リーフタンクにおける好気性ろ過と嫌気性ろ過

サンゴ中心となるリーフタンクをしっかりと維持していくには、その中核となるろ過システムを理解する必要があります。
一般的なアクアリウムでは生物ろ過においてはアンモニアを無害化する好気性ろ過の硝化作用がピックアップされることが多いのですが、リーフタンクにおいては好気性ろ過と嫌気性ろ過の組み合わせが重要となってきます。

今回は、その基本となる好気性ろ過と嫌気性ろ過それぞれの基本について解説します。

好気性ろ過とは?

好気性ろ過とは代謝に酸素を使うバクテリアを利用したろ過システムとなります。
アンモニアを無害化する硝化細菌はアンモニアを酸化して亜硝酸、そして硝酸塩に変えることでエネルギーを得ています。これを利用したものが一般的なアクアリウムにおける生物ろ過の中核になります。

好気性ろ過(硝化)の基本についてはこちらの記事もご覧ください

そして一般的なアクアリウム用のろ材もこの好気性ろ過に対応した設計となっています。
リングろ材やバイオボールなどがその代表で、水に触れる表面積を多く取ることで好気性バクテリアの付着面積を増やしているのです。

好気性ろ過に特化したリングろ材

また、好気性バクテリアには硝化細菌以外にもさまざまな種類が存在しています。
一般的なアクアリウムのろ過システムでは重要視されることはありませんが、嫌気ろ過を併用したリーフタンクのろ過システムにおいては重要な役割を担う種類も存在しています。

それらについては、また別の記事で触れる予定です。

嫌気性ろ過とは?

一方の嫌気性ろ過は逆に酸素のない領域で活動できるバクテリアを利用したろ過システムです。
こちらは酸化とは逆の還元を軸にしたものとなります。
代表的な嫌気性バクテリアである脱窒菌が行う脱窒は、硝酸塩NO3を還元することによって窒素ガスN2へと還元する作用によって行われています。

脱窒菌以外にもさまざまな嫌気性バクテリアが酸化された物質を還元しています。
水槽の中では猛毒となることから忌避される硫化水素も嫌気領域における還元によって発生しているものです。
※硫化水素は硫酸基を含むタンパク質が分解される過程で発生します。

そして嫌気性バクテリアは大きく分けて2種類存在しています。
ひとつは完全に酸素のない領域のみに適応した「偏性嫌気性細菌」。
もうひとつは好気領域でも嫌気領域でも生きられる「通性嫌気性細菌」です。

アクアリウム用のバクテリアとして売られているものでは脱窒菌が通性嫌気性細菌。
納豆菌でおなじみのバチルス属のバクテリアも通性嫌気性細菌に属しています。

脱窒菌
バチルス属のバクテリア

偏性嫌気性細菌は酸素に弱いという特徴からアクアリウム用のバクテリア剤ではほとんど製品化されていませんが、代表的なものとしてはビフィズス菌などがいます。

このようなさまざまなバクテリア達による好気領域における物質の酸化と嫌気領域における酸化された物質を還元する働きによって自然界の物質循環は成り立っているのです。

なぜリーフタンクに嫌気性ろ過が必要なのか?

リーフタンクにおいては硝酸塩やリン酸塩といった栄養塩類の蓄積が大きな問題となります。
これは前述した一般的なアクアリウムのろ過システムが好気性ろ過に偏重したものになっているためです。

高栄養塩の海水はサンゴへ悪影響を与えます。
具体的にはハードコーラルの骨格形成を阻害することと、褐虫藻からの栄養譲渡が正常に行われなくなること。これらの症状が発生することによってサンゴは衰弱し、やがて死んでしまうのです。

ソフトコーラルの仲間は栄養塩による影響が比較的少なく、むしろある程度栄養塩が必要となる種類も存在しますが、貧栄養で清浄な水質の環境に適応したミドリイシなどSPSの仲間では深刻な影響が出やすくなります。

これらの問題を解決するためにさまざまな機材やろ過システムが開発されてきました。
その代表がプロテインスキマーであり、それと嫌気性ろ過を組み合わせたベルリンシステムが長らくリーフタンクのろ過システムとして主流となっていったのです。

嫌気領域を作るために何をすればいいのか?

嫌気領域を作るには酸素の届かない=水流に触れない領域を作ることが必要となります。
そして酸素の届かない領域を作るためにはいくつかの方法があります。

具体的には直径5cm以上の大きな塊状のろ材、もしくは厚さ3cm以上のスポンジをサンプのガラス面に張り付けることでかんたんに嫌気領域を作成することができます。

スポンジで嫌気領域を作る

手軽に嫌気領域を作れる「ZOOX  バイオメディア Lサイズ」
平たいものは厚さ3cm以上のものを使います

最も手軽に嫌気領域を作れるスポンジろ材は「ZOOX ネクストジェネレーション バイオメディア Lサイズ(15×15×10cm) 」のように体積の大きなものとなります。
これは径が大きくなればなるほど嫌気領域の広さも増します。

フィルターやサンプに入れるろ材にはこのような径の大きいろ材を使用し、内部に嫌気領域を作ります。その径が大きければ大きいほど内部の嫌気領域は増していきます。

SPSなどの低硝酸塩、低リン酸塩濃度の環境を作りたいのであれば直径5cm以上で収容できるスペース内に応じたサイズのろ材の選びましょう。

また、3cm以上の厚みがある板状のスポンジも水槽やサンプのガラス(アクリル)面に張り付けることで嫌気層を作ることが可能です。

マルコロックで嫌気領域を作る

内部まで多孔質構造が残されたマルコロック

塊状のろ材として使えるアイテムとしてはマルコロックが非常に有用です。
陸上で採掘された石灰岩でありながら内部まで多孔質となった構造をしており、本物のライブロックのように表面で好気性ろ過、内部で嫌気性ろ過を行うろ材としても使用可能となっています。

さらにマルコロックは汚染されていない石灰岩を使用しているため、ある程度のリン酸吸着能も持っておりリン酸塩の数値を低く抑えたいSPS中心のリーフタンク用ろ材としても活躍します。

底砂を厚くする

底砂内に嫌気層を作るのであれば厚さ3cm以上、できれば5cmほどの厚みで敷きましょう。

砂は厚く敷けば敷くほど嫌気層の領域も増えます。
しかし、それにはいくつかのデメリットも生じます。

それらについては別の記事で解説していますので、こちらもご参照ください。

まとめ

水槽内に嫌気領域を作るには多孔質構造の物体や砂などを用いて水流が届かないようにすることです。
それにより酸素が不足する領域ができ、そこで嫌気性バクテリアが繁殖し活動することができるようになります。

この嫌気領域を水槽内やサンプ内にどの程度作れるかで、硝酸塩とリン酸塩の処理能力が大きく変化します。
リーフタンクを作るうえで、どの場所に嫌気領域を作るかは避けて通れない課題と言えるでしょう。

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