フラワーロックアネモネ/Rock Flower Anemone

ディスクコーラルの仲間のような見た目をしていますが、名前のとおり実はイソギンチャクの仲間です。

本種は学名をPhymanthus cruciferといい、日本近海にも生息するニチリンイソギンチャク(Phymanthus muscosus)と同じ属のイソギンチャクで、カリブ海を生息海域としています。

本種のセレクトカラー個体を日本ではフラワーロックアネモネ、またはファンシーロックアネモネと呼んでいます。※英名はRock Flower Anemone

イソギンチャクとしては小型の部類に入り、よく見られるものは直径5cm前後のものがほとんどです。
自然の海におけるcrucifer種は体色が地味なものが多いですが、稀に直径が20cmに達する大型個体も見られるようです。

小さなニチリンイソギンチャクといった形状

本種もまたカラーバリエーションが非常に豊富で、海外では1ジャンルが作られているほどです。

基本情報

流通名・フラワーロックアネモネ
・ファンシーロックアネモネ
学名Phymanthus crucifer
分布カリブ海
グループイソギンチャク
平均サイズ直径3~5cm
記録上の最大サイズ直径15~20cm ※飼育下では非常に稀
飼育しやすさ★★★★☆
ポイントを押さえれば丈夫
入手しやすさ★★★★☆
比較的よく見かける
備考自分から動いて場所を変えることがある

自生地の環境 / Habitat Sea Area
給餌は少なめ
給餌が有効

光合成のみでは栄養が不足しやすい面があります。
水質を保ちつつ、必要な栄養が不足しないような管理がポイントになります。

適正水温 / Water Temperature
高めの水温
標準的な水温
低めの水温
深海性

一般的なサンゴが好む水温を維持します。
・赤い蛍光色を強めたいのであれば水温が26℃を超えないようにキープしましょう。

光色のセッティング / Lighting Spectrum
水深10m未満
水深10-30m
水深30-50m
水深50-80m

・サンゴの蛍光色素に対応した光色のものを使用しましょう。
光量は中程度。蛍光色がきれいに出る程度で問題ありません。

水流 / Water Flow
サンゴが左右に揺れる水流
澱みのないランダム水流
太くて強い水流

コントローラー付きサーキュレーターの使用推奨。
フラワーロックアネモネの周囲にデトリタスが溜まらないような循環水流が重要です。

エサの種類とサイズ / Feeding Menu
液体
パウダーサイズ
顆粒サイズ
ペレットサイズ

動物質中心で消化吸収しやすいサイズのエサを与えます。
給餌の頻度は2~3日に一度程度を目安に。給餌量は残り餌が出ない程度の少量に留めます。

カラーバリエーション

フラワーロックアネモネは非常に多彩なカラーバリエーションが存在します。
後述する「無性生殖ではなく、有性生殖により殖える」という特徴から、近しいカラーパターンは存在してもクローン個体のようにまったく同じカラーの個体はほとんど存在しません。

ある意味では個体ごとの個性が非常に強い種類であるともいえます。

形状のバリエーション

フラワーロックアネモネのバリエーションはカラーのみではありません。
実は触手の形状にも違いがあります。

ニチリンイソギンチャクのように触手に凸凹状の突起が目立つものと、突起がほとんど表れないものもいます。

触手の凸凹が目立つ個体
触手の凸凹が出ない個体

凹凸の有無だけでなく触手の長さにも違いがあり、細長いものや太短いものなど、形状の違いも多岐に渡ります。

触手が長い個体
触手が太短い個体

このようなカラーだけでなく、触手の形状にも着目してコレクションするのもおもしろいかと思います。

フラワーロックアネモネは「自分で動く」ことがある

フラワーロックアネモネはディスクコーラルの仲間ではなくイソギンチャクの仲間です。
一般的なイソギンチャクに比べれば定着した場所からめったに動くことはありませんが、まれに自分から動いて居場所を変えることがあります。

動いてしまうときは光や水流、エサが足りていない、突っついてくる外敵がいるなどフラワーロックアネモネにとってなんらかの「不快な要素」があるときに見られることが多いようです。

フラワーロックアネモネが頻繁に動いてしまうようであれば、何らかの環境要因が好適ではない可能性があるため挙動を観察しながら光や水流などの環境要素を見直していきましょう。

変わった繁殖方法

フラワーロックアネモネは他のイソギンチャクとは変わったおもしろい繁殖形態を持ちます。
それはウメボシイソギンチャクのように「幼体を体内で育成する」ということ。

イソギンチャクは雌雄同体の種類が多く無性生殖が可能なものも多いですが、フラワーロックアネモネは雌雄異体で有性生殖を行うことが知られています。そして、メスが受精卵を体内で育て直径が5mmほどに育つと体外へ放出します。

オスとメスの違いは外見からはほとんど違いがわかりません
しかし、繁殖のタイミングになるとオスは白いもやもやとした精子を放出し、メスは周りに卵が透けて見えることからその点で区別が可能です。

また、同個体で繁殖時の挙動の変化も観察されており、性転換をするのではないかという報告もあります。

繁殖は主に春が多く、秋にも見られることがあることから、水温の変化によってスイッチが入る可能性があるようです。オスメスの見分けと繁殖を狙うのであれば春先にしっかりと観察することが重要です。

吐き出された幼体は色彩も地味で小さなカーリーのような姿をしています。
フラワーロックアネモネを複数匹飼育している水槽で、いつの間にかカーリーのような小さなイソギンチャクが現れていたら、それはフラワーロックアネモネの幼体かもしれません。

フラワーロックアネモネの幼体は小さくても触手に特有の凸凹が表れるので、その点でカーリーとの判別を付けることができます。

リーフタンクにおける飼育のポイント

本種はイソギンチャクの仲間でありながら、ディスクコーラルの仲間に近い管理になります。
ディスクコーラルの仲間でもややデリケートな部類に入るバブルディスクやヘアリーディスクといった種類が調子よく育っている水槽であれば問題なく飼育ができます。

逆に上手くいかない場合は、そのほとんどが「栄養不足」と「病原菌が多い不潔な環境」になっていることが多く、体力が落ちたところをビブリオ菌などに感染して溶けてしまうパターンが多いようです。

そのため、本種を状態良く育てるためにはディスクコーラルの仲間同様に「給餌を行う」「水槽内を清潔に保つ」の2点をしっかりと押さえる必要があります。

フラワーロックアネモネへの給餌

基本的には「サンゴ用栄養剤」を体調を整えるための日常的なサプリメントとして使い、「リキッドフード」を増体用の栄養源として使います。

サンゴ用栄養剤は水を汚しにくいレシピになっているものが多いため、日々の管理はこちらをメインに使います。増体用のリキッドフードは高栄養で残り餌が出ると水を汚しやすいため、2~3日に1回少量を与える程度で問題ありません。

サンゴ用栄養剤で基礎体力を補いましょう
体力を付けたらリキッドフードを主食に与えます

給餌はスポイトやシリンジなどでピンポイントに与え、残り餌が極力出ないように行います。
これはカリビアンバブルが確実に栄養を摂れるための措置であるのと、同時に水を必要以上に汚さないための手法です。なるべく残り餌が出ないような給餌を行ってください。

給餌はスポイトなどを使ってピンポイントで与えます

給餌を行いながら状態が上がっていくにつれ、カリビアンバブルディスクの色味も良くなっていくことでしょう。サンゴの色素は複雑な構造のタンパク質から成りますが、その材料は主にアミノ酸と金属元素です。

水槽内で美しい色彩を引き出すには、褐虫藻から供給されるアミノ酸だけでは不足する場合があります。
サンゴの健康状態を上げるだけでなく、その美しい色彩を最大限に引き出すためにも給餌は重要な役割を担っているのです。

飼育水を清潔に保つ

フラワーロックアネモネの飼育でもうひとつ注意する点は「飼育水を清潔に保つ」ことです。
栄養の要求量が高いとはいっても、やみくもに給餌すればいいというわけではありません。

一度に大量の給餌をすると残り餌が水を汚す(栄養塩の量が増える)だけでなく、残り餌を分解するビブリオ菌などのバクテリアが増殖しやすくなります。ビブリオ菌は体力の落ちたサンゴに感染し共肉を腐敗させてしまうことがあり、RTNやブラウンジェリーといった症状を引き起こす原因菌のひとつとしても知られています。

ビブリオ菌が繁殖しにくい環境を作るには残り餌由来の有機物を少なくする必要があります。
そのためにプロテインスキマーは処理能力の高いベンチュリー式のものを選びましょう。

ハングオン型としてはトップクラスの処理能力を持つ
ゼンスイ「QQ3」

さらにビブリオ菌が繁殖しにくい環境を作るためには、しっかりした水流を作れるサーキュレーターの存在も欠かせません。ビブリオ菌は通性嫌気性細菌でもあるため、水流がなく澱んだ酸素の少ない領域で増えやすい性質を持っています。

サーキュレーターでビブリオ菌が増殖しやすい場所をなくし、好気性の有用なバクテリアが増えやすい環境を整えましょう。

ボルクスジャパン「VestaWave Slim2」
ビブリオ菌を抑制するBacillus pumilus配合された
AZOO「ウルトラバイオガード」

同時にビブリオ菌と競合関係にあるバチルス属細菌を配合したバクテリア剤の併用も効果的です。
バチルス属細菌も有機物を分解し、同時にビブリオ菌を抑制する働きも担っています。

色揚げについて

サンゴの色揚げについて一般的にはブルー帯の波長とUVが必要と言われてきましたが、本種やLPSのようなプランクトンが豊富な海域に生息しているサンゴには赤やオレンジ、黄色といった派手な蛍光色を持つものが多く見られます。

これら暖色系の蛍光色を強化するためにはグリーン~シアンの波長が必要になってきます。
赤系の光は浅場で早々に失われてしまいますがグリーン~シアン帯の光はブルー帯と合わせて、かなり深いところまで届いています。

市販のサンゴ用照明でも、このグリーン~シアンの帯域はあまり多く含まれていません。

透明度の高い貧栄養海域の光
(イメージ図)
植物プランクトンが多い富栄養海域の光
(イメージ図)

そして、ソフトコーラルやLPSが多く生息する海域はプランクトンが豊富に存在しています
植物プランクトンが多い富栄養な海域ではクロロフィルに光(青側500nm以下の波長域と赤側650nm以上の波長域)が吸収されるため、グリーン~シアン帯の光が最も深いところまで届きます。

ソフトコーラルやLPSが多い海域では実際に緑がかった光であることが多く見られます

RFP(蛍光レッドたんぱく質)をはじめ、暖色系の派手な蛍光色を持つサンゴはこういった光環境に適応したものと思われます。派手な蛍光色を強化するのであれば、このシアン~グリーンの帯域の光を強化することをおすすめします。

ブルーハーバー「Vital Wave II シアン」
ブルーハーバー「Vital Wave II グリーン」

フラワーロックアネモネ まとめ

比類なき多彩なカラーバリエーションを持つフラワーロックアネモネ。
雌雄異体で有性生殖をとるという性質から、近しいカラーパターンは存在しますが完全に同じカラーリングの個体はほとんど存在していません。

つまり、単にカラーバリエーションが多いだけではなく個性も非常に豊かであるといえます。

同じカラーパターンの「品種」を生み出すことは困難ですが、逆をいえば上手く飼育ができていればオリジナルカラーの個体を生み出すことが可能ということ。

飼育もLPSやディスクコーラルの仲間がよく育つ環境を構築できていれば、それほど難しいことはありません。

この美しく個性的なフラワーロックアネモネの飼育、そして繁殖を楽しんでみませんか?

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