ダイノス(渦鞭毛藻類)

ダイノスとは?

ダイノスとは渦鞭毛藻の一種で、茶色のねっとりとした粘液状のコロニーを作る種類の通称です。
渦鞭毛藻Dinoflagellatesの略称としてダイノスと呼ばれています。

水槽内に発生するものは主にOstreopsis属の渦鞭毛藻であることが判明しており、この仲間は主に赤潮の構成藻類としても知られています。一般的に赤潮というと浮遊性の藻類が主体となっていることが多いですが、ダイノスは粘液状のコロニーを形成して岩やサンゴなどをべったりと覆ってしまいます。

ダイノスに覆われてしまったサンゴは光が当たらなくなるだけではなく、ダイノスが生産する有害な物質によりダメージを受けて弱り、最終的には死んでしまいます。

渦鞭毛藻の仲間には褐虫藻のようなサンゴと共生するものもいますが、多くの赤潮の構成藻類のように他の生物にとって有害な物質を生産するものも少なくありません。海産生物が持つことで知られる猛毒であるテトロドトキシンやパリトキシンといった物質も渦鞭毛藻の仲間によって生産され、生体濃縮によってさまざまな海産生物に含まれていきます。

ボタンポリプが含まれるPalythoa属のスナギンチャクの仲間にはパリトキシンを含むものがいますが、Ostreopsis属が生産したパリトキシンを共生的な仕組みで受け取っている可能性が示唆されています。

なぜダイノスが発生するのか?

ダイノスの発生要因は「水槽内における微生物相の貧困化」が原因であるケースが多くを占めます。
ミドリイシが調子よく育っている貧栄養で清浄な水質の水槽で発生し、手を焼いたという方も多いでしょう。

一般的に水槽内に発生するコケと呼ばれる藻類は、そのほとんどが「水質の富栄養化によって発生する」と言われていることがほとんどでした。ところが、ダイノスは富栄養化した水槽でも貧栄養の清浄な水質を保っている水槽でもかまわず現れて多くのマリンアクアリストを苦しめてきました。

その発生要因は長い間謎に包まれていましたが、近年になって珪藻類との競合関係にあることや動物プランクトンなどによる抑制作用が明らかになってきたのです。

リーフタンク内生物相のイメージ図

そして、ミドリイシ中心のSPS水槽では「硝酸塩とリン酸塩ともに0に近い極貧栄養環境になったことにより、微生物相が貧困化してダイノスへの抑制が働かなくなった」ことが、ダイノス発生の主な要因と言えるところまで判明してきました。

ダイノスが発生することで起きる影響

では、ダイノスが発生することでどのような影響があるのでしょうか?

ダイノスの代表種として挙げられるOstreopsis属の渦鞭毛藻は猛毒のパリトキシンを生産することが知られています。Ostreopsisが生産するパリトキシンは生物濃縮される前の段階なので、ダイノスがよほど高密度で大量に発生していない限りは人間や水槽内の生物が直接害を被ることはほとんどありません。

それよりもリーフタンク内においてダイノスの被害で最も深刻になるのは「多量に発生する活性酸素」による水槽内の生物に対するダメージです。水槽内に発生したダイノスは光合成による大量の気泡を発生させますが、酸素だけでなく活性酸素も大量に発生させます。

赤潮で発生する海水魚の大量死は有害な藻類が生産する毒素が原因の場合もありますが、その多くは「活性酸素によるエラの機能破壊」であることが確認されています。

ダイノスがわずかに発生している程度であれば水槽内の海水魚が死んでしまうことはありませんが、活性酸素による水槽内のバクテリアへのダメージが発生します。それによって水槽内の微生物バランスがさらなる悪化を辿る恐れがあります。

さらに体力の落ちたサンゴがいる場合は「抗酸化物質の塊である粘液(ミューカス)」を合成できなくなっていることから、活性酸素によるダメージがダイレクトに出てしまい強光障害に似た症状が引き起こされることがあります。

ダイノスが発生している水槽は、その時点で「微生物バランスが崩壊、もしくは整っていない環境」ということは先述しましたが、同時に「体力の落ちたサンゴにとって非常に危険な環境」にもなっているのです。

対策

ダイノスへの主な対策は「水槽内の微生物相を回復させること」に尽きます。
しかし、まずは人の手によって物理的に除去することが重要です。

ダイノスは増殖スピードが非常に速いため、一度水槽内に発生したものは「人の手で取り除いた」後に「ダイノスと競合する微生物の投入、もしくは活性化」が対策の肝になります。

水換えとともに吸い出す

まずは物理的に直接吸い出す方法で対処しましょう。
ダイノスは増殖スピードが非常に速いため、1日で目に見えて広がります。

これに対処するには水換えを兼ねて目に見える部分を徹底的に吸い出すことしかありません。
ひたすらに、徹底的に吸い出して除去しましょう。

まずは徹底的に吸い出すことからスタートです

ですが、吸い出しただけでは終わりません。
肉眼で見えないダイノスが残っていると、また数日で目に見えるサイズ(群体)にまで再生してきます。

吸い出しても吸い出しても再生してくる。
これがダイノスの恐ろしいところなのです。

競合する珪藻類や微生物を増やす

徹底的に吸い出したところで再生してきてしまう。
では、どうやってそれに対処すればいいのか?

ダイノスの発生要因は「水槽内における微生物相の貧困化」です。

栄養塩が少なすぎる貧栄養環境でダイノスを抑制する微生物が減少してしまったことで起こる赤潮のようなものなので、その根本を解決しない限りはダイノスの再生を抑え込むことは非常に難しいのです。

ダイノスを抑え込む具体的な対策の鍵は珪藻類、アクアリウムにおいては茶ゴケと呼ばれる藻類にあります。

珪藻類には栄養塩の競合やアレロパシーによって有害な渦鞭毛藻を抑制する作用が知られており、同時にさまざまな動物プランクトンの良質なエサとしても機能する一面を持っています。

この珪藻類を活性化させることで「水槽内の微生物生態系のバランスを整える」ことに繋がり、結果ダイノスの過剰増殖を抑制することが可能になるのです。

珪藻類と動物プランクトンによるダイノス抑制のイメージ図

珪藻と微生物の増やし方

ダイノス対策の最も確実な方法は「珪藻類を含む植物プランクトンとコペポーダなどの動物プランクトンが豊富なプランクトンパックの投入」です。しかし、プランクトンパックの投入はこれを常時販売しているショップが限られるため、常に選択ができる手段とは言い難い面があります。

そこで、生きたプランクトンパックが手に入らないときは、珪藻類が増えやすい環境を整えることから始めます。
珪藻類は増殖するために珪酸を必要とするので「珪酸ナトリウムを含む添加剤の使用」もしくは「塩素中和した水道水を用いた人工海水で水換えを行う」ことにより珪藻類が増えやすい環境を整えます。

水道水を用いた水換えは、ダイノスを吸い出すついでに行うのがおすすめです。

水槽のガラス面に茶ゴケが薄く出てくるのが確認できれば珪藻類が増える環境が整ってきています。
そのタイミングでヨコエビなどの生きた動物プランクトンが入手できるようであれば投入します。

また、肉眼で見えないサイズの微小な動物プランクトンのエサとなるバチルス菌などのバクテリア剤も加えることで微生物相をさらに厚くする一助になります。

やってはいけないこと

それはオキシドールの単用です。
ダイノス対策としてオキシドールを単体で使われる方を見かけますが、これは逆効果になります。

ダイノスは活性酸素を大量に生産することで周囲の競合相手や天敵となりえる捕食者を攻撃します。
そのため、ダイノス自身は活性酸素への耐性をある程度持っています。

オキシドール(H₂O₂)は活性酸素を利用した殺菌剤ですが、ダイノスはこれに耐性を持っているため駆除するにはそれなりの量を使用する必要があります。しかし、ダイノスを駆除できる量のオキシドールは同時に水槽内のバクテリアや微小な動物プランクトンに多大なダメージを与えます。

適切ではないオキシドールの使用は、ダイノスの競合相手を減らすことに繋がってしまっているのです。

ダイノスを抑制するためには微生物相を回復させることが重要であるため、オキシドールを単用で一度に大量添加するような使用は避けてください。

使用する場合には、ダイノスのコロニーを吸い出した後にピンポイントで少量使うに留めます。
もしくは、使用後に多種の微生物を含んだバクテリア剤との併用をおすすめします。

使用するバクテリア剤は硝化バクテリア単種のものではなく、バチルス属細菌や有用な通性嫌気性細菌を複数種類含んだものを選びましょう。

オキシドール使用には多種の微生物を含んだバクテリア剤との併用がおすすめです

ダイノス まとめ

ダイノスは「水槽内の微生物相の貧困化」によって渦鞭毛藻の仲間が過剰に繁殖して引き起こされる一種の赤潮のようなものです。その対策は「水槽内の微生物相を豊かにする」以外にありません。

ダイノスを抑制するための水槽内生体系イメージ図

もっとも確実な対策は生きた植物プランクトン(浮遊性珪藻類)と動物プランクトン(コペポーダ、ヨコエビの仲間)を水槽に入れることです。

ダイノスの対策は水槽内の微生物相を豊かにすることにあるため、一朝一夕で解決するものではありません。特定のバクテリア剤を一種類入れただけで翌日にはダイノスが霧散して消えることはないのです。

ダイノスが発生した水槽の健全化は、水槽内の環境をしっかり読み取り「何が不足しているのか?」をひとつひとつしらみつぶしにしていく必要があります。それはとても根気のいる作業になります。

しかし、ダイノスの駆除が成功したそのときには「水槽内の微生物バランスを整えるためのノウハウ」を経験として手に入れたと言えます。この壁を乗り越えることができれば、美しいリーフタンクを作り上げることは夢ではなくなるでしょう。

主な発生要因・貧栄養化(栄養塩0化)による微生物相の貧困化
・捕食者不在による過剰増殖
主な対策・最初になるべく人の手で除去する
・茶ゴケ(珪藻)が増える環境に整える(珪酸塩の投入)
・生きた植物プランクトンと動物プランクトンの投入
・バチルス菌を主体としたバクテリア剤の使用
人の手による除去方法・水換えしながらホースで吸い出す
主な捕食者・コペポーダなど動物プランクトンの仲間
主な競合相手・珪藻類

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