人工海水は海水魚やサンゴを飼育するために欠かせないアイテムです。
しかし、適切に保管しないと成分が劣化し、飼育に悪影響を及ぼす可能性があります。
この記事では人工海水の保管方法について解説します。
目次
人工海水の特性と保管の重要性
海水の組成に近付けるため、人工海水にはさまざまな元素が配合されています。
主成分に塩化ナトリウムを多く含むことから、人工海水は潮解性を持っており湿気を吸収しやすいという性質を持っています。
人工海水は天然海水に近い膨大な種類の微量元素が含まれており、湿気を吸収してしまうと化学変化が起こり品質が著しく劣化してしまいます。このため、適切な保管を行う必要があるのです。
状態の見分け方
まずは状態の見分け方からです。
劣化した人工海水を見分けるためには、以下のポイントに注意しましょう。
サラサラの粉末状を保っている |
手で触ってサラサラとした粉末状であれば品質に問題はありません。安心して使用することが可能です。
一般的な人工海水は粒子の細かいパウダー状になっていますが、原材料に海水の天日塩を使用しているものは粒状の結晶も混じっているものがあります。
共通して問題ない状態といえるのは、指で摘まんでも固まることなくサラサラとした粉末状であることです。
湿気を吸って固まってしまっている |
じっとりと湿って塊になっているようであれば潮解して炭酸化が進んでいるサインです。
触るとすぐに崩れるようであれば、成分の変化はまだ初期段階です。
指で摘まんで湿気を感じるようであれば、すぐに乾燥剤を使って湿気を取り除いてください。
力を込めても崩れないほど固まってしまった人工海水は成分が変質しきってしまっています。
そのような状態になった人工海水は使用を避けましょう。
湿気を吸うとなぜ固まってしまうのか?
人工海水の主成分である塩化ナトリウム(NaCl)やその他の塩類は、空気中の水分を吸収しやすい性質(※潮解性)を持っています。これらの塩類が湿気を吸収すると表面に水分が付着し、部分的に溶けます。その後、再び乾燥すると溶けた部分が再結晶化し固まってしまいます。
潮解の影響は固まってしまうだけに留まりません。
人工海水中にはpHとカルシウムイオンを上げるために、水酸化カルシウムが配合されています。
水酸化カルシウムは水分を含んでしまうと空気中の二酸化炭素と反応して、炭酸カルシウムへ変化してしまう性質を持っています。※これを炭酸化と呼びます。
部分的に溶けた塩化ナトリウムの再結晶と水酸化カルシウムの炭酸化が同時に起こってしまうことで、サラサラの粉末状だった人工海水はまるで石のように固い塩の塊になってしまうのです。
固まってしまった人工海水はどうなるのか?
水酸化カルシウムと二酸化炭素が結びついた炭酸カルシウムは、水に対して難溶の性質を持っています。
そのため、湿気を含んで炭酸化してしまった人工海水を水に溶かすと白い塊が沈殿して残ります。
これが炭酸カルシウムCaCO₃の結晶です。
炭酸カルシウムは、水に溶けたCO₂と反応して炭酸水素カルシウムCa(HCO₃)₂にならない限りは水に溶けません。
この反応により、炭酸化した人工海水のpHは充分に上がらなくなってしまいます。
一般的な人工海水は規定通りに作ればpH8.2~8.4ほどになるように設計されているのですが、炭酸化が進行した人工海水はpHは7.5~8.0ほどに下がっていることが多いのです。
湿気を含んで炭酸化した人工海水を無理やり溶かしたもので水換えを行うと、水槽のpHが高い場合に海水魚やサンゴがpHショックを起こしてしまうことがあります。
そのため、一度固まってしまった人工海水の使用はなるべく避けるようにしましょう。
また人工海水だけでなく、pH上昇剤やカルシウム上昇剤などで水酸化カルシウムを含む粉末状のものは同様の現象が起こります。開封後は必ず密閉できる容器に入れて保管しましょう。
特殊な人工海水に注意
人工海水は無機元素のみを配合した製品が中心ですが、アミノ酸などの有機物を配合した製品もあります。
これらの有機物も湿気により腐敗や成分の劣化が生じることがありますので、湿気を吸わせない保管が必要です。
保管方法の基本
このように人工海水は空気中の湿気と二酸化炭素との反応によって成分が劣化してしまいます。
人工海水を長期間良好な状態で保管するためには、湿気に影響されない密閉容器で保存することが基本となります。
バケツ売りの人工海水
人工海水にはプラスチック製の容器(※形状から通称:バケツと呼ばれています)でパッケージされているものがありますが、このタイプはフタが密閉できる構造となっていることから、そのまま保存することができます。
基本的にはフタをしっかり閉めるだけでも密閉されますが、次に使用する期間が延びたりする場合には乾燥剤を入れて保管すると万全です。
箱売りと袋売りの人工海水
箱売りや袋売りの人工海水は、詰め替え用として使用することを推奨します。
袋や箱のまま保管すると湿気を吸いやすいため、開封後はすぐに密閉容器に移し替えることが重要です。
小袋のものであれば開封したら全て使いきるのが基本です。
人工海水保管に適した市販の容器
保管用のバケツを持っていないのに袋入りのパッケージを買ってしまった場合は、別途密閉容器を用意しましょう。
使用するものは食品を保存するシリコンパッキン付のプラスチック容器などで問題ありません。
フタのみで密閉できるもシンプルなものでも大丈夫ですが、ロック付きの容器を使うと倒れたり落ちたときに中身が散乱しないのでおすすめです。
大容量のものはホームセンターなどで販売されている塗料保管用のペール缶が使用できます。
基本的な構造はバケツ売り人工海水のケースと同じなので、保管用バケツが破損してしまったときの代用としても使うことができます。
乾燥剤の選び方
人工海水を保管する際には密閉容器の使用に合わせて乾燥剤も入れれば万全です。
食品用に使われる乾燥剤であれば問題なく使用可能です。
乾燥剤の種類はシリカゲルと石灰タイプどちらでも問題ありません。
あえて選ぶのであれば、吸湿すると色が変わるシリカゲルを使うと交換時期がひと目でわかりやすく便利です。
人工海水を長期間使用しないようであれば、必ず乾燥剤を多めに入れておきましょう。
特にバケツなど大容量の容器で保管するなら、大きめの乾燥剤ケースに入れて使用するのがおすすめです。
人工海水の量が多いと、その分だけ湿気が多く出ることがあります。小型の乾燥剤だとすぐに湿気ってしまうことがあるため、乾燥剤は多めで使うのが安心です。
適した保管場所
人工海水を保管する場所も重要です。
基本は直射日光が当たらず、温度変化の少ない場所が適しています。
また、湿度が低い環境で保管することが望ましいため風通しの良い場所に置くか、クローゼット用の吸湿剤などを利用して保管場所の空中湿度を下げるようにしましょう。
劣化した人工海水の処分方法
劣化して使わなくなった人工海水(塩)は、適切に処分する必要があります。
以下の方法を参考にしてください。
少量の場合 |
小袋程度の少量であれば燃えるゴミや生ゴミとして処分が可能です。
ただし、どちらで処分するかは自治体により異なるため、必ず事前に確認しておきましょう。
水に溶かしたものは一般的な家庭用のアクアリウムにおける容量であれば下水に流しても問題ありません。
しかし、総水量が1t以上あるような大型水槽で一度に大量排水する場合は自治体への届け出や許可が必要になることがあります。
大量の場合 |
数10~100kg単位の人工海水を処分する場合は、専門の廃棄物処理業者に依頼することが必要となります。
バケツ数個分、大箱数個分以上の人工海水を処分するのであれば専門の産業廃棄物処理業者へ依頼することが必須となります。
絶対にしてはいけないこと |
人工海水は塩化ナトリウムが大量に含まれているため、取り扱いの注意点としては塩(しお)とほぼ同じです。
絶対に野外に撒いてはいけません。土壌や水質に悪影響を与える可能性があります。
特に田んぼや畑に近いところに撒いてしまうと雨水で塩分が流れていき、作物や周囲の植物が枯れるなどの被害が出てしまうことがあります。そういった被害が出た場合に、その土地の持ち主の方から訴訟されるというリスクもあります。
さらに周囲に小川や池、湿地がある場合、そこに生息する生物が死んでしまうこともあります。
使わなくなった人工海水は絶対に野外に撒いてはいけません。
まとめ
人工海水の保管には湿気を避けるために密閉容器を使用し、乾燥剤を併用することが重要です。
また、保管場所にも注意を払い、適切な環境で保管することで、人工海水の品質を長期間維持することができます。
人工海水の保管はマリンアクアリウムの最も基礎的な部分となることから、実は非常に重要なポイントとなります。
水換えをしているのに海水魚やサンゴの調子が悪いという場合は、人工海水が劣化してしまっているというケースもあります。人工海水の状態と保管方法を見直してみることで改善することもあるかもしれません。
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