前回はカルシウム添加剤の入門編としてアラゴナイト系カルシウム添加剤について解説しました。
今回は、即効性のカルシウム添加剤について解説します。
このタイプの添加剤は、使用するとすぐに水槽内のカルシウムイオン濃度を高めることができるため、成長の早いハードコーラルを多く飼育している水槽では特に効果的です。
ただし、即効性がある分、使用量やタイミングを誤ると水質に影響を与える可能性があるため、慎重な取り扱いが求められます。適切に使いこなすには、ある程度の化学的な知識や、サンゴ飼育の経験が必要になる場面も少なくありません。
そのため、初心者にとってはやや扱いづらいと感じることもあるかもしれません。
しかし、基本的な仕組みを理解し、丁寧に使用すれば、ビギナーでも充分に活用することが可能です。
今回の解説では、使用にあたっての注意点と、代表的な製品別の特長などについて触れていきます。
目次
使用にあたって知っておきたいこと
即効性のカルシウム添加剤には、塩化物や硫酸塩を主成分とした製品が多く見られます。
これらは、サンゴがすぐに吸収・利用できる形態でカルシウムを供給できるのが特徴です。
特に、塩化カルシウムや硫酸カルシウムをベースとした添加剤は、pHが7〜8前後の中性〜弱アルカリ性に調整されているものが多く、pHとKHに大きな変化を与えることなく、カルシウムや関連元素を効率よく補うことが可能となっています。
製品によって配合されている成分はさまざまで、カルシウム塩のみを含むシンプルなタイプから、マグネシウムやストロンチウムなど複数の骨格形成元素を含む複合タイプまで、幅広く展開されています。水槽内のサンゴの種類や成長段階に応じて、適した製品を選ぶことが重要です。
また、これらの添加剤を使用する際は、海水中に含まれるイオンの総量を把握しておくと、製品の使い分けや添加量の調整に役立ちます。

※海域や環境条件などによって数値には若干の変動があります
特にカルシウムについては、マグネシウムとの比率が重要です。
一般的には、カルシウム1に対してマグネシウム3の割合(約1:3)を保つように調整することが推奨されています。
また、陰イオンのバランスにも注意が必要です。
理想的には、塩化物イオンと硫酸イオンの比率を約7:1に維持することで、サンゴの骨格形成に関わる代謝を安定させることができます。
これらのイオンバランスが大きく崩れると、サンゴの成長や健康に悪影響を及ぼす可能性が高まります。
そのため、即効性のカルシウム添加剤を使用する際は、目的に応じて製品を選び、イオンバランスを意識した使い分けが大切です。
使用前には、飼育水のカルシウム濃度、KH(炭酸塩硬度)、そしてマグネシウム濃度を試薬などで必ずチェックしましょう。これらの数値を把握することで、より安全かつ効果的に添加剤を活用することができます。

添加剤の使用における失敗例の多くは、過剰添加によるものです。
特に、水質を確認せずに添加剤を投入してしまうと、水槽環境が急激に変化し、サンゴや他の生体に深刻なダメージを与える可能性があります。最悪の場合、水槽全体の崩壊につながることもあるため注意が必要です。
こうしたリスクを避けるためには、添加剤を使用する前に必ず飼育水の水質をチェックしましょう。
カルシウム添加剤を使用するときは、カルシウム濃度、KH(炭酸塩硬度)、マグネシウム濃度などを試薬などで測定し、現在の水質を正確に把握することが、安全かつ効果的な添加の第一歩です。
なお、海水中のイオンバランスが乱れてしまった場合は、人工海水を使った多めの水換えによってリセットすることが可能です。
大量に水を入れ替える際は、使用している人工海水の種類を変えず、同じ製品を使うことが推奨されます。
異なる製品を混用すると、配合成分の違いによって水質の急変が起こりやすくなる可能性があるため注意が必要です。
また、KH(炭酸塩硬度)やpHが急激に変化すると、ミドリイシなどのサンゴが色落ちする原因になることがあります。水換えを行う際は、水質が急激に変化しないよう、事前に数値を確認しながら慎重に作業を進めましょう。
即効性カルシウム添加剤 製品解説
ここからは実際に販売されている即効性カルシウム添加剤の代表的なものを、製品別に特徴を解説していきます。このタイプは大きく分けて2種類があり、カルシウム塩単体の添加剤と、他の元素も配合された複合添加剤があります。
カルシウム塩単体の添加剤
カルシウム塩単体の添加剤は、pHやKHへの影響を最小限にカルシウムのみを添加したいときに使用します。
塩化物主体のものや、中には有機酸でキレートされたカルシウムの添加剤などもあります。
カルシウムのみをピンポイントで添加したい場合はこのタイプが有効ですが、炭酸塩は含まれていない製品があります。KHを上げたい場合は炭酸塩が含まれるものか、炭酸塩のみの添加剤と組み合わせる必要があります。
また、海水中のカルシウムとマグネシウムの比率がカルシウム過剰の方向に崩れると、カルシウムイオンが炭酸カルシウムとして沈殿しやすくなり、KHも下がるリスクも生じます。
使用にあたっては、事前に飼育水に含まれるカルシウムとマグネシウムの濃度を必ず確認しましょう。
| Brightwell「カルシオン」 |

| 主成分 | 塩化カルシウム ※メーカー表記より引用 |
| 特徴 | ・pHの変化を最小限に抑えたカルシウム添加が可能 ・即効性のカルシウム添加剤としては比較的使いやすい |
| 適した用途 | ・pH変化に敏感なSPS水槽へのカルシウム補給 ・KHとpHへの影響を抑えたカルシウム補給 |
| 使用上の注意点 | ※過剰添加による塩化物イオン過多に注意 ※KHを上げるには別の添加剤が必要 |
| 併用推奨 ※同メーカー | ・アルカリン 8.3(KH上昇) ・リーフバッファー(KH上昇) ・マグネシオン(硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム) ・ストロンション(塩化ストロンチウム) |
| Seachem 「リーフカルシウム」 |

| 主成分 | 有機カルシウム(ポリグルコン酸複合カルシウム) ※メーカー表記より引用 |
| 特徴 | ・グルコン酸によりキレートされた生体に吸収されやすいカルシウム剤 ・海水のpHとKHへの影響が最小限に抑えられている |
| 適した目的 | ・成長が早いSPS(ミドリイシ、コモンサンゴ)へのカルシウム補給 ・KHとpHへの影響を抑えたカルシウム補給 |
| 使用上の注意点 | ※嫌気性バクテリアの活性化により、硝酸塩レベルが下がりやすくなる ※KHを上げるには別の添加剤が必要 |
| 併用推奨 ※同メーカー | ・リーフカーボナイト(炭酸塩と重炭酸塩の混合物) ・リーフバッファー(炭酸塩と重炭酸塩の混合物) ・リーフフュージョン(2液混合型の複合添加剤) |
カルシウム+複数種類の元素(複合添加剤)
複合タイプの添加剤には、カルシウムだけでなく、サンゴの骨格形成に必要な複数の元素がまとめて配合されています。これにより、1つの製品で複数の成分を同時に補えるため、手軽に使える点が魅力です。特にビギナーの方にとっては、管理の手間が少なく、導入しやすい選択肢といえるでしょう。
ただし、複数の複合添加剤を併用すると、特定の元素が過剰になる可能性があります。
こうしたリスクを避けるためには、同じメーカーの製品や同一シリーズで統一することが推奨されます。

メーカー提唱のリーフケアプログラムに基づいての使用が想定された製品群となっています
複数の添加剤を使う場合は、それぞれの製品に含まれる成分を確認し、過剰添加を防ぐことが重要です。
特に異なるメーカーの製品を組み合わせる際には、成分の重複や相互作用に注意が必要です。
製品ごとに配合されている成分や濃度が異なるため、ある程度の化学的な知識や飼育経験が求められる場面もあります。
成分の理解が不充分なまま併用してしまうと、水質バランスが崩れ、サンゴや他の生体に悪影響を及ぼすリスクが高まります。
添加剤の併用に不安がある場合は、同じメーカーの製品で統一するのが安心です。ただし、同一メーカーの製品であっても、併用が推奨されていない場合がありますので、必ず製品の注意書きを確認してから使用しましょう。
メーカーごとに製品の設計思想や、想定される管理スタイルには違いがあります。
そのため、使用する添加剤はメーカーや製品シリーズを統一することで、水槽環境の安定維持に繋げやすくなるのです。
| レッドシー「リーフファンデーションA カルシウム+」 |

| 主成分 | 塩化カルシウム、塩化ストロンチウム、バリウム ※メーカー表記より引用 |
| 特徴 | ・サンゴの骨格形成に必要な元素をバランス良く配合 ・海水のpHとKHへの影響が最小限に抑えられている |
| 適した用途 | ・成長の早いSPS水槽 ・ストロンチウムを要求するLPS水槽 |
| 使用上の注意点 | ※過剰添加によるストロンチウム過多、バリウム過多に注意 ※KHを上げるには別の添加剤が必要 |
| 併用推奨 ※同メーカー | ・リーフファンデーションB(KH) ・リーフファンデーションC(マグネシウム) ・コーラルカラーA、B、C、D(色揚げ用微量元素) ・他「リーフケアプログラム」に基いた製品 |
| レッドシー「コンプリートリーフケア スモール」 |

| 主成分 | サンゴ水槽で消費される36種類の主要元素、中間元素、微量元素のすべて ※メーカー表記より引用 |
| 特徴 | ・カルシウムの数値を基準に、4液構成でサンゴに必要な全ての元素を補給可能 ・リフジウムを使用しないリーフシステムに対応した総合添加剤 ・ドーシングポンプでの使用も想定した構成 |
| 適した用途 | ・サンゴ飼育水槽全般 ※サンゴの種類や構成により4液のレシピ変更で対応可能 |
| 使用上の注意点 | ※週1回、カルシウム値の測定が必要 ※総合的な複合添加剤のため、他社製の添加剤との併用は避ける ※同社製品のファンデーション&トレースカラーズとの併用も避ける |
| 併用推奨 ※同メーカー | ・リーフエナジーAB+(栄養剤) ・NO3:PO4-X(栄養塩コントロール:バクテリア炭素源) |
| FaunaMarin「READY2REEF」 |

| 主成分 | 有機カルシウム、マグネシウム塩、炭酸塩、微量元素混合物、有機酸 ※メーカー表記より引用 |
| 特徴 | ・リーフタンクに必要とされる最重要成分がワンセットになっている ・キレートされたサンゴが吸収しやすい有機カルシウム配合 ・サンゴや微生物の炭素源となる有機酸配合 |
| 適した用途 | ・サンゴ飼育水槽全般 |
| 使用上の注意点 | ※成分が重複する微量元素添加剤との併用を避ける |
| 併用推奨 ※同メーカー | ・CORAL WOW!(硝酸塩レベルの調整) ・Amin (複合アミノ酸) ・Coral Vitality(サンゴと共生するマイクロバイオーム活性剤) |
| Brightwell「リキッドリーフ」 |

| 主成分 | アラゴナイト、硫酸カルシウム、塩化カルシウム、硫酸ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、硫酸ポタジウム(カリウム)、塩化ポタジウム ※メーカー表記より引用 |
| 特徴 | ・ハードコーラルが骨格形成に必要な元素をバランス良く配合 ・塩化物と硫酸塩での配合により、陰イオンバランスを崩しにくい |
| 適した用途 | ・pHの変化を嫌うSPS水槽 ・ストロンチウムを要求するLPS水槽 |
| 使用上の注意点 | ※過剰添加によるストロンチウム過多に注意 ※KHを上げるには別の添加剤が必要 |
| 併用推奨 ※同メーカー | ・アルカリン 8.3(KH上昇) ・リーフバッファー(KH上昇) ・リプレニッシュ(29種の微量元素) ・コーラルカラー(色揚げ用微量元素) |
| アクアフォレスト「AF Build」 |

| 主成分 | 炭酸カルシウム、ヨウ化物、炭酸塩 ※メーカー表記より引用 |
| 特徴 | ・サンゴの骨格形成とpH安定化を目的としたカルシウム添加剤 ・pHとKHレベルを上昇させる複合型添加剤 ・小型容器で使いやすい構成(使用目安:飼育水100リットルに対し1日1滴) |
| 適した用途 | ・ハードコーラル/ソフトコーラル混在水槽 ・カルシウムリアクター使用水槽の補助 ・小型のフラグサンゴ育成 |
| 使用上の注意点 | ※小型容器で濃い成分構成になっているため過剰添加に注意 ※過剰添加によるKH過上昇、ヨウ素過多に注意 |
| 併用推奨 ※同メーカー | ・AF Amino Mix(アミノ酸) ・AF Energy(脂質、炭水化物) ・AF Vitality(ビタミン) |
カルシウム添加剤ガイド:即効性カルシウム添加剤 まとめ
今回は、中〜上級者向けのカルシウム添加剤として広く使用されている「即効性カルシウム添加剤」について解説しました。
このタイプの添加剤は、迅速にカルシウムを供給できるため、特にハードコーラルの成長を促進したい水槽では非常に有効です。ただし、効果が高い分、使用には注意が必要であり、化学的な知識や水質管理の経験が求められる場面もあります。
とはいえ、基本的な仕組みを理解し、正しく使いこなすことができれば、初心者の方にとっても大きなステップアップにつながります。水質をしっかりと把握しながら丁寧に管理することで、より高度な飼育環境の構築が可能となるでしょう。
添加剤を使いこなすためには、「どんな成分が含まれていて」「どんな特徴がある製品なのか」をしっかりと把握することが、最大のコツとなります。
即効性カルシウム添加剤は、使い方次第で水槽管理の幅を広げてくれる心強いツールです。
ぜひ、目的に応じて適切に活用してみてください。
| 即効性カルシウム添加剤のメリット |
| ・塩化物や硫酸塩主体で、pHとKHの急変を起こしにくい構成 ・即効性が高く、カルシウム消費が多い水槽でも効果的 |
| 即効性カルシウム添加剤のデメリット |
| ・即効性が高いため、過剰添加による水質変化が出やすい ・炭酸塩を含まない製品が多く、KH調整には別途添加剤が必要 ・複合添加剤は、人工海水や別の添加剤との組み合わせによっては、元素過剰を招くリスクがある |

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