バブルディスクと同じRicordea属のディスクコーラルです。
本種はカリブ海を主な産地とすることから日本ではカリビアンバブルディスクと呼ばれ、カリバブの愛称でも親しまれています。
太平洋~インド洋に産するバブルディスク(yuma種)と比べて、本種は球状の突起が近い大きさで揃っているのが特徴です。小さなハタゴイソギンチャクといったような姿をしていますが、分類的にはイソギンチャク目ではなくホネナシサンゴ目に属しています。
本種もカラーバリエーション豊富で、グリーンを基本にイエロー、オレンジ、レッド、ブルーやパープルと幅広く、さらに蛍光色だけでなく非蛍光の色素タンパクも持つことから非常に多岐に渡ります。
また、本種の面白い特徴としては「分裂して増えやすい」という点も挙げられます。
栄養状態が良いと口が増えて徐々に分裂が進行していきます。
ディスクコーラルの仲間は分裂するクローン増殖をしますが、カリビアンバブルディスクは特にその傾向が強いと言えます。分裂の兆候がある個体は2マウスや3マウスといった名前で販売されることもあります。
カリビアンバブルディスクはカラーバリエーションが非常に豊富でクローン分裂で増殖させやすいことから特にフラグ向けのディスクコーラルとも言え、海外ではこの仲間を専門に集める人もいるほど人気を集めています。
基本情報
生物学的情報 | |
---|---|
名前 | カリビアンバブルディスク |
学名 | Ricordea florida |
分布 | カリブ海 |
グループ | ソフトコーラル |
飼育要件 | |
---|---|
飼育しやすさ | ★★★☆☆ ポイントを押さえれば丈夫 |
入手しやすさ | ★★★★☆ 比較的よく見かける |
適正水温 | 24℃前後 |
照明 | 中 60cm水槽で1500lm程度 |
水流 | 中 澱みができない適度な水流 |
給餌 | 必要 ※光合成だけでは栄養が不足しやすい |
備考 | 栄養が不足すると触手を自切することがある |
近縁種との見分け方
カリビアンバブルディスクとバブルディスクはブリードされたフラグも多数流通していますが、種類が混同されていることがあります。産地がハッキリしているものはそれで区別が可能になりますが、ブリードものは産地が表記されなくなることが多いため判別が困難です。
形状から種類を見分けるポイントは大まかに以下のようになります。
※典型的な特徴が表れている個体の傾向となります。
カリビアンバブルディスク Ricordea florida | バブルディスク Ricordea yuma |
原産地:カリブ海 | 原産地:太平洋~インド洋の熱帯海域 |
口盤の周りに触手が生えない もしくは生えても数本 | 口盤の周りにも触手が生える |
触手のサイズがある程度揃っている | 触手のサイズが不揃いになる |
触手の生え方がランダムになる傾向がある | 触手の生え方が放射状に広がる傾向がある |
もちろん生物なので例外的な個体もおり、まれに非常に見分けが難しいものもいます。
ですが、上記のポイントをよく確認することで特徴が表れている個体の判別はしやすくなるかと思います。
リーフタンクにおける飼育のポイント
カリビアンバブルの飼育はバブルディスクの飼育に準じます。
その押さえるべきポイントは「給餌」と「清潔な環境を保つ」こと。
この2点はイソギンチャクに近い形状をしたディスクコーラルの仲間やマメスナギンチャクの仲間の飼育と共通しています。
水槽内で不足しがちな栄養をどのように補うかが重要なポイントであり、同時にビブリオ菌などのサンゴの病気を引き起こすバクテリアが増えにくい清潔な環境を用意する必要があります。
カリビアンバブルへの給餌
基本的には「サンゴ用栄養剤」を体調を整えるための日常的なサプリメントとして使い、「リキッドフード」を増体用の栄養源として使います。
サンゴ用栄養剤は水を汚しにくいレシピになっているものが多いため、日々の管理はこちらをメインに使います。
増体用のリキッドフードは高栄養で残り餌が出ると水を汚しやすいため、2~3日に1回少量を与える程度で問題ありません。
給餌はスポイトやシリンジなどでピンポイントに与え、残り餌が極力出ないように行います。
これはカリビアンバブルが確実に栄養を摂れるための措置であるのと、同時に水を必要以上に汚さないための手法です。なるべく残り餌が出ないような給餌を行ってください。
給餌を行いながら状態が上がっていくにつれ、カリビアンバブルディスクの色味も良くなっていくことでしょう。
サンゴの色素は複雑な構造のタンパク質から成りますが、その材料は主にアミノ酸です。
水槽内でより美しい色彩を引き出すには褐虫藻から供給されるアミノ酸だけでは不足する場合があります。
サンゴの健康状態を上げるだけでなく、その美しい色彩を最大限に引き出すためにも給餌は重要な役割を担っているのです。
飼育水を清潔に保つ
カリビアンバブルの飼育でもうひとつ注意する点は「飼育水を清潔に保つ」ことです。
栄養の要求量が高いとはいっても、やみくもに給餌すればいいというわけではありません。
一度に大量の給餌をすると残り餌が水を汚す(栄養塩の量が増える)だけでなく、残り餌を分解するビブリオ菌などのバクテリアが増殖しやすくなります。ビブリオ菌は体力の落ちたサンゴに感染し共肉を腐敗させてしまうことがあり、RTNやブラウンジェリーといった症状を引き起こす原因菌のひとつとしても知られています。
ビブリオ菌が繁殖しにくい環境を作るには残り餌由来の有機物を少なくする必要があります。
そのためにプロテインスキマーは処理能力の高いベンチュリー式のものを選びましょう。
さらにビブリオ菌が繁殖しにくい環境を作るためには、しっかりした水流を作れるサーキュレーターの存在も欠かせません。ビブリオ菌は通性嫌気性細菌でもあるため、水流がなく澱んだ酸素の少ない領域で増えやすい性質を持っています。
サーキュレーターでビブリオ菌が増殖しやすい場所をなくし、好気性の有用なバクテリアが増えやすい環境を整えましょう。
同時にビブリオ菌と競合関係にあるバチルス属細菌を配合したバクテリア剤の併用も効果的です。
バチルス属細菌も有機物を分解し、同時にビブリオ菌を抑制する働きも担っています。
色揚げについて
サンゴの色揚げについて一般的にはブルー帯の波長とUVが必要と言われてきましたが、本種やLPSのようなプランクトンが豊富な海域に生息しているサンゴには赤やオレンジ、黄色といった派手な蛍光色を持つものが多く見られます。
これら暖色系の蛍光色を強化するためにはグリーン~シアンの波長が必要になってきます。
赤系の光は浅場で早々に失われてしまいますがグリーン~シアン帯の光はブルー帯と合わせて、かなり深いところまで届いています。
市販のサンゴ用照明でも、このグリーン~シアンの帯域はあまり多く含まれていません。
そして、ソフトコーラルやLPSが多く生息する海域はプランクトンが豊富に存在しています
植物プランクトンが多い富栄養な海域ではクロロフィルに光(青側500nm以短の波長域と赤側650nm以長の波長域)が吸収されるため、グリーン~シアン帯の光が最も深いところまで届きます。
RFP(蛍光レッドたんぱく質)をはじめ、暖色系の派手な蛍光色を持つサンゴはこういった光環境に適応したものと思われます。派手な蛍光色を強化するのであれば、このシアン~グリーンの帯域の光を強化することをおすすめします。
カリビアンバブル まとめ
豊富な美しいカラーバリエーションとその姿からリーフタンクの宝石と呼んでも過言ではないカリビアンバブルディスク。 一見地味なカラーの個体も飼い込むことで色味が濃くなるだけでなく、稀に色素の変化も起こりえます。
そして本種はディスクコーラルの仲間でもややデリケートな性質を持つ部類に入ります。
丈夫なソフトコーラルの仲間だと侮ってぞんざいな扱いをしてしまえば、その美しい姿を見ることは叶わなくなってしまうでしょう。
しかし、押さえるべきポイントをしっかり踏まえて手をかけることでカリビアンバブルディスクはその美しく魅力的な姿で応えてくれます。
「給餌」を行いつつ「水槽内を清潔な環境に保つ」ことでカリビアンバブルディスクは大きく健康に成長し、分裂して数を増やしていきます。色揚げの楽しさも含めれば、フラグサンゴとしてのポテンシャルはマメスナギンチャクにも劣りません。
数あるフラグソフトコーラルの中でもまさに花形と言える、カリビアンバブルディスクをぜひ楽しんでみてください。
コメント