ハゼから始めるサンゴ水槽 vol.6 海水水槽管理の基本

前回までで、ハゼ水槽の立ち上げとハタタテハゼの導入までを完了しました。

今回は、海水水槽を安定して維持するための「基本的な飼育管理方法」について解説します。
「水換え」「給餌」「水質測定」「塩ダレ対策」の4つの基本的な管理の基礎知識を身に着けていきましょう。

この段階でしっかりとした管理習慣を身につけておくことで、後に控えるサンゴの導入もスムーズに進められます。

水換えの基本

水換えは、飼育水の余剰な栄養分を除去し、水質を安定させるための最も基本的な管理作業です。
頻度としては週1回、全体の10〜20%程度の換水が目安となります。

淡水の水槽に比べると、一回あたりの換水量が少ないのは海水水槽管理のポイントです。
海水魚やサンゴは水質の急激な変化に弱いため、大量の水換えはpH・温度に加え比重の急変を引き起こすリスクがあるからです。

なぜ水換えが必要なの?

飼育水の余剰な栄養分、つまり不要な栄養塩(硝酸塩・リン酸塩)を、最も低コストかつ効率よく除去できる手法だからです。

栄養塩の数値が高くなってしまうと、病原菌が発生しやすい環境になってしまいます。
魚の病気予防のためにも水換えは重要な作業になります。

底床に蓄積した排泄物や残餌なども栄養塩の発生源になるため、これらを吸い出しておくことも、清浄な水質を維持するためには効果的です。

必要な道具

水換えに必要な道具は以下の通りです。

人工海水
バケツ
(2個あると便利)
比重計
カルキ抜き
サイフォン式
排水ホース
水温計
(浮くタイプが便利)
タオル

水換えの手順

基本的には以下の手順で行います。

  1. 比重と水温を合わせた人工海水を事前に準備します。
  2. 空のバケツに、サイフォン式排水ホースを用いて底床内のゴミを軽く吸い出しながら排水します。
  3. 全体の10~20%程度の海水を吸い出したら、ゆっくりと新しい海水を注水します。

たったこれだけです。
水槽1本なら、所要時間は20分前後 となるでしょう。

水をこぼした場合は、特に海水の場合は塩分を含んでいますので、すぐにタオルでふき取りましょう。

給餌の基本

給餌は、海水魚を飼育する上では必須の作業です。
海水魚は一般に、淡水魚に比べ人工飼料に慣れにくい傾向があります。

ハゼは餌付けの重要性が低い

多くの魚種では「餌付け」と呼ばれる人工飼料に慣れる工程が要求されますが、ハタタテハゼに関してはこの工程をスキップしても問題ないことが多いです。
人工飼料を与えれば、すぐに食べてくれる個体がほとんどです。

ハゼ類は比較的人工飼料にも慣れやすいものが多く、餌付けのトラブルに見舞われることがあまりない、というのもポイントです。

ハタタテハゼは餌付きやすい
ほとんどのハゼは人工飼料にすぐ餌付きます
ネオンピグミーゴビー
一般的なハゼに比べやや餌付きにくい傾向あり

ほとんどのハゼは比較的餌付きやすいですが、イソハゼ系など一部餌付きにくいものもいます。
この点で、最初はハタタテハゼがおすすめできます。

他にも、クマノミやスズメダイなどは比較的餌付きやすい魚種となります。
チョウチョウウオや、ハギ、ヤッコ類は根気のいる餌付けが要求されるものが多いです。

顆粒タイプがおすすめ

ハタタテハゼをはじめとした遊泳性のハゼ類は、口のサイズに合った粒状の海水魚用フードであれば、ほとんどの場合最初から口にします。

以下の2点が給餌のポイントです。

  • 1日1〜2回、2分以内に食べきれる量を与える
  • 残餌は水質悪化の原因になるため、余るなら吸い出して除去

それでも食べない個体の場合

ハゼ類は基本的に人工飼料に慣れやすい個体が多いのですが、まれに、どうしても食べてくれない個体がいます。
このような場合は、冷凍のホワイトシュリンプを与えると口にすることが多いです。

人工飼料もホワイトシュリンプもどちらも口にしない場合は、調子を崩している可能性を疑います。

どうしても食べない場合は
ホワイトシュリンプを

留守中の餌はどうする?

健康なハタタテハゼであれば、1週間くらいは何も食べなくても耐えられます。
ハタタテハゼでなくとも、成魚で6~7cm程度になるハゼ類であれば、ほとんどの場合数日程度の絶食は耐えられます。

成魚でもそれに満たない小型種、例えばオヨギイソハゼなどの場合は、耐えられる期間はより短くなる可能性があります。

1週間以上不在期間が長引く場合は、自動給餌器の導入をおすすめします。

1週間以上の留守には
自動給餌器を

水質測定の基本

水質の把握は、トラブルの予防とサンゴ導入への準備に欠かせません。

ハゼの飼育に関しては、基本を押さえていればそこまで神経質に水質を管理しなくとも飼育できることが多いです。
しかし、サンゴの飼育までを見越すなら、この段階で水質測定を習慣づけておきたいところです。

測定項目と頻度

  • 水温:毎日
  • 比重:週2〜3回
  • pH:週1回
  • 硝酸塩:週1回
  • 亜硝酸:週1回

ひとまずこの5つを測定しておくと良いでしょう。

測定結果はメモや表計算ソフトなどに記録しておくと、変化の傾向を把握しやすくなります。

なお、ここまでしなくともハゼは飼えることが多いです。
しかし、サンゴ飼育に向けて技術を磨くという点では、習慣づけておくと役に立つ場面がやがて訪れるでしょう。

使用する道具

水温計
比重計
pH・硝酸塩・亜硝酸
試験紙

pH・硝酸塩・亜硝酸の測定試薬には複数のタイプがありますが、初めて使う場合は試験紙タイプが扱いやすいです。
測定精度を重視する場合はデジタル式のタイプもおすすめですが、やや高価な傾向があります。

ハゼの飼育に関しては、安価なタイプでも問題ないことが多いです。
今後、サンゴの飼育に挑戦するタイミングで、切り替えていくのがおすすめです。

水温

水温計で測定します。
基本的に水槽には水温計を設置し、毎日確認しておきましょう。

マリンアクアリウム向けに流通する多くの海水魚は、22~26℃の範囲を適温とするものが多いです。
28℃を超えると弱りだすので、夏季はクーラーが必須と言えます。
熱帯性の魚種の場合、低温の下限は20℃となることが多く、それを下回ると弱りだします。

比重

比重計で測定します。

比重は1.021~1.024 の範囲にあることが望ましいです。
水が蒸発すると比重は高くなる点に注意が必要です。

比重は蒸発により自然と徐々に高くなります。
時々淡水を追加して、適切な比重を維持することが重要です。

pH

専用の試薬で測定します。

pHは8.0~8.4 の範囲にあることが望ましいです。
7.9以下の場合、ハゼがすぐに調子を崩すということはありませんが、好ましくはない状況です。

また、pHが8.0~8.4 の範囲にない場合は、サンゴの導入には不向きと言えます。

▼より詳しく知りたい方はこちら

硝酸塩

専用の試薬で測定します。

硝酸塩は0に近いことが望ましいですが、餌や生体の排泄物、微生物による活動などから発生源が常に供給されるため、ふつう0にはなりません。
サンゴ水槽では過剰にあると良くないものの、わずかに存在したほうがむしろ望ましいとされます。

過剰に蓄積すると、pHを低下させる原因となります。

▼より詳しく知りたい方はこちら

亜硝酸

専用の試薬で測定します。

亜硝酸は0であることが望ましいです。
亜硝酸が検出される水槽は、ろ過バクテリアがまだ完全に定着できていない状態と言えます。

亜硝酸が検出される状況での生体の追加は、リスクがあります。


これらの基本的な項目を一通り測定できるようになっておくと、サンゴ飼育へとステップアップする際に役立ちます。

▼参考:海水水槽での水質測定について

塩ダレ対策の基本

海水水槽では、機材の稼働や水の蒸発によって塩分が周囲に飛散し、塩ダレ(白く乾いた塩の結晶)が発生することがあります。

これは放置すると、機材の故障や家具の腐食、電気系統のトラブルにつながるため、定期的な対処が必要です。

塩の結晶

すぐに拭き取る

塩ダレを見つけたら、まずは柔らかい布やキッチンペーパーで優しく拭き取ります。
乾燥して固まっている場合は、ぬるま湯で湿らせてから拭くと効果的です。

機材の点検と清掃

塩ダレが付着しやすいのは、ライト、ファン、ポンプの周辺です。
特に電気機器は塩分による腐食が進みやすいため、定期的な清掃と点検を行いましょう。

水跳ねの原因を特定

塩ダレの根本的な原因は水跳ねによるものです。
原因となりやすい要素として、下記のようなポイントをチェックしましょう。

  • 水流が強すぎないか
  • エアレーションの位置が適切か
  • オーバーフローや給水口の設計に問題がないか

定期的なメンテナンス習慣

海水水槽を運用する以上は、塩ダレを100%完全に防ぐことは難しいです。
まずは週に一度の水槽周辺のチェックと、清掃を習慣化することが大切です。


今回は水換え・給餌・水質測定・塩ダレ対策といった、海水水槽を安定して維持するための基本的な管理方法を押さえてきました。
これらの習慣が身につけば、水槽環境は徐々に安定し、サンゴの導入に向けた土台が整っていきます。

しかし、安定した水槽でも避けて通れないのが「コケの発生」です。
コケは見た目を損なうだけでなく、水質や生体にも影響を与えることがあるため、早めの対策が重要です。

次回は、海水水槽におけるコケの種類と原因、そして効果的な対策方法について詳しく解説していきます。
ギンポやヤドカリなどの他の生体による対処法も含め、実践的な内容をお届けしますので、ぜひご期待ください。

Dab.O.Haze

Dab.O.Haze(ダブ・オー・ヘイズ) 「霞のように謎に包まれた海の世界に、ちょっと触れてみよう」── 海水水槽の第一歩を丁寧にご案内。ハゼ系が得意。

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