前回は紫外線殺菌灯の基本的な原理について解説しました。
今回は紫外線殺菌灯をどのように使えばいいのか、その効果的な使い方に迫っていきます。
目次
駆除対象により求められる出力の違い
まずは紫外線殺菌灯を使うにあたって、対象別の使い分けを把握しておきましょう。
具体的には「細菌類や微細藻類など単細胞生物サイズのもの」と「白点虫(繊毛虫)のような多細胞生物サイズのもの」で必要な出力(W数)が変わります。
この点を把握しておかなければ期待する効果が望めなくなることがあるので注意しましょう。
メインターゲットとなる「白点虫の成体」と「細菌類や微細藻類」のサイズにはかなりの開きがあり、対象が大きくなるほど紫外線殺菌灯の出力は高い数値が求められます。
細菌類と藻類の殺菌
細菌類や微細藻類は単細胞生物もしくはそれに近い生物であり、体のサイズが非常に小さい(μm単位)ため、比較的低出力の殺菌灯でも充分に殺菌できます。これらの生物は細胞の構造も比較的単純なので、低出力のUV-Cでも容易に細胞壁やDNAが破壊されます。
浮遊性の細菌類や微細藻類が殺菌されるため、飼育水の透明度が上がるなどの効果が見込めます。
特にビブリオ菌に対する殺菌においては非常に有用で、痩せた海水魚やサンゴをトリートメントするときに活躍します。ビブリオ菌対策に用いるときは、「増殖速度が非常に速い」ことから流量が高めのポンプがおすすめです。
細菌類と藻類対策への推奨出力 | |
---|---|
幅30~45cm水槽 | 10W以下でも可 |
幅60cm水槽 | 10W以上 |
幅90cm水槽 | 20W以上 |
寄生虫(白点虫)の駆除
寄生虫(例:白点虫)は多細胞生物であり、体のサイズが大きい(mm単位)ため、細菌類や藻類に比べて強力な紫外線が必要です。寄生虫は複雑な体構造を持ち、外殻が強固なものもいるため、低出力の紫外線では十分に駆除できないことがあります。
白点虫は成虫が増殖の前段階であるシストという形態に移行すると、非常に強固な外殻を形成します。
この状態になってしまうと殺菌灯の出力が低いと、ほとんど通用しなくなってしまいます。
また、白点虫の成虫は仔虫と比較してもかなり大きいため、シスト形態でなくても殺菌灯の出力はなるべく高いほうが望ましいといえます。
魚体に寄生する前の仔虫は出力の低い(10W以下)殺菌灯でもある程度は対処可能です。
しかし、成長して魚体から離脱した成虫の体組織を破壊するには、より高い出力(30W以上)が必要となります。
白点病が出ている水槽に対してはなるべく出力の高い機種を使用しましょう。
白点病対策への推奨出力 | |
---|---|
仔虫 | 10W以上 |
成虫 | 30W以上 |
紫外線殺菌灯の効果的な使い方
殺菌もしくは殺虫する対象が決まったら、次は配管です。
紫外線殺菌灯の効果を最大限に発揮するためには、製品ごとの推奨流量に必ず合わせましょう。
推奨流量の目安は、製品ごとにある程度の幅が設けられています。
下限に近い流量ではより強い殺菌駆虫効果が望め、上限に近い流量では時間(秒)換算でより多くの飼育水を処理できるようになります。
紫外線殺菌効果(J/m2)はおおまかに出力 (W)×時間 (秒)で求められます。
※実際には照射面積なども関わるため、正確にはもっと複雑な計算式になります。
より高い殺菌効果を期待したいのであれば、殺菌灯のハウジング内を通過する時間を延ばす必要が出てきます。
これが配管を決めるための重要なポイントになります。
白点虫の成虫など体の大きな寄生虫駆除を目的とするなら流量は下限値に近い設定にし、ビブリオ菌のような増殖速度が速い細菌類を殺菌するなら上限値に近い流量に設定しましょう。
直列式配管 ※出力が高い殺菌灯向け
直列式配管は海水魚中心の水槽や大型水槽に向いたセッティングです。
配管をシンプルにできるというメリットもありますが、組むための条件は殺菌灯に適した循環水量とクーラーに適した循環水量を合わせる必要があります。
クーラーに必要な循環水量は基本的に落とすことができません。
水槽用クーラーは推奨流量より低い流量にしてしまうと故障の原因にも繋がります。
そのため、使用する殺菌灯の出力は必然的に高い数値のものを使うことになります。
白点虫などの寄生虫(繊毛虫症)にも対処したいときには30W以上のものが推奨です。
出力の低い製品を組み込んでしまうと、充分な殺菌効果が得られなくなってしまうことがあるため注意しましょう。
高い出力と流量の組み合わせとなることから、とにかく「魚病を抑制したい」というときにはこちらの配管が適しています。
特徴 | ・出力の高い殺菌灯に向いている配管。 ・30W以上の殺菌灯を用いれば白点病(寄生虫症)にも対応可能。 |
向いている水槽 | ・活魚水槽 ・大型水槽 ・ヤッコやチョウチョウウオなど海水魚中心の水槽 |
メリット | ・本水槽内を病原菌の少ないクリーンな環境にしやすい。 ・配管をシンプルにできる。 |
デメリット | ・循環ポンプの流量はクーラーに合わせる必要がある。 ・出力の高い殺菌灯が必要になる。 |
並列式配管 ※出力が低い殺菌灯向け
並列式配管は出力の低い殺菌灯の効果を最大限に引き出したいときに用います。
ポンプの流量を推奨の下限値にまで設定できるため、紫外線殺菌効果(J/m²)を高めることができます。
デメリットとしては専用の循環ポンプを使うため、配管が複雑になってしまうことです。
オーバーフロー水槽では機種によりキャビネット内に設置できなくなる可能性もありますので、予め設置スペースを確認しておきましょう。
特徴 | ・出力(W数)の低い殺菌灯に向いている配管。 ・クーラーの流量に依存しない殺菌灯の運用が可能。 |
向いている水槽 | ・リーフタンク ・小型水槽 |
メリット | ・有用なバクテリアやプランクトンを活かしたシステムにも向いている。 |
デメリット | ・使用するポンプの個数と配管が増えてしまう。 |
なるべく配管を複雑にしたくないときにはポンプ付きの投げ込み式が取り回しがよく便利です。
小型の投げ込み式は出力が低め(10W以下)でポンプ交換による流量の調整が難しいため大型水槽には向いていませんが、小型水槽でも手軽に設置できるのがメリットです。
プロテインスキマーとの組み合わせ
リーフタンク向けのセッティングとしてはプロテインスキマーと組み合わせる方法もあります。
殺菌灯により殺菌された病原菌や白点虫の死骸はそのまま水槽内に残ることになります。
そのため、栄養塩をなるべく低めに維持したいSPS水槽などでは、殺菌灯からの排水をプロテインスキマーの吸水口付近に設置することで殺菌と有機物除去を効率的に行うことができるようになります。
また、殺菌灯にはデトリタスの核となるセルロースの分子を分解する作用もあるため、サンプ内へのデトリタス沈殿を軽減する効果も期待できます。
デメリットとしては、サンプに設置する場合は本水槽内に対しての殺菌効率がやや落ちてしまう点です。
この点は出力の高い機種を用いることで充分にカバーはできます。
逆に本水槽内の有益なプランクトンを減らし過ぎないので、水槽システム全体で見た場合の微生物バランスを考慮したセッティングともいえます。
向いている水槽 | ・リーフタンク |
メリット | ・低栄養塩の水質を保つSPS水槽向け |
デメリット | ・本水槽への殺菌効率はやや落ちてしまう |
まとめ
紫外線殺菌灯は駆除対象に応じた出力設定が重要です。
適切な出力とポンプ流量の組み合わせにより効果的な殺菌・駆虫が可能となりますが、セッティングの仕方によってはその性能を活かしきれないこともあります。特に、白点虫のような多細胞生物には高出力が求められるため、使用する水槽の状況に合わせた選択が必要です。
そして配管の設定も効果を最大限に引き出すための重要なポイントとなります。
せっかく殺菌灯を導入したのに思うような効果が得られなかったというときは、殺菌灯の出力に適したセッティングになっているか確認されるとよいかもしれません。
本記事が環境改善に繋がる手助けとなれれば幸いです。
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