石灰藻とは

リーフタンクにおいて欠かせない存在である石灰藻。
コーラルロックを紫色に覆う石灰藻はその名の通り、炭酸カルシウム成分を藻体に含む藻類の一種です。

長期間海水水槽を維持していると、ライブロックやブリードサンゴの土台に付着したものを種として自然に生えてくることが多く見られます。

磯などの岩場のある海で泳いだことがある方は、岩の一部がピンク~紫色に覆われていることを見たことがあるかもしれません。それがまさに「石灰藻」です。

ライブロックの右半分に注目。
紫色に覆われた部分が石灰藻です。

石灰藻はアクアリウムにおいて俗にいうところの、「コケ」の一種といえます。
アクアリウムにおいて「コケ」というと、一般的には景観を損ねるため除去の対象とされています。

しかしながら、石灰藻に関しては古くから有益な存在とされています。

実は広義な石灰藻

アクアリウムにおいて「石灰藻」というと、ふつう紅藻類の一種である「サンゴモ」類を指します。

生物学上の「石灰藻」の定義は実はもっと広く、「サボテングサ」や「カサノリ」など細胞壁内に炭酸カルシウムを沈着する性質を持つ藻類全体を総称して「石灰藻」と呼びます。

サボテングサ
カサノリ

「サボテングサ」や「カサノリ」類も少数ながら、アクアリウムルートでの流通が見られます。
しかしその流通量は決して多いとは言えず、マリンアクアリウムにおいてはマイナーな存在といえます。

また、サンゴモ類も大きく分けると二種類あり、「無節サンゴモ」と「有節サンゴモ」に分けることができます。
サンゴモ類は無節、有節ともに数多くの種が存在しますが、同定が難しい上に専門的な文献が少ないこともあり、アクアリウムルートにおいて区別されることはほとんどありません。

有節サンゴモの一種 オオシコロ

アクアリウムにおいて石灰藻と呼ばれるのはこのうち「無節サンゴモ」類です。
「有節サンゴモ」はそもそもの流通量がとても少なく、アクアリウムにおいて見かけることはほとんどありません。

アクアリウムにおいて「石灰藻」というと、「無節サンゴモ」類以外は含まないことが一般的です。

(生物学上の)石灰藻

紅藻類 サンゴモ目

(アクアリウム上の)
石灰藻

無節サンゴモ

(アクアリウムでは)
流通がほぼない

有節サンゴモ

サンゴモ類以外の石灰藻

緑藻類や褐藻類も含まれます。

サボテングサ類
カサノリ類

など。

以上を踏まえると、アクアリウムでいう「石灰藻」として無節サンゴモ類のみを指す用法は、実はやや限定的なものとなります。

ここではアクアリウムにおける「石灰藻」として、無節サンゴモ類の性質について述べていきます。

石灰藻のメリット

石灰藻が良好に増殖する水質は、サンゴが健康に育つ水質と概ね合致します。

このため、石灰藻が増殖しやすい水槽は、サンゴが育ちやすい水槽とも言えます。
見た目でサンゴが適切に育ちうるかどうかの水質バロメーターとなる点で重宝されています。

石灰藻はカウレルパなどの緑藻に比べて成長がゆっくりなので、栄養塩の吸収能力が特別高いというわけでもありません。
しかし、石灰藻が岩などの基質を覆うことで他の藻類などが生えにくくなり、まさに自然の海中さながらの景観を美しく保ちやすくなります。

石灰藻を増やすことによりメリットが得られるのは、基本的にサンゴを中心とした水槽になります。
海水魚中心の水槽では、見た目以外のメリットは特にありません。

石灰藻のデメリット

メリットも多い石灰藻ですが、望まない位置に生えてしまった場合はデメリットとして働くこともあります。
石灰藻はあらゆる基質に生えるため、岩の上だけでなくガラス面やフィルターやOF管のパイプ、ポンプなどの機器類の表面などにも生えてしまいます。

石灰藻は一般的なコケと異なりかなり硬いため、スポンジなどで軽くこすった程度では落ちません。
除去する場合は金属製のスクレイパーなど、より強力なコケ取り用品を使うことになります。

また、サンゴ中心のリーフタンクではあまり問題になりませんが、もしレイアウトに海藻類も組み込みたい場合は、石灰藻が増えすぎると他の海藻は生えにくくなってしまいます。

除去する場合は、メタルスクレイパーでそぎ落とすのが有効です。

石灰藻の導入経路

アクアリウムにおいて石灰藻を単品で導入しよう、とすることはほとんどないかと思います。

多くの場合、ライブロックやフラグサンゴのプラグに付着しているものが徐々に増えてくる形で、気が付けばいつの間にか水槽内にいることが多いです。

石灰藻の主要な導入経路はライブロック。
フラグの土台にも付着していることも。

ライブロックのグレードとの関係

石灰藻の主要な導入経路であるライブロック。
ライブロックは一般に、石灰藻に覆われている面積が多ければ多いほど、グレードの高いものとして評価される傾向があります。

特に被覆面積が多く、岩全体が石灰藻に覆われているものは「レッドロック」や「パープルロック」などと呼ばれ珍重されます。

高グレードとされる
ライブロック
低グレードとされる
ライブロック

ただし、石灰藻の被覆面積とライブロックのろ過能力に直接的な関連性はありません。

グレードの高いライブロックは石灰藻に多く覆われているという評価であり、ろ過能力に関しては、ほとんど石灰藻に覆われていないB品とされるものであっても、ほとんど違いはありません。
グレードの高低はあくまでも見た目だけの話であり、ろ過能力はこれと関連ありません。

もっとも、被覆面積が多いということはそれだけ長期間熟成されているということでもあります。
この点では、ろ過バクテリアがたっぷり増殖している可能性が高い と考えることもできるでしょう。

一方で石灰藻がほとんど付着していなくとも、長期間熟成されているライブロックは、見た目は白いもののろ過バクテリアがたっぷりと付着しています。

▼こちらも参考

どんな基質にも付着する

石灰藻が活躍するのはライブロックだけではありません。

アクアリウムにおいて石灰藻といえばライブロックのイメージが強いですが、基本的には石などの基質にはどんな形状であれ生えてくる可能性があります。

例えばマルコロックを長期間海水水槽内で熟成させると、自然に石灰藻が発生・付着することで、天然のサンゴ礁そのもののような外観へと成長します。

複雑な形状に組み上げたマルコロックの全体がもし石灰藻に覆われたら、見ごたえのあるレイアウトロックへと仕上がるでしょう。

マルコロックを最終的に仕上げるのは、この石灰藻をいかにして発生・増殖させるかが重要です。

石灰藻の増やし方

ここまでで石灰藻の基本的な性質を抑えました。
石灰藻を増やすにあたり適切な条件は概ね好日性のサンゴと共通します。
一般的にサンゴが適切に育成できるレベルの設備・管理ができていれば、石灰藻は特に意識せずとも自然に増えていくことでしょう。

石灰藻が増えていかない場合は、そもそもサンゴの育成に適切な環境が整っていない可能性を疑ってみてください。

また、石灰藻は区別されていないだけで実は数多くの種が存在します。
種類によって理想的な環境が異なり、低光量で育つものもいれば、強い光と水流を要求するものもいます。
石灰藻にとって適切な環境でなければ、サンゴ同様に白化してしまうこともあります。

流通上区別されていることはほとんどありませんが、全体がのっぺりしたタイプは比較的低光量でも育てやすく、表面がイボイボしたタイプ(ヒライボ系)は強い光と水流を要求する傾向があります。

のっぺり系の石灰藻
イボイボ系の石灰藻


それでは、実践的な水槽内での増殖方法を見ていきましょう。

KH上昇と微量元素の添加

石灰藻の育成には、KHの上昇といくつかの微量元素の添加が有効です。
石灰藻は炭酸カルシウムを藻体に含むため、水中にカルシウムが溶けていることがまず重要です。

カルシウムは人工海水にも含まれており、一般的な人工海水を利用していればそれで供給されます。
しかし、より量を増やしたい場合には、添加剤により水中のカルシウム濃度を上昇させるのが有効です。
カルシウムの濃度が高まればKHも高くなり、KHが高まることで光合成も活発化します。

石灰藻の育成に重要な元素としてカルシウムとヨウ素がよく挙げられますが、その他にカリウムと鉄イオンの存在も重要です。

海中においてはカリウム、鉄、ヨウ素は微生物や藻類などによって急激に消費される傾向があります。
特に水槽内ではこの3つの元素が枯渇しやすいことから、定期的な添加を行うことで石灰藻の成長を促進させることができます。
ヨウ素はサンゴ用の添加剤に含まれていることが多いので、不足しがちなカリウムや鉄の添加剤も合わせて使用すると効果的です。

なお微量元素の添加にあたっては、リン酸塩や硝酸塩といった栄養塩が高すぎる環境では他の海藻類に栄養を奪われてしまい、うまく育たないことがあります。
栄養塩が高すぎる環境の場合、他の藻類(つまり俗に言うコケ)が増えすぎて景観が悪くなってしまうことがあるので注意しましょう。

具体的な育成プランとしては、サンゴ用のカルシウム添加剤が有効です。
特に成長を早めたい場合は、カリウム及び鉄を含んだ水草用の液体肥料も有効です。

石灰藻のために作られた専用の添加剤もあるため、それらを利用するのが手っ取り早いでしょう。

添加により順調に石灰藻の面積が増えていくようであれば、サンゴを導入しても上手く行きやすい水質であることが、見た目でわかるようになります。

光量を増やす

石灰藻は藻類の一種であるため、一定程度の光が必要です。
とはいえ海水魚飼育用の照明でも十分生えるので、特段強い光を当てる必要はないというのが通説です。

しかしながら、実際には石灰藻の種類により、強い光を要求しないものと要求するものがいます。

全体がのっぺりしたタイプであれば強い光を要求しないことが多いですが、イボイボしたタイプは強い光を要求することが多いです。

ただしこれらはふつう、区別して販売はされていません。
このため、実際のところ必要な光の強さは水槽に入れてみないとわからないことも多いです。

強い光を要求する有節サンゴモの一種、モルッカイシモsp.

まずは育てたいサンゴの適切なレベルの照明を用意した後、水質に問題がないにもかかわらず白化が進んでしまうようであれば、スポット型の照明を追加すると良いでしょう。

水流を当てる

サンゴと海藻に共通した特徴として、体表に接触する水流が早いほど海水中の微量元素の吸収が促進されるという性質を持っています。
石灰藻も例外ではなく、水流の当たるところから生えてくる傾向があります。
このため、サーキュレーターで水槽全体に水の流れを作っておくことが重要です。

水流はサンゴにも必要なものですので、リーフタンクであれば必然的に導入されているとは思います。

安定した環境

石灰藻が増えてくるには時間がかかります。
水槽内の石の配置を頻繁に動かすと、石灰藻がなかなか生えてこないことがあります。

一度レイアウトを決めたらしばらく動かさないようにして、安定した環境作りを心掛けることも重要です。


石灰藻とは まとめ

  • ライブロックなど岩の表面に生えるピンク~紫色の藻類の一群です。
  • 藻体内に炭酸カルシウム成分を含む藻類を総称して石灰藻と呼びます。
  • アクアリウムにおいては特に、このうちの「無節サンゴモ類」を指して石灰藻と呼ばれます。
  • 石灰藻が良く増える環境は、サンゴも育成しやすい環境であることが多いです。
  • 石灰藻の育成要件はサンゴとほぼ同様で、KH、光量、水流の3点が特に重要です。
  • 流通上は区別されていませんが、サンゴモ類には複数の種類がいます。
    のっぺりした表面を持つものは比較的育成しやすく、イボイボした表面を持つものは比較的育成難易度が高めです。

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