カルシウム添加剤ガイド:カルクワッサー & カルシウムリアクター

カルシウム添加剤ガイド。
最後にご紹介するのは、添加剤というよりは上級者向けのカルシウム添加方法となります。

ハードコーラルが多数収容され、状態も良好な水槽では、カルシウムの消費量が非常に多くなります。
こうした環境では、一般的な液体添加剤だけでは十分な供給が追いつかず、より効率的で安定したカルシウム供給手段が必要になります。

その代表的な方法が「カルクワッサー」と「カルシウムリアクター」です。

カルクワッサーは、比較的シンプルな設備で運用できる一方、化学的な理解と慎重な取り扱いが求められる方法です。アルカリ性が強い水酸化カルシウムを使用することから、添加量や取り扱いには注意が必要ですが、カルシウム補給とpHの上昇を同時に行えるという利点があります。

一方、カルシウムリアクターは、専用の機材を用いて炭酸カルシウムメディアを溶解し、カルシウムと炭酸塩を安定的に供給する装置です。導入には初期コストがかかりますが、長期的な運用においては非常に信頼性が高く、特にSPS中心の水槽に適しています。

それぞれの方法には特徴と適した使用環境がありますので、詳しく見ていきましょう。

前回までの記事をおさらいしたい方は、こちらをご覧ください。

カルクワッサーとは

カルクワッサーとは、水酸化カルシウム を純水に溶かして作る高pHのカルシウム水溶液です。
この名前はドイツ語で石灰水を意味する言葉(Kalkwasser)に由来しています。

水酸化カルシウムの粉末をRO水に溶いて使用します

水酸化カルシウムは強アルカリのカルシウム塩で、非常に高いpHを持つ物質です。
水溶性はあまり高くありませんが、時間をかけて少しずつ溶け、強アルカリ性の石灰水となります。

水溶した水酸化カルシウムのpH12~14

水溶した水酸化カルシウムのpHは12~14と非常に高く、カルクワッサーは海水中のカルシウム濃度を補うだけでなく、同時にpHを上昇させる効果もあります。

カルクワッサーを使う理由

カルクワッサーを使用する理由は、ランニングコストが低く、カルシウム消費の激しいサンゴ水槽に向いた添加方法であることも挙げられますが、最たる理由はその化学的な性質に由来します。

水酸化カルシウムには、単純にpHとカルシウムレベルを上げるというだけではなく、水中に溶けたCO₂と反応し、炭酸カルシウムや炭酸水素カルシウムへと変化する性質があります。

この反応によって、カルクワッサーは水槽内でカルシウムを補給すると同時に、CO₂を中和する働きを果たしているのです。

水酸化カルシウムは水中のCO₂と反応し、炭酸カルシウムとなって沈殿します

空気中のCO₂は海水に溶け込むとpHを下げる原因になりますが、カルクワッサーに含まれる水酸化物イオン(OH⁻)とカルシウムイオン(Ca²⁺)がこれを中和し、pHの低下を防ぎます。

炭酸カルシウムの骨格を形成するハードコーラルは、海水のpHが下がると骨格形成に影響を受け、成長率が変化することが知られています。特にミドリイシのような成長の早いSPSでは、その影響が顕著に現れます。

pHとミドリイシの成長率との相関グラフ】
※数値はBehbehani et al. (2019)を参考

単純にカルシウムレベルを上げたいのであれば、即効性カルシウム添加剤が有効です。

しかし、ミドリイシなど成長の早いSPSを多く収容し、さらに海水魚も多い水槽ではカルシウムの消費に加えてKHとpHの低下も早まります。

そのような環境では、カルシウム補給とpH上昇を同時に行えるカルクワッサーが非常に有用な手段となります。

小型水槽やサンゴの収容数が少ない水槽では、KHを適度に上げることでpHを安定させることが可能です。
しかし、SPSを多く収容した大型水槽では、消費の激しいカルシウムを供給すると同時に、pHを上げるための手段としてカルクワッサーが用いられているのです。

カルクワッサーはSPSと海水魚の収容数が多めの大型水槽に適したカルシウム添加方法です

カルクワッサーの基本的な使い方

カルクワッサー=水酸化カルシウムは、pHが非常に高い(約12〜14)ため、一度に多量を添加してしまうと水質の急変を招き、サンゴや海水魚に悪影響を及ぼす可能性があります。

そのため、ドリッパードーシングポンプなどを使って点滴式でゆっくりと注入する方法が基本の使い方になります。これにより、急激なpH上昇を防ぎながら、安定した環境を維持することができます。

Ebita Breed「観賞魚用ドリップキット」

カルクワッサーの添加は器材がシンプルで導入しやすい一方、高pHによる急激な変化が生体にストレスを与える可能性があるため、慎重な運用が求められます。

過剰添加のリスクとして、具体的にはpHの急上昇KHの急激な低下Ca/Mgバランスの急変などがあります。
これを回避するには水酸化物による化学変化の仕組みを把握することが必要です。

可能であればドーシングポンプを使うと微細な添加量のコントロールが可能となり、水質急変のリスクをさらに下げることができます。

Kamoer「A1 STIRRER」
カルクワッサーに向いた、撹拌機能付きドーシングポンプ

ドリップボトルやドーシングポンプを利用した基本的な使用方法としては、添加ノズルやチューブは水流がある場所へ設置することになります。

この理由としては、水酸化カルシウムは海水中に溶け込んだCO₂と反応しますが、同時に海水中の炭酸水素塩とも反応して炭酸カルシウムとして沈殿する性質があるためです。つまり、このときKHも下がることになります。

また、水酸化物イオン(OH⁻)が海水中のマグネシウムイオンと反応して、水酸化マグネシウムとして沈殿してしまうこともあります。水酸化マグネシウムの析出は水溶液のpHが高くなるほど増えるため、添加場所のpHをなるべく上げないように添加することが重要となります。

飽和濃度の水酸化Caを、海水に添加した場合の炭酸Caと水酸化Mgの析出量】
pH9を超えたあたりから析出量が急増します
※数値はおおよその値となります

この炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムの析出量を最小限に留めるためには、流水で拡散させる方法が有効です。

止水に近い場所に添加した場合、カルクワッサーが1か所に滞留する時間が長く、添加箇所のpHが著しく上昇することで炭酸カルシウムと水酸化マグネシウムの析出量が急増します。

【止水に添加した場合のイメージ】
滞留時間が長いとピンポイントで高pH水域が発生し、析出量が増加します
※数値はおおよその値となります

これを最小限に抑えるためには、強めの水流がある場所にカルクワッサーを添加するようにします。
水流に流されることで希釈されやすくなり、pHの上昇を最小限に留めることが可能となります。

【流水に添加した場合のイメージ】
流水により拡散され、析出量は最小限に抑えることができます

※数値はおおよその値となります

水質に与える影響を最小限に抑えたい場合は、この添加方法が推奨となります。

このように、カルクワッサーはカルシウムレベルとpHを上げる作用が強い一方で、過剰に添加した場合、pHの過上昇に加え、KHとマグネシウムレベルの低下も引き起こす可能性もあります。

カルクワッサーを使いこなすには、試薬で水質の変化を計りながら適切な添加量を見極める必要があることから、経験を積んだ上級者向けの添加方法になるというわけなのです。

また、カルクワッサーは強アルカリの水酸化カルシウムを使用することから、目などに入ると非常に危険です。小さなお子様や犬猫などのペットがいる家庭では、管理保管場所に厳重な注意が必要となります。

カルクワッサーの活用方法

カルクワッサーは水酸化カルシウム水溶液(石灰水)によるカルシウム補給とpH上昇を同時に行える添加方式です。
アクアリウムにおける水酸化カルシウムの化学的な特徴として、pHを上げる以外に、CO₂とリン酸を吸着する性質も持っています。

カルシウムイオンはCO₂と反応した場合には炭酸カルシウム[CaCO₃]にリン酸と反応した場合はリン酸カルシウム[Ca₃(PO₄)₂]となりますが、両方とも水にほとんど溶けず沈殿する性質があります。

【CO₂およびリン酸イオンと反応して沈殿するカルシウムのイメージ図】

この性質を活用することで、プロテインスキマーと組み合わせてリン酸を除去することが可能になります。

具体的には、カルクワッサー由来のカルシウムイオンがリン酸と結合し、リン酸カルシウムとして形成された粒子がプロテインスキマーによって水槽外へ排出されます。

さらに、プロテインスキマーが空気を取り込んで発生した泡には、室内のCO₂も含まれます。
冬季に石油ストーブやファンヒーターを使用することで室内のCO₂濃度が高まる場合でも、カルクワッサーの添加によってこのCO₂をある程度中和することができます。

このようなリン酸塩の吸着除去やCO₂の中和を目的とする場合は、カルクワッサーの添加場所として、プロテインスキマーの吸水口付近に設置するのが効果的です。

※リン酸カルシウムが底砂内に沈殿すると、リン酸塩値が落ちなくなる「オールドタンクシンドローム」発生の原因となります。そのため、効果的に除去するにはプロテインスキマーで排出させる仕組みが有効です。

【カルクワッサーをCO₂+リン酸吸着剤として使用するときのイメージ図】
プロテインスキマー内で反応させて排出させる形で使用します

ただし、この際にもカルクワッサーを一度に多く添加しすぎてはいけません。
局所的なpH上昇により、炭酸カルシウムや水酸化マグネシウムの沈殿量が増え、KHの低下や、Ca/Mg比のバランスを崩してしまう恐れがあります。

必ず水質を確認しながら、添加量とタイミングを慎重に調整してください。

また、リン酸塩の吸着除去を目的とする場合も、一気に減らそうとすると水質の急変を招いてしまい、水槽崩壊のリスクが上昇してしまいます。目的としては、少しずつ徐々に減らす補助的な運用が、適切で安全な方法といえます。

カルクワッサーを安全かつ効果的に使用するには、非常にシビアな水質管理が求められます。
pH、KH、カルシウム濃度の変化を正確に把握し、必要に応じて微調整する高度なスキルが必要です。

専門的な知識と経験が求められるため、カルクワッサーは上級者向けのカルシウム添加方法といえるでしょう。

カルクワッサー 製品紹介

カルクワッサーは、複数のメーカーから販売されていますが、基本的には医療グレードの水酸化カルシウムを主成分とした製品が一般的です。これらの製品は不純物がほとんど含まれておらず、品質に大きな差は見られません。

そのため、特定のメーカーにこだわる必要はなく、使いやすさや入手のしやすさ、価格などを基準に、お好みの製品を選んで問題ありません。

ただし、製品によっては粒子の細かさや溶けやすさに若干の違いがある場合もありますので、実際の使用感に応じて使い分けるとよいでしょう。

FaunaMarin 「Kalkwasser 500g」
グローテック「 Kalkwasser 500g」
カルクワッサーのメリット
・カルシウムのみをピンポイントで添加可能
・CO₂が海水に溶け込むことによるpH低下を緩和できる
・使用方法によっては、pHを下げるCO₂の除去や、リン酸塩の吸着除去にも応用ができる
カルクワッサーのデメリット
・使いこなすには、ある程度の化学的知識とサンゴの飼育経験が必要になる
・水溶液がpH12~14の強アルカリとなるため、取り扱いには劇物相当の注意が必要
・過剰添加による水質の急変を招きやすい

カルシウムリアクターとは

カルシウムリアクターは、炭酸カルシウム(CaCO₃)を含むカルシウムメディアをCO₂で溶かし、カルシウムと炭酸塩(アルカリ度)を水槽に供給する装置です。

主にミドリイシなど成長の早いSPSが多く収容された、カルシウム消費が激しい大型水槽で使用されます。

OCTO「Classic CR-100」

そのメリットは高度な機材を使用することで、カルシウム添加をほぼ自動化できることです。

ドーシングポンプが普及してきた現在では、そちらに取って代わられることもありますが、水槽の規模によっては添加剤を使用するドーシングポンプではランニングコストが嵩んでしまうことがあります。

カルシウムリアクターはメディアにアラゴナイトなどを使用し、これをCO₂で溶かす仕組みであることから、継続的なランニングコストを低く抑えることができるのも魅力です。

カルクワッサーと並び、上級者向けのカルシウム添加方法となりますが、こちらは水質の急変を招きにくいというメリットもあります。添加量の調整を行うことでKHを一定に保つことも可能となります。

カルシウムリアクターの基本や、自動化するための拡張などについては別記事で解説していますので、こちらも併せてご覧ください。

カルシウムリアクターのメリット
・大型水槽におけるカルシウム添加のランニングコストを低く抑えることができる
・半自動的にカルシウムと炭酸塩の添加が可能
・水質の急変を招きにくいので、比較的安全なカルシウム添加が可能
カルシウムリアクターのデメリット
・高価で複雑な機材が必要なため、初期投資が嵩んでしまう
・リアクター本体を置くためのスペースが必要
・ランニングコストとして定期的なCO₂ボンベの交換が必要

カルシウムリアクター用メディアについて

カルシウムリアクターで使用するメディアは、アラゴナイトを主体としたものになります。
化石化したサンゴの骨格を由来とするアラゴナイトには、サンゴが骨格を形成するために必要な元素がカルシウム以外にもひと通り含まれているのが特徴です。

【アラゴナイトに含まれる元素の割合】
※おおよその値

ただし、サンゴ化石由来のアラゴナイトに含まれる元素の中で、マグネシウムの量は比較的少なく、割合としてはストロンチウムよりも低くなる傾向があります。

これは、マグネシウムがサンゴの骨格形成に関与する重要な元素であるものの、骨格そのものの材料というよりは、骨格形成に関わる代謝プロセスで利用される量が多いためです。

つまり、カルシウムが充分にあっても、マグネシウムが不足していると、サンゴの骨格形成がうまく機能しなくなる可能性があります。

基本的にはアラゴナイトメディアを使用することでカルシウムや他の微量元素を供給できますが、飼育しているサンゴの種類や構成、水槽のシステムによっては、マグネシウムの消費が進む場合もあるため、定期的な水質チェックと補充が推奨されます。

マグネシウムが不足してしまった場合の対策としては、添加剤を使用する方法のほかに、アラゴナイトメディアにマグネシウムメディアを適量混ぜて使用することで、リアクター内でのマグネシウム供給量を補うことが可能です。

この方法により、サンゴの健全な骨格形成をサポートする環境を維持しやすくなります。

カルシウムリアクター用メディア 製品紹介

アラゴナイトメディア
アラゴナイトメディア各種

アラゴナイトメディアは、基本的にどの製品を使用しても問題ありません。

厳密には、採掘された産地によって含まれる元素の割合に違いが見られることがあります。
これはサンゴ礁が形成された地域や年代によって、主に存在していたサンゴの種類が異なるためです。

とはいえ、こうした違いによる成分の差は極端ではなく、一般的な使用においては大きな影響はありません。そのため、特定の製品にこだわる必要はなく、入手のしやすさや価格、使いやすさなどを基準に選びましょう。

また、メディアの粒サイズについては、小型のリアクターには細粒のものを使用が推奨です。
大型のリアクターには荒粒のものが適しています。

これは、粒が細かいほどCO₂との接触面積が増え溶解効率が高まりますが、量に対して粒径が小さいと、スラッジが蓄積してリアクター内の通水効率が落ちるためです。

マグネシウムメディア
グローテック 「Magnecium Pro」

マグネシウムメディアは単体で使用するものでありません。
サンゴのマグネシウム消費量に応じて、アラゴナイトメディアへ混ぜて使用してください。

カルシウム添加剤ガイド:カルクワッサー & カルシウムリアクター まとめ

今回はサンゴ水槽のカルシウム添加について、上級者向けといえるカルクワッサーとカルシウムリアクターについて解説しました。

カルクワッサーはpHの上昇効果やリン酸塩の低減など多くの利点がありますが、強アルカリ性の物質であるため取り扱いや過剰添加には注意が必要です。

一方、カルシウムリアクターは大型水槽での安定供給に優れますが、初期投資や設置スペースが課題となり、運用開始までのコストが嵩む傾向があります。

それぞれに特徴やメリット・デメリットがあるため、水槽の規模や飼育スタイルに合わせて選択することが大切です。水槽の規模や管理スタイルに合わせて、最適な方法を選びましょう。

どちらかといえば、両方ともサンゴの数が多く収容された大型水槽向きのカルシウム添加方法となります。
小型水槽で少量のサンゴを楽しんでいる方にはオーバースペックになりうる添加方法でもあります。

一般的なサンゴ用カルシウム添加剤の使用が追い付かなくなってしまった際の対処方法として検討してみてください。

CORALROOM Writer R

ライフワークはアクアリウムの仕組みを紐解いていくこと。 リーフタンクの生態系をミクロフローラとケミカルサイクルの要素からも解説します。

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