シオミズツボワムシの培養

マリンアクアリウムにおいてシオミズツボワムシは重要な生餌であり、一般家庭レベルの設備でもかんたんに培養できる動物プランクトンです。海水魚のブリードにおいてはブラインシュリンプを食べられない稚魚の初期飼料として利用できることから、特にクマノミのブリーダーにとっては欠かせない存在です。

他にも海水魚だけでなくサンゴやろ過食性の無脊椎動物のエサとしても活用でき、応用の幅は非常に広いといえます。今回はそんなシオミズツボワムシの培養の仕方について解説します。

シオミズツボワムシとは?

抱卵したシオミズツボワムシ
※下部の球状のものが卵嚢
増殖効率を優先した環境条件
塩分比重1.016~1.018
水温20~25℃

シオミズツボワムシ(Brachionus plicatilis)は輪形動物に属するワムシの仲間で、名前のとおり塩分のある環境に生息する種類です。塩分のある環境といっても実際には海産種ではなく、汽水域に生息する微小な動物プランクトンです。

世界中の汽水~塩水環境に分布しているとされていますが、産地によりサイズや性質が違うなど厳密には複数の隠蔽種を含んでいるとされています。その中にはサイズが大きめのL型ワムシ(130~340μm)、L型と比べ小さめのS型ワムシ(80~200μm)、さらに小型のSS型ワムシ(80~100μm)などが知られています。

一般的に水産用やアクアリウム用としてはL型ワムシとS型ワムシが広く利用されています。

汽水環境に産することから塩分の上下変化に対して強い面があり、比重換算で1.005~1.030以上まで幅広く適応します。ただし、急激な比重変化は禁物で、比重が過度に低かったり高かったりすると寿命や繁殖率が変わってきます。

適度な繁殖スピードを保つには海水の80%ほどの塩分濃度(比重換算で1.018~1.020ほど)が適しています。

水温に対しても幅広く順応できますが、増殖効率を考慮すると20~25℃を保つようにしましょう。
夏場など気温が40℃近くなる場合は耐えられずに死んでしまうことがありますので、水温はなるべく30℃を超えないように管理してください。

生餌として使うメリットは増殖効率が良いことも挙げられますが、与える飼料によって栄養価を強化することが可能な点もあります。それにより海水魚やサンゴなど、ブリードする生体に合わせた栄養構成に調整することもできるのです。

必要な機材と材料

シオミズツボワムシを培養するには以下の機材を揃えましょう。

培養容器

培養容器は4リットル前後の容器が手頃で使いやすく、おすすめです。
大量に培養する必要がある場合は培養容器の容量を増やすよりも、容器の数を増やしてローテーションで管理する方法が水換えなどのメンテナンスもしやすく、万が一のトラブルにも対応しやすくなります。

使用する容器はコックの付いたウォータージャグがおすすめです。
これがあれば加工の手間は最小限に抑えられます。

コック付きのウォータージャグ
フタにエアーチューブ用穴と排気穴を開けます

エアーチューブを引き込んでエアレーションを行う必要があるため、フタ部分に排気穴を開けておきましょう。

エアレーション装置

エアレーションは必ず設置しましょう。
酸欠を予防するだけでなく、エサとなるクロレラなどの植物プランクトンが沈殿することを防いでくれます。

エアーポンプはそれほど強くなくても問題ありません。
むしろ強すぎてしまうとワムシの培養に不都合がでてしまうので、培養容器の数に応じてエアーの容量を選びます。

容器1台ならコンパクトなエアーポンプでも充分です
複数台での管理なら大きめのエアーポンプを

エアレーションするにあたってエアーストーンは不要です。
チューブ先端に重りをつけておくだけで大丈夫です。

画像はエアーチューブ先端に水草用の重りをつけたもの


細かい泡が出てしまうと、ワムシがエアーに持ち上げられてしまいます。

これはプロテインスキマーと同じ原理が働くことで、微細な気泡にワムシが吸い寄せられてしまうことが原因です。

エアレーションの主な用途は「水を動かすこと」になるため、エアーストーンを付けずに大きな泡がポコポコと出て水を撹拌するようなセッティングにしましょう。

エアーストーンなし
⇒気泡が大きいのでワムシは持ち上げられない
エアーストーンあり
⇒気泡が細かいとワムシが持ち上げられてしまう

エアーによって水面が動き、水がきちんと循環していればガス交換によりワムシに必要な溶存酸素が保たれるのでエアーが細かくなっている必要はありません。

プランクトン培養におけるエアレーションにエアーストーンは必要ありません

ワムシネット(プランクトンネット)

ワムシの培養を行ううえで必需品となるのは容器とエアレーション装置に加えてワムシネット、もしくはプランクトンネットです。これがなければ水換えができません。必ず用意しましょう。

200メッシュほどのネットがワムシネットとして使用可能です

シオミズツボワムシには大きめのL型と小さめのS型が存在しています。
L型ワムシがおおよそ130~340μm(約0.1mm~0.3mm)ほど。
S型ワムシは80~200μm(約0.08mm~0.2mm)ほどとなります。

ネットやメッシュの網目サイズは200メッシュ(網目サイズ74μm)ほどであればS型とL型の両方に対応が可能です。SS型ワムシといった特殊な小型種の場合はより細かいメッシュサイズのものを選びましょう。

細かなスクリーンメッシュが入手できれば自作も可能です

人工海水と比重計

シオミズツボワムシは塩分のある汽水域に生息しています。
そのため、培養に当たっては人工海水も必要です。

培養水を作るには人工海水が必要です
塩分比重の微調整がしやすい屈折比重計

使用する人工海水は一般的なもので問題ありません。
塩分の比重を計るにあたっては、海水比重よりも低い1.020~1.016ほどで調整するため安価なアナログメーターよりも精密に計れる屈折式の比重計がおすすめです。

照明

基本的に照明は必要ありません。
エサに淡水産クロレラを与える場合では、照明をつけると容器壁面に茶ゴケ(付着型珪藻)やシアノバクテリアが発生して見苦しくなってしまいます。

エサに生きた植物プランクトンを用いる場合にのみ必要となります。

エサと給餌用具

シオミズツボワムシのエサは生きた海産植物プランクトン(フィトプランクトン)が手に入れば非常に楽になります。しかし、多くのアクアリウムショップにおいても生きた海産植物プランクトンが入手できるところは多くありません。

最も手軽に入手できるエサは淡水産クロレラとなりますが、当選ながら塩分のある環境では長生きできず培養水を汚してしまうことになります。

最も入手しやすいエサである淡水クロレラ

入週できるエサの種類によってシオミズツボワムシの培養の仕方は変わるといっても過言ではありません。

また、給餌器具も用意しておきましょう。
給餌は水質悪化を考慮して量を微調整する必要があるため、1ml単位で調整できるピペットやシリンジがあると便利です。

ピペット
シリンジ

シオミズツボワムシが効率よく増殖する環境条件

シオミズツボワムシを効率よく培養するには以下の条件を満たす必要があります。

  • 水温:20~25℃
  • 塩分濃度:1.015~1.020の範囲
  • pH:8.0~8.5の範囲

水温は24℃程度。
塩分の比重は1.018を目安にしてください。

シオミズツボワムシは汽水域の生物であるため、海水と同じ塩分濃度では繁殖率が著しく落ちることが報告されています。そのため、効率よく培養するには1.020を超えないように管理することがポイントになります。

またシオミズツボワムシは環境が安定していると単為生殖によって増えますが、水質など環境が悪化してくると有性生殖による耐久卵を産むようになります。

耐久卵への切り替えのスイッチは塩分比重の変化やpHの低下、ワムシの個体数密度などが関わっています。


ワムシの密度が思うように上がらないときは、たいていが水質の悪化を原因としていることが多いため、培養水の全換水を行いましょう。

基本的な培養の手順(淡水クロレラを使用する場合)

シオミズツボワムシを培養する手順は使用するエサによって変わります。
まずは基本的な淡水クロレラを使って培養する方法から紹介します。

セッティング

基本的なセッティングは下記画像のようにしてください。

エサやり

淡水クロレラで培養する場合は給餌量が重要なポイントになります。
大量に与え過ぎてしまうとワムシが食べきれず、残ったものは死んでしまいます。

過剰投与は水質悪化の最要因となりますので、必ずピペットやシリンジを用いて量を微調整しましょう。

淡水クロレラの給餌量は培養するがほんのり緑色に染まる程度に留めます。
翌日に培養水の緑色が薄くなっているようであれば充分な量が給餌できています。

大雑把な目安としては4リットル容器に対してクロレラ2~5mlほどですが、適切な給餌量はワムシの密度によって変わります。給餌量の目安は、下記の画像を参考に調整してみてください。

クロレラ給餌量の目安
Ⓐクロレラ添加直後
真緑にならない程度に添加します
Ⓑ添加から1日後
緑色が薄くなっていればちょうどいい量です

水換えのタイミングと行い方

エサに淡水クロレラを使う場合の要点は、水換えと水質の維持にあります。

淡水クロレラは塩分のある水中では長生きできないため、水を汚します。
管理方法にもよりますが、水質が悪化するほどワムシの増殖率は落ちていきます。

そのため、ワムシを効率的に培養するためには1週間に1回は全量を交換しましょう。

具体的な水換えの仕方は下記を参考にしてください。

ワムシの水換え手順

まず最初に比重を1.018に調整した新しい培養水を用意します。

ワムシネットを使用してワムシのみ濾し取ります。
このとき、ワムシの糞や淡水クロレラの死骸も一緒に出てきます。

①ワムシネットを用意します
②ワムシネットに汚れた培養水を入れて濾します

汚れた培養水が流れ落ちたら新しい培養水をかけてすすぎ、ワムシのみ残るように洗浄します。
このとき大きなゴミが残ることがありますが、これは最後に沈殿させて取り除きます。

③比重調整した新培養水で汚れをすすぎ落します
④プラケースに移して残ったゴミを沈殿させます

ある程度ワムシの汚れが落ちたらプラケースや計量カップなどに移し、数10分ほど置いて残りのゴミを沈殿させてください。沈殿させるまで多少時間が空くので、このときに汚れている培養容器をしっかり洗浄しておきましょう。

沈殿したゴミを舞い上がらせないように、上澄み部分のワムシを別容器に移します。
このとき灰色の小さな粒々が培養水中に浮遊していればワムシの培養に成功しています。

⑤新しい培養水に移しゴミを沈殿させるとワムシの姿がハッキリと見えるようになります

洗浄したワムシを培養容器に移し、新しい培養水を注ぎます。
最後に培養水へクロレラを適量添加して水換え完了です。

洗浄したワムシと新しい培養水を培養容器に注ぎ、適量のクロレラを添加して水換え終了です

調子良くワムシが増えている状態
上手く培養できれば、このくらいの密度に増やすことができます

生きた海産植物プランクトンを使う培養方法も

生きた海産植物プランクトンが入手できた場合、水換えの手間が大きく省かれます。
また、海産プランクトン由来の必須脂肪酸も強化することができるため栄養面でもメリットが大きいです。

生きた海産植物プランクトンを使用して培養中のシオダマリミジンコ

生きた海産植物プランクトンがあれば、さまざまな海産動物プランクトン培養に応用できます。
シオミズツボワムシも例外ではありません。

可能であれば生きた海産植物プランクトンを入手されることをおすすめします。
※海産植物プランクトンの培養については別記事で解説予定です。

まとめ

シオミズツボワムシの培養は一見するとハードルが高いようにも思えますが、実のところ機材を揃えて給餌や水換えといったポイントを押さえればそれほど難しくはありません。

プランクトンの培養ということで専門的な機材が必要になる印象もありますが、身近なアイテムを少し加工しただけでもかんたんに培養ができるのも魅力です。難易度としてはブラインシュリンプ(アルテミア)の飼育よりも容易といえるほどです。

シオミズツボワムシはクマノミの稚魚など、ふ化直後にブラインシュリンプを食べられない海水魚のブリードには欠かせない存在でもあります。

また、イソバナなどの給餌の頻度が多く要求される陰日性ソフトコーラルの飼育にも活躍します。

シオミズツボワムシの培養がクリアできれば、難易度の高い海水魚やサンゴのブリードのハードルも大きく下がることになります。ぜひ培養にチャレンジしてみてください。

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