手袋(液体が浸みてしまう軍手などはNG)や保護メガネなどを着用してください。
手など体に付着してしまった場合はすぐに流水でよく洗い流してください。
目に入ってしまった場合は数分間水で慎重に洗い流し病院で診察を受けてください。
こういった危険もあるため小さなお子様がいるご家庭などでは保管場所にも注意しましょう。
お子様の手が届かない高所や、鍵をかけられる薬品箱の中に収容するなどして、かんたんには手に取れないよう厳重に保管してください。
保管方法
カーリー駆除剤は水酸化物の強アルカリを利用した製品です。
そのため開封後に長期間外気に触れすぎていると空気中の二酸化炭素と反応して炭酸化が進み、充分に効果が得られなくなってしまうことがあります。
炭酸塩に変化してからもある程度のアルカリ度は保持されますが(水酸化物のpH=約12、炭酸塩のpH=約11~10)、炭酸化が進行すると炭酸水素塩に変化します。
さらに炭酸化が進行して炭酸水素塩にまでなってしまうとpHが8~9ほどに落ちてしまい、こうなってしまうと再生力の強いカーリーを完全に溶かしきることができなくなってしまいます。
筆者は重曹(炭酸水素ナトリウム)や過炭酸ナトリウムなどでカーリーを駆除できるか実験してみたことがありますが、結果として駆除はできませんでした。
カーリー駆除剤を使用してカーリーを完全に駆除できないときは「白い粉末を充分に吹きかけられていなかった」か「カーリー駆除剤が炭酸化して効果が落ちていた」というケースが多数を占めます。
使用後は容器のフタをしっかり閉めて高温にならない涼しい場所で保管するようにしてください。
まとめ
カーリー駆除剤は生物による駆除に頼れないリーフタンクの本水槽内に現れたカーリーを駆除するために必須となるアイテムです。しかし、強アルカリの物質を含む製品であるため使用や保管には注意が必要です。
しかし、適切な使い方を行えば確実な駆除が可能です。
カーリー駆除のためにライブロックなどを取り出して半田ごてで焼くという手法も昔からありますが、手順をしっかり踏んでカーリー駆除剤を使用すればカーリーが付着している基質をわざわざ取り出さなくても完全な駆除が可能なのです。
カーリー駆除剤使用のポイント |
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【使用時】 ・容器内の白い粉末をカーリーが埋まるように吹きかける。 ・白い粉末が水流で流されないようにする。 ・1日後にカーリーの体組織が残っていたらもう一度吹きかける。 【使用後】 ・開封した容器はすぐに閉めて外気に触れにくいようにする。 ・子供の手が届かない場所に保管する。 【取り扱いにおける注意点】 ・強いアルカリ性のため、手など肌に触れないようにする。 ・目に入った場合は慎重に水で洗い流し、速やかに病院で診察を受ける。 |
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