海水魚を飼っているアクアリストにとって最大の敵とも言える存在の白点病。
その存在に手を焼かされ、煮え湯を飲まされたアクアリストは少なくないはずです。
今回は海産白点虫Cryptocaryon irritansの詳細と対策について解説していきます。
目次
海産白点虫(Cryptocaryon irritans)とは何ものなのか?
白点虫(シオミズハクテンチュウ=Cryptocaryon irritans)は海水魚に対する寄生性を持った繊毛虫の一種です。
繊毛虫とは体表に無数の繊毛を持つ単細胞生物で、かんたんに説明すると小型の動物プランクトンに含まれる生物といえ、代表的なものには代表的なものにはゾウリムシやツリガネムシ、ラッパムシなどがいます。
その生態もさまざまで、ゾウリムシのように積極的に動き回り細菌類を捕食するものや、ツリガネムシやラッパムシなどのように水中の有機物を食べるろ過食性を持つもの、そして白点虫は魚の体表に寄生する生体を持っています。
海産のCryptocaryon irritansと淡水産のIchthyophthirius multifiliisは綱レベルで違う生物なのですが、奇しくも似たようなライフサイクルを持っており、アクアリストからはまとめて白点虫の呼称で呼ばれています。
本記事では主に海産のCryptocaryon irritansについて触れています。
海産白点虫のライフサイクル
白点虫のライフサイクルは大きく分けて4つのステージがあります。
①仔虫であるセロント(Theront)、②魚体に潜り込む寄生体:トロフォント(Trophont)、③魚体から離脱して泳ぎだす成虫:プロトモント(Protomont)、④強固な外殻を持つ耐久卵状態のシスト(SystもしくはTomont)、この4つの形態を繰り返していきます。




白点虫の厄介なところは、このライフサイクル中に薬品による駆除ができない期間があるためです。
特に耐久卵状態になっているシストは強固な外殻と底砂中に潜り込んで休眠することから薬品による駆除ができません。
また、魚体に寄生している初期段階では表皮の中に潜り込んでいるため薬浴が効きません。
そのため、白点虫を駆除するにはシストから放出された仔虫と魚体から離れた成虫が水中に浮遊している機関に限られます。白点虫はこの①~④のステージを通常およそ2週間で1サイクルしますが、薬品で駆除可能なのは水中に浮遊する1~2日ほどの期間に限られてしまいます。
つまり、この駆除可能期間にどのように対処するかが課題となるのです。

そして、さらに問題となるのはシストの存在です。
シストは底砂内などの低酸素環境では最長で6か月近く休眠可能なことが判明しています。

白点病が発生していた水槽では、いったん治まったとしても半年以内に再発してしまう可能性があります。
フィルターからの出水などで底砂が舞い上がったタイミングで白点病が再発してしまうといったケースも知られています。
この点も考慮して対策する必要があるのです。
白点病の出やすいタイミング
白点病は気温の変化が大きい季節に出やすい病気です。
その理由は魚自身の体力が落ちやすいタイミングに加え、シスト状態の白点虫が水温の変化をトリガーとして仔虫を放出することが挙げられます。
またシストからの仔虫放出は深夜2:00~早朝9:00の間に放出されることが確認されており、これは魚の睡眠中を狙って魚体に取りつく確率を上げるためではないかと言われています。

また、海産白点虫は水温が25℃~30℃以上で活動が活発化することが知られています。
そのため水温が上昇しやすい春~初夏は特に注意が必要です。
白点病を予防するためには水槽用クーラーを使用して水温を安定させることも重要です。
海水魚水槽における白点病対策
海水水槽における白点病治療の基本は、まず隔離水槽を用意して薬浴することです。
体表に入り込んでいる段階では、薬剤が効きません。
魚体から離脱したときに薬品などで駆除は可能になりますが、隔離しての薬浴は主にビブリオ菌などへの二次感染を防ぐことも重要です。
白点虫は魚の体表に潜り込んで体液を吸収する寄生虫ですので、魚は徐々に体力が落ちて弱っていきます。
体力が落ちてくると、魚の免疫も落ちてビブリオ菌に感染しやすくなってしまいます。
海水水槽では、このビブリオ菌への二次感染が非常に恐ろしいのです。
白点虫の成虫と幼虫のサイクルを断ち切り、ビブリオ菌への二次感染を防ぐことが、「隔離して薬浴する」最大の目的となります。
隔離水槽での薬浴+全換水

基本的な薬浴の仕方は、隔離水槽に移し、1日1回全換水を行います。
これは魚体から離脱した白点虫の成虫がシストになり、新しい仔虫が放出されて再度魚体に取りつくことを防ぐためです。
全換水は魚体から離脱したシストを全て除去するために行います。

仔虫の放出については、多くの海水魚が夜間に寝ている間に放出されることが多く確認されたという報告があり、これは白点虫が確実に魚体に取りつくための戦略ではないかと言われています。
シストから仔虫が放出されるタイミングは、深夜から朝(AM.2:00~9:00)にかけてが最も割合が多く、この仔虫を駆除するために薬浴を行うわけです。
しかし、薬浴による駆除はあくまで補佐的なものと考えていただくのが確実です。
メインとなる対策は「全換水による魚体から離脱した白点虫(成虫)の一掃」にあります。

薬浴はあくまで「除去しきれなかった白点虫を駆除する保険」と「ビブリオ病への二次感染を防ぐもの」と考えてください。
この1日1回全換水+薬浴を白点虫が魚体に取りついている寄生期間(平均3~7日)よりも長い10日ほど行って、魚体から白点が消えれば目に見える白点虫はほぼ駆逐できたといえます。
ただし、万が一新たに付着した白点虫がいた場合、2~3日ほどで魚体に新しい白点が生じてくる可能性もあります。
魚体の白点が消えてから1週間ほどは、隔離水槽で再発が見られないか観察しましょう。
1週間以上白点の再発が見られなくなれば、完治したと判断できますので、本水槽へ戻しても大丈夫でしょう。
エサはしっかりと食べさせる
白点病は寄生虫の感染症であり、白点虫は寄生した海水魚の体力を奪っていきます。
そのため、薬浴や換水にプラスして重要なのが治療する魚へ栄養価の高いエサを食べさせることが重要です。
人間も病気になったときは消化が良く栄養価の高い療養食を食べますが、理屈はそれと同じです。

キョーリン【パラクリア DHA+】

べっぴん珊瑚【魚馳走さま】
白点病は人間で例えるなら風邪に近いもので、よほどに悪化しない限りは海水魚はすぐに死にません。
最も恐ろしいのは徐々に体力が奪われ、痩せて衰弱して死んでしまうことですが、体力がなくなり免疫が落ちることでビブリオ菌などに感染しやすくなってしまいます。
そして衰弱した海水魚にビブリオ菌が感染することで、ビブリオ病を引き起こし最後のトドメを指すことになります。ビブリオ菌は非常に恐ろしい病気で、一度症状が出てしまうと9割方は助かりません。
ただし、ビブリオ菌は海水魚に体力があり免疫が機能していれば感染することはほとんどありません。
重要なのは海水魚を衰弱させないことです。
そのために栄養価の高いエサを与えて海水魚の体力が落ちてしまわないようにケアしてあげましょう。
また、全換水する理由の一つとして、栄養価の高いエサを与えると食べ残しなどが水を汚します。
また、ビブリオ菌の増殖源にもなるため、清潔な水環境を維持するために1日1回の全換水が効果的となるのです。
全換水が難しい場合の対処

全換水が難しい場合は、部分的な水換えを行います。
しかし、ただの水換えではいけません。
重要なのは白点虫の耐久卵ともいえるシストの除去です。
成虫は魚体から離脱後、数時間は水中を浮遊します。
部分換水ではこの成虫を完全に除去することは難しくなります。
しかし、成虫からシストに変化すると休眠のため底に沈みます。
この沈んだシストを底砂クリーナーなどを使って排出します。

Ⓑシスト:底に沈んで約3日後以降に仔虫を放出する
前項で解説したとおり、重要なのは白点虫の寄生サイクルを断ち切ることです。
新たに魚体へ寄生するのはシストから放出された仔虫です。
つまり部分換水で対処する場合は、底に沈んだシストを徹底的に除去することが目的になります。
そして部分換水では、水中を浮遊している成虫を完全に除去しきることができません。
吸い出す日にちを開けてしまうと、シストになった個体から仔虫が放出され、白点病が再発してしまう可能性が出てきます。必ず1日1回は底面からの吸い出しを行いましょう。
残留した成虫への対策は、薬品もしくは紫外線殺菌灯で殺虫することで補います。
使用する薬品は抗菌系ではなく、白点虫を殺虫可能な色素剤や酸化剤を使います。
初心者でも比較的安全に使用できる駆虫剤 |
これら3種類は初心者でも比較的安全に使用できるタイプの駆虫剤です。
全換水ができない場合はこれらを使って、魚の体表から離脱した成虫を殺虫します。
※使用にあたっては各製品の規定量を厳守してください。



銅イオンを含んだ白点虫殺虫する薬品 |
より確実に白点虫を殺虫できるのは銅イオンを使用した駆虫剤です。
銅イオンは非常に殺菌殺虫力が強く、上級者やショップでは銅イオンを使って白点病を治療することが多いです。
同時に白点虫だけでなくビブリオ菌のような細菌類に対しても強い殺菌力を持っています。
ただし、効果がてきめんな分、魚への毒性も強いため、魚の種類によっては使用できない場合もあります。
使用量も絶対に規定量を超えてはいけません。銅イオンの濃度が高いと体力の落ちた魚もさらに弱って死んでしまうリスクもあります。
銅イオン剤の使用に不安がある方は、行きつけのお店など信頼できるアクアリウムショップで経験豊富な店員さんに相談してみましょう。

紫外線殺菌灯を使う場合 |
隔離水槽に紫外線殺菌灯を使う場合には小型の投げ込み式がコンパクトで便利です。
こういった小型の紫外線殺菌灯は1台持っておくと、非常に便利です。
特に白点虫よりもビブリオ菌に対して強い効果を発揮するため、体力の落ちた海水魚やサンゴのトリートメント槽に使用し、ビブリオ病やRTNを予防する用途に使用できます。


紫外線殺菌灯についての詳しい原理や活用方法などは別記事にて解説していますので、そちらもご覧ください。
底砂掃除
隔離水槽ではなく、本水槽で白点病が頻発してしまうときは底砂内に白点虫のシストが休眠している可能性が高いです。そのため、シストを除去し白点病を再発させないようにするには徹底的な底砂の掃除が必要になります。
海水魚のみの飼育で底砂を厚く敷いているのであれば、リセットして薄く敷き直してもいいかもしれません。
中途半端な掃除では余計には白点病が増えることもありますので、どうしても収まらないようであれば底砂を全て取り換えるフルリセットをするのもひとつの手になります。
海水魚水槽の白点病と対策 まとめ
今回は海水魚の飼育と切っても切れない最大の天敵ともいえる海水魚の白点病について解説してきました。
そして今回は海産白点虫Cryptocaryon irritansが引き起こす白点病の基礎の基礎に当たる部分です。
海産白点虫がどういった存在であり、海水魚が白点病に感染した場合にどう治療すればいいかの基本となるところを中心に紹介しました。病原菌や寄生虫などへ対抗するためには、おなじみの言葉ですが「敵を知り己を知れば百戦危うからず」です。
生物の飼育においては病気を発生させないことが最高の上策ではありますが、相手が生物である以上は完璧に防ぐことはできません。ただし、万が一病気が発生してしまった場合、その病原菌や寄生虫の性質とこちらが持ち得る対抗手段をしっかりと把握しておくことが、大切な海水魚を病気から守ることに繋げることができるのです。
海産白点虫Cryptocaryon irritansのライフサイクルについて重点的に解説したのは、そういった理由によるものです。
本記事があなたの大切な愛魚を救うための一助になれれば幸いです。
また、サンゴ水槽などにおける白点虫対策まで含めると非常に長くなってしまうので、本記事では割愛しています。
もちろん、そちらは続編として執筆予定なのでご安心ください。
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