カルシウム添加剤ガイド:アラゴナイト系添加剤

炭酸カルシウムの骨格を形成するハードコーラルを育てるためには、カルシウムの供給が欠かせません。
サンゴ水槽に必要なものと聞いても、種類がたくさんあってどれを使ったらいいのか迷ってしまう方も少なくないかと思います。

本記事では、数あるカルシウム添加剤の中からビギナーでも使いやすいアラゴナイト系添加剤について解説していきます。

サンゴ水槽におけるカルシウムについて

サンゴ水槽におけるカルシウムの役割についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
リーフタンクにおけるカルシウムの基本について知りたい方は、まずこちらの記事からお読みください。

使用にあたって知っておきたいこと

アラゴナイトとは炭酸カルシウムを主体とした炭酸塩鉱物の一種で、サンゴの骨格を形成する物質としても知られています。

炭酸カルシウムには結晶構造が異なるいくつかの種類があり、それぞれ水への溶けやすさ(溶解率)など、性質に違いがあります。その中でもアラゴナイトは、水に溶けたCO₂と反応しやすく、水への溶解率が高い特徴があります。

採掘されるアラゴナイトには化石化したサンゴの骨格や貝殻に由来するものが多く、炭酸カルシウム以外にもサンゴが骨格を形成するために必要な微量元素も含まれているため、リーフタンクにおける添加剤としてカルシウム添加剤として非常に有用です。

特にストロンチウムがサンゴなどの生体に対して安全な分量で含まれているのが特徴のひとつといえます。

【サンゴ由来のアラゴナイトに含まれる元素比率】
※おおよその値 厳密な数値は産地により変わることがあります

そして、アラゴナイト系カルシウム添加剤のメリットは、なんといってもお手軽に使えるということ。

アラゴナイトはサンゴの骨格由来の炭酸塩で構成されており、水に溶け込んだCO₂と反応することで、炭酸水素塩の形でゆっくりと溶け出す性質があります。そのため、pHやKHなどの水質に影響を与える数値が急激に変化しにくく、サンゴにとって穏やかな水質環境を保ちやすいのが特徴です。

【炭酸Ca⇒炭酸水素Caへの形態変化イメージ図】

ただし、液体タイプの製品にはアラゴナイトに加えて、水溶した炭酸塩など、他の成分がプラスされているものがあるため、過剰添加には注意が必要です。

必ず製品ごとの使用量を守り、適切な管理を心がけましょう。

液体添加剤の使用における注意点

液体の添加剤は微粒子状のアラゴナイトを主体に、水溶した炭酸塩や微量元素を加えた製品が主となります。微粒子状のアラゴナイトが含まれるため、使用前にはよく振って沈殿したアラゴナイトを撹拌して使用してください。

イメージ画像
液体添加剤は微粒子状のアラゴナイトが含まれるため、よく振ってから使用しましょう

このタイプの添加剤の注意点としては、アラゴナイトに加えて水溶したカルシウムや炭酸塩、ヨウ素、ストロンチウムといった元素が加えられているという点です。過剰に添加してしまうと水質に悪影響を及ぼす可能性があります。

特に注意したいのがKH(炭酸塩硬度)の過上昇です。

KHが高くなりすぎると、サンゴの状態や水槽内のバランスに悪影響を与えることがあります。
炭酸塩はサンゴが骨格形成に使うほか、褐虫藻による光合成の炭素源としても使われます。

サンゴの体力が充分でないときにKHが高くなり過ぎてしまうと、強光障害が起こりやすくなってしまうため注意が必要です。サンゴの健康状態が良好になるまでのおおまかな値の目安としては、8dKH前後を保つように調整しましょう。※サンゴの健康状態が良好であれば、徐々に9dKH以上へ上げていっても大丈夫です。

KHの管理には、試験紙や専用の試薬を使って定期的に数値を確認することが重要です。
測定結果に応じて、添加する量やタイミングを適切に調整しましょう。

製品ごとの使用量をしっかりと守ることが、安定した水槽管理に繋がります。

液体タイプのアラゴナイト系カルシウム添加剤を使用する際は、CO₂の働きによって徐々に溶け出す緩効性のアラゴナイト成分と、すぐに効果を発揮する即効性の成分が組み合わされていることを理解しておくことが大切です。

こうした特性を踏まえたうえで、適切な使用方法を心がけましょう。

液体添加剤 製品解説

カリブシー「アラガミルク」
主成分アラゴナイト、重炭酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩 ※メーカー表記より引用
特徴・サンゴの骨格形成に必要な元素がワンセットで含まれている
・KHを緩やかに上昇させられる
適した用途・海水魚水槽のpH低下防止
・サンゴ水槽全般の緩やかなKHとCa供給

・小型フラグサンゴ水槽のKHとカルシウム供給
使用上の注意点※過剰添加によるKHの過上昇に注意

カリブシー「パープルアップ」
主成分アラゴナイト、カルシウム塩、ヨウ化カリウム ※メーカー表記より引用
特徴・安全な形態のヨウ素(ヨウ化カリウム)が配合されたアラゴナイト系添加剤
・Ca、KH、ヨウ素、カリウムを緩やかに供給
適した用途・サンゴ水槽全般の緩やかなKHとCa供給
・小型フラグサンゴ水槽のKHとカルシウム供給
・サンゴ藻やサボテングサなどの石灰藻を育成している水槽
使用上の注意点※過剰添加によるKHの過上昇、ヨウ素過多に注意
ヨウ素についての補足はこちらの記事をご覧ください。

カリブシー「コーラルアップ」
主成分アラゴナイト、塩化カルシウム、ヨウ化カリウム、ストロンチウム、マグネシウム ※メーカー表記より引用
特徴・アラゴナイトをベースに、ハードコーラル向けの元素を強化配合
・成長の早いSPS、サンゴの収容量の多い水槽にも対応した構成
・KHの消費が激しい水槽には【コーラルアップB(炭酸塩)】との併用が推奨
適した用途・ハードコーラル(SPS、LPS)の収容数が多いサンゴ水槽
使用上の注意点※過剰添加によるヨウ素過多、ストロンチウム過多に注意

固形添加剤(パウダー&メディア) 製品解説

固形タイプのカルシウム添加剤には、化石サンゴ由来のアラゴナイトを主成分としたものがあります。
パウダー状の製品は水に溶かして液体として添加することができ、粒の大きなタイプはカルシウムリアクター用のメディアとしても利用可能です。

※イメージ画像

このタイプの添加剤は緩効性であるため、急激な水質変化を引き起こすリスクが低く、初心者にも扱いやすいのが特徴です。ただし、サンゴの収容数が多い水槽では、カルシウムやKH(アルカリ度)の供給が追いつかなくなることがあります。

基本的な使い方としては、カルシウムとKHを緩やかに供給するために使用します。

カルシウム要求量の高い水槽に対しては、メディアタイプのものをカルシウムリアクターに入れて使用しますが、そちらは上級者編で詳しく解説をします。

C.P.Farm「化石サンゴパウダー」
主成分沖縄産化石サンゴ(アラゴナイト) ※メーカー表記より引用
特徴・アラゴナイトのみで構成されており、多めに添加しても悪影響が出にくい
パウダー状で徐々に溶解するため、さまざまな用途に応用可能
・コストパフォーマンスが高い
適した用途・海水魚水槽のpHとKH低下予防
・サンゴ水槽全般の緩やかなKHとCa供給

・蒸発分の足し水用(RO水に溶いて使用)
・他の微量元素添加剤と組み合わせての使用
使用上の注意点※アラゴナイトのみのため、即効性を求める用途には不向き
※添加後に水の白濁が数時間続くことがある

C.P.Farm「 化石サンゴメディア」
主成分沖縄産化石サンゴ(アラゴナイト) ※メーカー表記より引用
特徴・アラゴナイトのみで構成されており、多めに使用しても悪影響が出にくい
ろ材やカルシウムリアクター用メディアなど、さまざまな用途に使用可能
適した用途・カルシウムリアクター用メディアとして
・海水魚水槽のpHとKH低下防止
・サンゴ水槽全般の緩やかなKHとCa供給

・小型フラグサンゴ水槽のKHとカルシウム供給
使用上の注意点※溶解率はパウダーよりも低いため、カルシウムリアクターでの使用が推奨

カルシウム添加剤ガイド:アラゴナイト系添加剤 まとめ

サンゴ水槽におけるカルシウム管理は、飼育の安定性とサンゴの健全な成長に直結する重要な要素です。
初心者の方には、扱いやすく安全性の高いアラゴナイトベースの添加剤が適しており、まずは基本的なカルシウム補給から始めるのが安心です。

添加剤を上手く使いこなすために大切なのは、使用する製品に含まれるカルシウムの形態やその他の元素の種類を正しく把握し、自分の水槽に何が必要かを見極めることです。

アラゴナイト系添加剤で水質調整の基礎に慣れてきたら、飼育しているサンゴにあわせて徐々にステップアップしていきましょう。

アラゴナイト系添加剤のメリット
・アラゴナイト粒子が徐々に溶けるため、水質が急変しにくい
・Caに加え、Sr・Mg・Bなど骨格形成に必要な元素を適量含有
・KHを穏やかに上昇させることができる
アラゴナイト系添加剤のデメリット
・アラゴナイト自体は緩効性のため、即効性を求める用途には不向き
・炭酸水素塩の形で溶けだすため、KHを上げずにカルシウムのみを添加したい用途には不向き
目的別の選び方
海水魚中心(KHとpHをほどよく保ちたい)水槽を立ち上げたばかり⇒化石サンゴパウダー
pHが8.0を超えないとき⇒アラガミルク
小型フラグサンゴ中心水槽を立ち上げたばかり⇒化石サンゴパウダー
KHを上げたい⇒アラガミルク
ソフトコーラルが多い⇒パープルアップ
ハードコーラルが多い⇒コーラルアップ
ソフトコーラル中心(イソギンチャク含む)ハードコーラルが少ない⇒パープルアップ
ハードコーラルが多い⇒コーラルアップ
海藻を入れている(ヨウ素の要求量が高い)ソフトコーラルが多い⇒パープルアップ
ハードコーラルが多い⇒コーラルアップ
ハードコーラル中心(骨格形成元素の消費が早い)収容数が多い⇒コーラルアップ
収容数が少ない⇒パープルアップ
他の添加剤と併用したい⇒化石サンゴパウダー

次回は中級者編として、より専門的な即効性カルシウム添加剤について解説します。

CORALROOM Writer R

ライフワークはアクアリウムの仕組みを紐解いていくこと。 リーフタンクの生態系をミクロフローラとケミカルサイクルの要素からも解説します。

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