フラグサンゴを作る際やサンゴの新規導入時にも欠かせないディップ剤。
しかし、いまいち「使い方がよくわからない!」という方も少なくないかと思います。
今回はそんな謎の多い?サンゴ用ディップ剤について解説していきます。
ディップ剤とは?
ディップ剤とは、名前をそのまま訳すと「サンゴを浸け置きするための薬剤」です。
その目的はサンゴに付着した寄生虫や病原菌を除去するためのもので、水槽内でサンゴを健康的に飼育するためには欠かせないアイテムです。
使うタイミングは「新しくサンゴを購入して水槽に入れる前」や「サンゴをフラグ化するためにカットしたとき」、「サンゴに寄生虫が付いているのを確認したとき」となります。
ディップ剤の種類
ディップ剤は成分により2種類に分けられます。
ひとつは「ヨウ素系ディップ剤」。もうひとつは「植物抽出成分(通称:ハーバル)系ディップ剤」です。
それぞれ主体としている成分が違うことから効果や目的が異なります。
性質の違いを把握して的確に使い分けることが求められます。
ヨウ素ディップ剤
ヨウ素ディップ剤(以下、ヨウ素剤と表記)は文字通りヨウ素(I₂)を主体としたディップ剤です。
ヨウ素は塩素が含まれるハロゲングループのひとつで、塩素ほどではないものの強い酸化力を持っています。
この酸化力を利用して主に「細菌類を殺菌する用途」で使われます。
使用する場面は「フラグサンゴ作成時」と「サンゴが傷ついたときの消毒用」としてが主になります。
サンゴの共肉部はタンパク質の塊であるため、切断面や傷口ができるとそこからビブリオ菌など病原菌に侵入され体組織が腐敗してしまいます。体組織の腐敗を防ぐために使われる「傷口の消毒剤」といった役目があるのがヨウ素剤なのです。
またリーフタンク用の添加剤にはさまざまなヨウ素剤がありますが、殺菌を目的とした場合には「酸化力の強いヨウ素(I₂)を主体とした茶色い液体」のものを使いましょう。
「透明な液体のヨウ素剤」は酸化力が弱いヨウ化カリウムを主体としたもので、こちらはサンゴへヨウ素を供給するための目的で使われます。製品によってはヨウ素(I₂)が少量含まれるものもありますが、ディップ専用のものと比べると殺菌力は落ちてしまいます。
ヨウ素は肉眼で見えないサイズの細菌類の殺菌にはてきめんな効果がありますが、肉眼で見えるサイズの大きな寄生虫を死に至らしめるほどの酸化力はありません。
そういった寄生虫の駆除には次のハーバル系ディップ剤を使用します。
植物抽出成分(ハーバル)系ディップ剤
ハーバル系ディップ剤(以下、ハーバル剤と表記)は植物から抽出された成分を主体とした製品です。その具体的な成分はモノテルペン類を主体としており、柑橘系と針葉樹系をブレンドしたアロマオイルのような芳香を持っています。
これらの成分は植物のアレロパシーに由来するもので、サンゴに寄生する微細な無脊椎動物を駆虫する効果があります。そのため、ハーバル剤はヒラムシや無腸動物、ポリプ食のウミウシなど「サンゴに付着する寄生虫を駆除する用途」を主としています。
人の肉眼で見えない細菌類はヨウ素の酸化力で殺菌することが可能ですが、肉眼で見えるサイズの生物になると多少弱らせることはできても完全な駆除には至りません。そこで使われるのが植物のアレロパシー由来の化学物質を利用したハーバル剤なのです。
逆にハーバル剤は細菌類に対しては一部の種類への抑制効果はあるものの、全ての細菌類を殺菌できるわけではありません。その点では、酸化に対する抵抗力を持たない細菌をまとめて殺菌できるヨウ素剤には敵いません。
そういった理由から、駆除したい対象によってディップ剤を使い分ける必要があるのです。
使用上の注意点
両種ともに使用量はメーカーが規定した製品毎の使用量を厳守してください。
基本的には両種ともに殺菌と殺虫を目的とした成分となっていることから、過剰量を使用した場合にサンゴにダメージが出る可能性があります。
加えて、ヨウ素剤とハーバル剤を同時に併用することも絶対に避けてください。
ヨウ素の酸化力によりハーバル剤に含まれる成分が破壊される可能性があり、本来の効果が発揮できなくなる恐れがあります。
そういった理由から、ヨウ素剤とハーバル剤は必ず単独で使用するのが原則です。
同時に使用する必要があるときは①「ハーバル剤で寄生虫駆除」⇒②「サンゴを海水で洗う」⇒③「ヨウ素剤で病原菌を殺菌」の順番がおすすめです。
ハーバル剤はサンゴに付着した成分が本水槽へ入ってしまうのは望ましくないため、使用後は必ず海水でサンゴを洗浄しましょう。
ハーバル剤で処理後は「サンゴを海水でよくすすぎ洗いして」からヨウ素剤のディップに進みます。
ヨウ素剤のディップ後はそのまま本水槽へ入れて大丈夫です。
ヨウ素剤は殺菌効果を持続させるためにも洗浄なしで水槽へ戻して問題ありません。
殺菌効果が失われたヨウ素はヨウ化物塩に変化し、サンゴや藻類によって微量元素として吸収されることになります。
まとめ
サンゴのディップ剤にはヨウ素剤とハーバル剤の2種類が存在し、それぞれ用途が違います。
そのため薬品の成分と性質をしっかり把握して、目的に応じた使い分けをしましょう。
ヨウ素剤 | ハーバル剤 | |
---|---|---|
主成分 | ヨウ素(I₂) | 植物抽出成分(モノテルペン類など) |
目的 | 細菌類の殺菌、傷口の消毒 | サンゴの寄生虫や害虫の駆除 |
対象 | ビブリオ菌などの細菌類 | ヒラムシ、無腸動物、ウミウシ、多毛類など |
使用のタイミング | ・フラグ化のためサンゴをカットした直後 ・サンゴの体組織に傷があるとき | ・購入したサンゴを水槽へ入れるとき ・サンゴに寄生虫が付着していたとき |
使用後の すすぎ洗い | 不要 | 必要 |
これらディップ剤を使いこなすことで、サンゴの病気と寄生虫による衰弱を防ぐことができるようになります。
サンゴを健康に飼育するためにも、傷や寄生虫が発生したときに適切な対処ができるようディップ剤は常備しておきましょう。
コメント