リーフタンクを美しく保つために避けられない課題が、藻類(コケ)の増殖です。
レイアウトロックやガラス面に広がるコケは、景観を損ねるだけでなく、サンゴの成長を妨げることもあります。
この問題を自然な方法で解決してくれる存在が、ギンポ(または英名でブレニー)の仲間です。
今回は、コケ取り要員としてのギンポ類の機能に焦点を当て、解説していきます。
目次
コケ取りの定番
ギンポは底生性の小型魚で、岩やガラス面に付着した藻類(コケ)を食べる種類がいます。
ただし、どんなコケでも食べてくれるわけではありません。
ギンポは通称で「茶ゴケ」と呼ばれる、珪藻類を中心に食べる性質を持っています。
この性質がリーフタンクでは、薬剤や過剰な掃除に頼らず、水槽内のバランスを保ちながらコケをコントロールする上で有効に働きます。
なお、緑色のコケ(緑藻類)に対してはほとんど食べません。
これに対しては、別の対策を講じる必要があります。
スライム状のコケ(藍藻類、シアノバクテリア)にも多少の効果が見込めます。
ただし本格的な対策にはならないので、発生初期であれば役に立つかもしれない程度、といった具合です。
ガラス面やライブロック上の表面に生えるコケを食べるのは得意ですが、房状、繊維状の藻類に対しては効果が薄いです。そのようなコケに対しては、エビ類のほうが有効です。
また、すべてのギンポがコケを食べるわけではありません。
肉食性や雑食性の種も存在するため、コケ取り要員として導入する場合は、食性の確認が大切です。
定番はヤエヤマギンポ
リーフタンクで最もポピュラーなのは、ヤエヤマギンポ(Salarias fasciatus)です。
日本では八重山地方で多く見られることからこの名で呼ばれていますが、本種は広域分布種であり、国外まで含めると西部太平洋~インド洋までと非常に広範囲に生息しています。
- 特徴:藻類食性が強く、ライブロックやガラス面のコケを効率よく食べる
- 飼育しやすさ:丈夫で初心者にもおすすめ
- 注意点:水槽内のコケが減ると餌不足になるため、人工飼料を補助的に与える必要があります。
水槽内のコケのみでは、餌が不足することが多いです。
コケのみで餌を与えていないと、いつの間にか餓死して水槽内から姿を消してしまうことも……。
ハギ類など海藻を好む魚種に用いられる、海藻配合タイプの人工飼料を併用すると良いでしょう。
比較的入手しやすいギンポ類
以下は、マリンアクアリウムで比較的流通している藻類食性のギンポ類です。
なお、マリンアクアリウムの文脈で「ギンポ」といえば、一般的にはヤエヤマギンポをはじめとする藻類食性のカエルウオ類を指すことが多いです。
コケを食べる主なギンポ
いわゆるコケ取り要員として重宝されるギンポ類は以下の通りです。
ヤエヤマギンポ

- 学名:Salarias fasciatus
- 最大全長:約15cm
- 特徴:最もポピュラーなコケ取りギンポです。
小型水槽なら、1匹でも十分な働きをしてくれることが多いでしょう。
最大で15cmと、比較的大きくなる点に留意します。
60cmレギュラーサイズ以上の水槽であれば、ひとまず本種が最有力候補となるでしょう。
流通量も多く、入手しやすい点もうれしいところです。
▼より詳しくはこちら
フタイロカエルウオ
- 学名:Ecsenius bicolor
- 最大全長:約8cm
- 特徴:体の前後で2色に分かれる美しい種として知られます。
人工飼料に慣れると藻類を食べにくくなる傾向があります。
発色は派手ですが、コケ取りとしての働きぶりは、他のギンポ類と比較すると、一歩劣るかもしれません。
▼より詳しくはこちら
ロウソクギンポ
- 学名:Rhabdoblennius ellipes
- 最大全長:約8cm
- 特徴:藻類も食べますが、人工飼料にも餌付きます。
ヤエヤマギンポよりも小型水槽向けです。
1匹当たりのコケ取り能力はヤエヤマギンポに劣りますが、30cmキューブ以下の小型水槽や、他に底生魚が多い水槽では、ヤエヤマギンポよりも本種を採用したほうが有効となるケースもあります。
スマイリーブレニー(イシガキカエルウオ)
- 学名:Ecsenius yaeyamaensis
- 最大全長:約8cm
- 特徴:基本的な性質はロウソクギンポに準じます。
ヤエヤマギンポよりも小型水槽向けです。
本種も1匹当たりのコケ取り能力はヤエヤマギンポに劣りますが、特に珪藻(茶ゴケ)を好んで食べてくれます。
他のギンポ類に比べ流通量がやや少なく、若干入手しづらい点があります。
▼より詳しくはこちら
他にも様々な種類のギンポが流通しています。
- 基本的にはヤエヤマギンポを選択でOK!
- 特定の条件下では、他のギンポ類を採用するほうが有力となるケースもあります。
より詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
コケを食べないギンポ
以下のギンポは、藻類をほとんど食べないため、コケ取り目的には不向きです。
それぞれ観賞魚として興味深い性質を持つ魅力的な種ですが、”コケ取り要員として導入する場合”は、全く役に立ちません。
他のギンポ類を選ぶと良いでしょう。
「ギンポ」違いに気をつけよう
一方、標準和名が「ギンポ」という魚もいます。(学名:Pholis nebulosa)
マリンアクアリウムの文脈で「ギンポ」と呼ばれる魚の多くは、イソギンポ科に属する藻類食性のカエルウオ類です。
一方で、生物学や釣り、食材としての文脈では、一般に「ギンポ」といえばこちらの魚種を指します。

マリンアクアリウムではなじみの薄い魚種ですが、釣り人にはなじみ深い魚種かもしれません。
本種は日本近海の沿岸に広く生息しており、藻食性のカエルウオ類とは全くの別種です。
観賞魚としての流通はほぼありません。
一方で堤防から釣れることもあるため、採集個体が水槽に導入されるケースがあります。
しかし、肉食傾向の強い雑食性のため、コケ取り要員としては不向きです。
文脈によってそれぞれ全く異なる魚種を指していますので、混同しないようにしましょう。
「ギンポ」の分類の話
ここで紹介した標準和名「ギンポ」(Pholis nebulosa)は、近年の分類整理により「ワニギス目(Zoarcales)」に属する魚となりました。
その一方で、マリンアクアリウムではおなじみのヤエヤマギンポ(Salarias fasciatus)は、「イソギンポ目(Blenniiformes)」に属することとなりました。
以前はどちらもスズキ目に属しており、科レベルで異なるグループという扱いでした。
現在ではギンポとヤエヤマギンポは、目レベルで異なるグループに再分類され、系統的に大きく異なる魚種という位置づけになりました。
スズキ目解体後の●●ギンポ科の振り分け | |
---|---|
ワニギス目![]() | イソギンポ目![]() |
・ニシキギンポ科 ・ボウズギンポ科 ・ベラギンポ科 ・トビギンポ科 | ・イソギンポ科 ・コケギンポ科 ・アサヒギンポ科 ・ヘビギンポ科 |
マリンアクアリウムの文脈で「ギンポ」と呼ばれ、藻類の除去、いわゆるコケ対策に効果があるものは、そのほとんどがイソギンポ科の魚種になります。
導入のポイント
ギンポの仲間は、正しく選べばリーフタンクで抜群の働きをしてくれます。
特に、下記3点を意識して導入を心掛けましょう。
- 食性を確認:ギンポ=コケ取り要員という思い込みはNG。種類によって働きが異なります。
- 隠れ家を用意:レイアウトロックの隙間など、落ち着ける場所を確保しましょう。
- 餌不足対策:コケが減ったら人工餌を与えましょう。
まとめ
ギンポは、リーフタンクにおける藻類対策として非常に有効な存在です。
特にヤエヤマギンポは信頼できるコケ取り要員としておすすめですが、他の藻類食性ギンポも選択肢に入れることで、より多様なレイアウトや混泳が楽しめます。
ただし、種類選びと飼育管理を誤ると意図した効果が得られず、逆効果になることもあるため、導入しようとしている種の性質はしっかり確認しましょう。
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