リーフタンクにおける栄養塩低減の要、脱窒菌と嫌気性バクテリアの基本について解説していきます。
硝酸還元菌と脱窒菌
硝酸還元菌とは水中の硝酸塩をエネルギー源として利用するバクテリアの総称で、実は1種類だけではありません。
これらの仲間は硝酸塩NO3を取り込み、亜硝酸NO2へ還元することでエネルギーを得ています。
多くの硝酸還元菌は硝酸を亜硝酸に還元するまでしかできませんが、その中で亜硝酸を窒素へ還元できる種類がいます。それが脱窒菌と呼ばれるPseudomonas denitrificans(シュードモナスもしくはプセウドモナス・デニトリフィカンス)。
このPseudomonas denitrificansはアクアリウム用のバクテリア剤としても培養され商品化されています。
偏性嫌気性細菌と通性嫌気性細菌
嫌気性バクテリアは大きく分けて2種類のグループに分けられます。
酸素のない嫌気領域でしか活動できない偏性嫌気性細菌。
酸素のある環境、酸素のない環境両方で活動できる通性嫌気性細菌。
脱窒菌であるPseudomonas denitrificansは通性嫌気性細菌に分類されているバクテリアです。
他に通性嫌気性細菌として知られるものは乳酸菌やバチルス菌(一部)やポリリン酸蓄積細菌などが知られています。
酸素のない領域でしか活動できない偏性嫌気性細菌にはビフィズス菌やアナモックス菌などが知られ、古細菌(アーキア)の大部分もこの偏性嫌気性細菌のカテゴリに属しています。
脱窒菌に硝酸塩の還元を行わせるには
脱窒菌Pseudomonas denitrificansは酸素のない嫌気領域において硝酸呼吸を行うことでエネルギーを得ていることが知られています。逆に酸素のある好気領域では硝酸呼吸を行わなくなるため、脱窒を行わせるためには嫌気領域を作ることが必要になります。
嫌気領域の作り方
水槽内で効率的に脱窒を行わせるための嫌気領域の作り方は主の2通り存在しています。
ひとつは直径の大きなろ材を用いて、その内部に嫌気領域を作る方法。
一般的な好気性ろ過用のろ材では内部に穴のあるリング状ろ材が用いられていますが、嫌気層を作る場合は径が10cm以上の大きな塊状のろ材を用います。
もうひとつは水槽もしくはサンプの壁面を利用して嫌気領域を作る方法です。
厚さ5cm以上のスポンジ板を水槽やサンプの壁面に押し付けることで、壁面との接地面に嫌気領域を作ります。
注意点はスポンジが動いて壁面への接地面に水が入らないようにすること。ここに酸素を含んだ水が入ってしまうと、せっかく出来上がった嫌気層が失われてしまいます。
セッティング時にスポンジ板が動いてしまわないように、しっかりと固定しましょう。
他に、ライブロックに代わる好気嫌気兼用ろ材として使えるマルコロックがあります。
マルコロックはフロリダ半島産の石灰岩で、地中深くでの変成をほとんど受けていないためライブロックとほぼ同等の多孔質構造を残しています。サイズ大きめ(直径6~10cm以上)のマルコロックを本水槽やサンプに入れるだけでも手軽に嫌気領域を伴ったろ過スペースを作ることができます。
脱窒菌のエネルギーとなる炭素源
もうひとつ重要なものが脱窒菌のエネルギー源となる炭素源です。
脱窒菌が使用できる炭素源はメタノールなどの炭化水素類やPHBといった生分解性樹脂など多岐に渡ります。
従来は生分解性樹脂などの固形のものを使用することが多かったのですが、近年はメタノールを含む液体の炭素源が多く使用されています。
こういった炭素源と呼ばれるエネルギー源となる物質を添加することで脱窒を進める手法が、近年では主流となっているのです。
また、炭素源を直接添加する他にバチルス菌などの有機物分解バクテリアを機能させることで脱窒菌の炭素源を供給する方法もあります。こちらは従来言われていた「嫌気ろ過をしっかり機能させるには時間がかかる」ということの理由の一部に繋がります。
具体的には「バチルス菌などにデトリタスの分解を促進させることで脱窒菌が必要とする炭素源を供給させる」方法です。こちらは脱窒菌だけでなく、さまざまな微生物の働きを促進させ有機炭素の変換サイクルを作り上げる必要があります。
バクテリアの種類別の詳細や、相互の関係などについての解説は随時更新していきますのでお待ちください。
まとめ
脱窒菌を含む嫌気性バクテリアを上手く機能させるにはふたつの条件が重要となります。
ひとつは「酸素の届かない嫌気領域となる場所を作る」こと。
もうひとつが、「嫌気性バクテリアがエネルギー源とする炭素源の添加」。
このふたつの条件が揃うことによって脱窒や脱リンといった嫌気性ろ過が上手く機能するようになるのです。
栄養塩の低減が上手くいかないという方は、まずここからろ過システムを見直して構築してみましょう。
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