一見するとコモンサンゴのようなSPSに見える、プレート状に広がるLPSの仲間。
本種もカラーバリエーションが豊富で派手なカラーも多いことからコレクション性が高いため、海外でも高い人気を集めるサンゴです。
SPSライクな姿とは裏腹に、ハードコーラルの仲間としては非常に強健な性質で飼いやすいサンゴでもあります。
目次
基本情報
流通名 | キッカサンゴ |
学名 | Echinophyllia aspera ※Echinophyllia属の近縁種もキッカサンゴの名前で販売されることがあります。 |
分布 | 太平洋~インド洋の熱帯海域 |
グループ | ハードコーラル(LPS) |
飼育しやすさ | ★★★★★ ハードコーラルとしては非常に容易 |
入手しやすさ | ★★★★☆ 比較的よく見かける |
備考 | ハードコーラルとしては刺胞毒が強めなので、他のサンゴに触れないよう配置してください。 |
販売されているものは凸凹した板状のものが多く見られますが、自然の海中では大きな梅の花を思わせるように巻いた姿になることからキッカサンゴ(菊花サンゴ)の和名が付けられています。
英名ではその姿を器に見立ててChalice Coral(聖爵サンゴ)と呼ばれています。
※聖爵=キリスト教の聖餐に用いられる器
自然の海中下では地味な色彩のものが多いですが、水槽内の安定した環境で長期間育成することで派手な色彩に変化していくことが判明し、ミドリイシやマメスナギンチャクと並んでアメリカでフラグサンゴが流行るきっかけとなったサンゴでもあります。
性質も強健で育てやすく、色彩も派手になりカラーバリエーション豊富。そして成長も早く殖やしやすいことから、まさにフラグサンゴカルチャーを作り上げた立役者のひとつであるといえます。
キッカサンゴは「飼育者のスキル次第で、一見地味なサンゴでも美しく仕上げられる可能性がある」ということを世に知らしめました。単純にコレクションするだけではなく、育てる人によって新しいカラーバリエーションを生み出せる可能性もあるという奥深いサンゴなのです。
飼育要件
自生地の環境 / Habitat Sea Area |
・光合成のみでは栄養が不足しやすくなることがあります。
・適度な給餌や栄養剤の使用で調子が上がりやすくなり、成長も促進されるようになります。
適正水温 / Water Temperature |
・一般的なサンゴが好む水温を維持します。
・水温が30℃を超えると褐虫藻が失われ、白化することがあります。
光色のセッティング / Lighting Spectrum |
PARの目安 | 100~250 |
・サンゴの蛍光色素に対応した光色のものを使用しましょう。
・光量は中程度。蛍光色がきれいに出る程度で問題ありません。
・色揚げを行うのであればシアン~グリーン(460~550nm)の領域を強化しましょう。
水流 / Water Flow |
・コントローラー付きサーキュレーターの使用推奨。
・サンゴの上にゴミやデトリタスが蓄積しないような水流を作りましょう。
・成長を促進させたいときは水流を強めます。
エサの種類とサイズ / Feeding Menu |
・状態が上がれば給餌は行わなくても大丈夫ですが、適度な給餌を行うことにより成長が促進されます。
・ポリプがそれほど大きくないので、エサを与えるなら粒の小さいものや液体のものを使用します。
・給餌は残り餌が出ない程度の少量に留めます。
カラーバリエーション
キッカサンゴは成長に伴ってさまざまな色彩変化を見せてくれます。
それは産地や群体の素質(保有している色素タンパク質)、そして環境により変化します。
育てていくうちにどんな変化を見せてくれるのか?ということも、キッカサンゴ育成における楽しみのひとつです。
リーフタンクにおける飼育のポイント
キッカサンゴはハードコーラルとしては非常に強健なサンゴです。
飼育においては特別に難しいことはありません。一般的なソフトコーラルが飼育できている環境でも飼育自体は問題ありません。
しかし、状態良く美しい姿で成長させるにはハードコーラル飼育の基本をしっかり把握しておくことが必要です。
水質に関しては成長の早いハードコーラルであることから、カルシウムとマグネシウムの消費が早く要求量も高いので定期的な補充が必要になります。添加剤で補う他、ハードコーラル向けの人工海水を使った小まめな換水も有効です。
強健な性質なのですぐに弱るということはありませんが、リン酸塩など栄養塩の数値が高くなりすぎるのは骨格の形成に阻害をきたすため望ましくはありません。
充分な栄養を与えつつ、水質も富栄養になりすぎないように性能の高いプロテインスキマーも活用しましょう。
また、キッカサンゴはハードコーラルの中でも刺胞毒が強い部類に入るサンゴでもあります。
他のサンゴと接触しないように配置しましょう。
キッカサンゴへの給餌
頻繁な給餌を必要としないサンゴですが、LPSの仲間なのでなるべく給餌で栄養摂取量を増やしたほうが調子が上がりやすくなります。サンゴ用栄養剤で体力をつけさせつつ、粒が小さめのサンゴフードをポリプに吹きかけてあげましょう。
派手な蛍光カラーをより美しく見せるために
フラグで販売されているキッカサンゴには派手な蛍光カラーのものが多くみられます。
この蛍光カラーを強く出すためには微量元素の添加剤を使用しつつ、当てる光の波長域を考慮する必要があります。
微量元素の添加剤
微量元素の添加剤は、まずGFP(蛍光グリーンタンパク質)を強化するため鉄イオンを主軸にしたものを使用します。ただし、色揚げを進ませようと過剰添加してしまうのは厳禁です。
鉄イオンは藻類、特に珪藻類(茶ゴケ)も活発化するため過剰添加すると水槽内に茶ゴケが大量に出てしまうことがあります。また、二価の鉄イオンが酸化される際に酸素を消費することから投入量によっては水槽内が酸欠になる場合もあります。
色揚げに関する微量元素は鉄以外にも過剰に存在すると水槽内の環境を崩壊させる危険性があります。
使用量は必ず製品の規定量を厳守しましょう。
メーカーの規定量を則った添加であれば茶ゴケの発生や水槽崩壊といったリスクの心配はほとんどありません。
あくまで「添加剤を過剰量を一度に入れすぎてしまう」ことが問題になるのです。
そして、色揚げ用微量元素の添加剤は「水質」と「必要とする光」が揃っていることが使用の前提になります。
環境が揃わないうちに微量元素の添加剤を多用してしまうと、サンゴが調子を崩したりコケが発生するなどの原因にも繋がりますので注意しましょう。
照射する光の波長域
一般的な海水魚用ブルーLEDだけではGFP(蛍光グリーンたんぱく質)は強化されますが、他の蛍光色を強化したい場合は必要な光が不足しがちになります。
具体的には「UV~バイオレット(下図Ⓐ)」「シアン~グリーン(下図Ⓑ)」の領域です。
SPECTRAのようなフルスペクトル対応のシステムLEDであれば調整することが可能ですが、この領域の光を多く出せない照明をお使いの場合は対応する照明を追加しましょう。
実際に筆者が「蛍光レッドと蛍光グリーンが混じったサンゴ」を「シアン(青緑)~黄緑色の光」が少ない青系の照明で数か月飼育したところ、全体的に蛍光グリーンは強くなったものの蛍光レッドが弱くなってしまったこともありました。
サンゴの状態を上げ、色揚げの下地を作るために青い光で蛍光グリーン(GFP)を強化することは必要になります。
しかし、カラフルな蛍光色を強めたいときにはそれだけでは不足してしまいます。
※各蛍光色素はGFPから変化していくため
サンゴの蛍光グリーンがしっかり出るようになってきたときに、使用している照明が他の蛍光色に対応した波長が少ないようであれば色揚げ用の照明を追加しましょう。
蛍光レッド~オレンジ~イエローを強化したいときの追加照明 ※上図Ⓑの領域 |
蛍光レッド~蛍光イエローが強く出たキッカサンゴを多く飼育するのであれば、特にこの領域の光を強化することをおすすめします。また、黄緑色の光が含まれていると非蛍光の色素タンパク質(CP)の色揚げにも繋がります。
ブルー系の蛍光色を強化したいときの追加照明 ※上図Ⓐの領域 |
蛍光シアン~ブルーなど青系の蛍光色素を出したい、もしくは飼育するのであればバイオレット~UVの追加が有効です。
キッカサンゴ まとめ
キッカサンゴは強健で非常に飼育しやすいハードコーラルです。
しかし、「飼育自体はとても簡単」でも「美しく育て上げるにはなかなかに難しい」という面があるサンゴです。
コレクション性の高さだけではなく、どのくらい美しい姿に仕上げられるかという管理スキルが問われる面もある奥深さが魅力です。ビギナーから上級者までさまざまな意味で唸らせるキッカサンゴをぜひ楽しんでみてください。
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