マメスナギンチャクはバリエーション豊富な色彩を持ち、サンゴの仲間としては比較的飼育環境への要求が低く、飼育のハードルが低いことから初心者向けのサンゴとして位置づけられています。
しかしながら、実はかなり奥深い生き物でもあるのです。
目次
実は奥深い分類の話
マメスナギンチャクは流通量も多く、サンゴを取り扱っているアクアリウムショップであればほとんどの店で見かけることができるでしょう。
様々なカラーリングや産地のものが販売されていますが、「マメスナギンチャク」の名前で流通しているものは、実は一種類ではなく、複数の隠ぺい種が内包されている可能性があります。
というのも、マメスナギンチャクはご存じの通り色彩変異が多く、分布もインド洋~太平洋と非常に広域です。
日本近海に分布するマメスナギンチャク類について調査が入ったのは、2000年代になってからのこと。
また調査の結果、日本近海(浅海域)に分布するものは4種類であることが分かりました。
日本のものはこれだけ細分化されましたが、海外のものはまだ未解明のものも多いといわれています。
また日本のものも、他にもまだ見つかっていない種が存在する可能性もあるでしょう。
マメスナギンチャクの仲間の分類には、多くの謎が残されているのです。
実際に入荷のある個体を見るとその特徴はまさに千差万別ですが、この中に未記載種が含まれている可能性は大いにあり得ると考えられます。
マメスナギンチャクは数多くの流通が見られますが、マメスナギンチャクの仲間(Zoanthus属)であることまでは間違いありません。
しかし、入荷時に具体的な種名が記録されていることは少ないため、種の特定は困難です。
ひょっとすると、未記載種である可能性もあります。
標準和名「マメスナギンチャク」という生物は存在しておらず、「マメスナギンチャク」の名で販売される個体は、つまるところ「Zoanthus属」の何らかの一種ということになります。
現行の記載種
マメスナギンチャクが属するZoanthus属には、2024年12月現在、以下の種が記載されています。
アクアリウムルート上で流通する個体に関しては、種の特定は困難なことも多いです。
「マメスナギンチャク」として流通する個体の中には、以下の種が含まれている可能性があります。
学名 | 和名(もしくは流通名) | 備考 |
Zoanthus sansibaricus | キクメマメスナギンチャク | 太平洋~インド洋 日本にも分布 |
Zoanthus aff. vietnamensis | フジマメスナギンチャク | 太平洋~インド洋 日本にも分布 外観はvietnamensis似 遺伝子はkuroshioに近縁 |
Zoanthus kuroshio | クロシオマメスナギンチャク | 太平洋~インド洋 日本にも分布 |
Zoanthus gigantus | ブドウマメスナギンチャク | 太平洋~インド洋 日本にも分布 |
Zoanthus sociatus | グリーンシーマット | カリブ海に分布? |
Zoanthus pulchellus | 和名無し | カリブ海に分布? |
Zoanthus solanderi | カリブ~西部大西洋に分布? | |
Zoanthus durbanensis | 南アフリカに分布? | |
Zoanthus natalensis | 南アフリカに分布? | |
Zoanthus kealakekuaensis | ハワイに分布? | |
Zoanthus vietnamensis | ベトナムに分布? 外観がフジマメスナギンチャク似 | |
Zoanthus coppingeri | オーストラリアに分布? | |
Zoanthus mantoni | オーストラリアに分布? | |
Zoanthus praelongus | オーストラリアに分布? | |
Zoanthus robustus | オーストラリアに分布? |
サンゴとイソギンチャクの中間系?
マメスナギンチャクは、アクアリウムの世界においてソフトコーラルの一種として扱われています。
しかしながら、分類学上は実は造礁サンゴ(イシサンゴ)でもイソギンチャクでもありません。
花虫綱六放サンゴ亜綱スナギンチャク目スナギンチャク科 に属する生物であり、強いて言えばサンゴに近い、といったような位置づけにいる生物です。
※多くのハードコーラルは花虫綱六放サンゴ亜綱イシサンゴ目、イソギンチャクは花虫綱六放サンゴ亜綱イソギンチャク目に属しています。
このように、実は目レベルで異なる生物だったりするのです。
※ウミトサカ目は八放サンゴ亜綱に含まれます。
様々な産地のマメスナギンチャク
マメスナギンチャクは広域分布であることから、実に様々な産地の個体が流通しています。
その一部を紹介します。
マメスナギンチャクは同種であっても、種内での色彩変異は実に多様です。
ただ、フジマメスナギンチャクのように一部の種では、特定の色彩しか発色しないものもいるようです。
もしかすると上記で述べた記載種の中のいずれか、あるいは未記載種の可能性があります。
インドネシア産
チャイナ産(東シナ海~南シナ海)
ベトナム産
オーストラリア産
実は奥深い育成の話
マメスナギンチャクは初心者でも育成可能。
・・・と、一般的にはいわれています。
もちろん、いくつかのポイントを抑えれば難しいわけではないのですが、この抑えるべきポイントを抑えていないと、意外とうまく行かないことがあるのです。
光合成のみでは栄養が不足する
ここが意外と落とし穴。マメスナギンチャクは給餌をほとんど必要とせず、光合成のみでも育成可能 といわれていますが、実は光合成のみでは栄養が不足することがあるのです。
特に痩せて体力が落ちている場合、栄養剤によるトリートメントは必須といえるでしょう。
エサを与えたほうが、与えた分成長が良くなります。
意外とキレイ好き
マメスナギンチャクは意外と清浄な環境を好みます。
具体的には、ポリプや共肉に残餌やゴミが付かない環境が理想的です。
残餌やゴミが付着したままだと、「ゾアポックス」という病気の発症を誘発します。
これは細菌類や寄生虫(微胞子虫など)の感染に対するマメスナギンチャクの免疫反応です。
つまり、白い粒々は腫物やできものが発生しているようなものなのです。
対策として、サーキュレーターなどを用い淀みのないランダムな方向からの水流を当てましょう。
残餌やゴミがポリプや共肉上に残らないように、こまめに取り除くことが重要です。
加えて、ビブリオ菌などの病原菌を抑制する作用のあるバチルス菌を中心としたバクテリア剤を併用するのもオススメです。マメスナギンチャクに感染する細菌類や寄生虫が増えにくい清潔な環境を作るための一助になります。
給餌と清潔な環境の両立
光合成のみでは栄養が不足するため意外と給餌が重要なこと。
そして、残餌が付着したままの状態にしないこと。
餌を与えれば、当然残餌も出やすくなります。
給餌と清潔な飼育環境の両立は、サンゴの飼育経験が少ないうちはなかなか難しいかもしれません。
マメスナギンチャクは最低限の設備でも飼育可能といわれていますが、前述の2つの条件を両立させるためには、結局のところ一般的なソフトコーラルが飼育できるスペックの設備は必要となるでしょう。
マメスナギンチャクは初心者向けといわれる一方で、意外と経験が要求される要素も持ち合わせています。
とはいえ、設備をしっかり整えてしまえば、さほど難しいことではなくなります。
実は奥深い マメスナギンチャクの話 まとめ
マメスナギンチャクは初心者向けサンゴとしてPRされがちですが、実はこのように奥深い要素も持っています。
- 「マメスナギンチャク」という標準和名の生物は存在せず、これは「Zoanthus属」に属する生物の総称です。
- 「マメスナギンチャク」という名で流通する個体には、未記載種も含め様々な種が含まれている可能性があります。
- 入荷時に種名が記載されていることはまれであるため、観賞用に流通している個体から種の特定は困難です。
- 光合成のみで飼育可能な初心者向きサンゴ、とされることも多いですが、意外と給餌は重要です。
- 給餌による残餌の処理と、清浄な環境維持の両立は、設備が不十分な場合には難しいと感じるかもしれません。
設備を整えれば、さほど難しいことではありません。
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