ユラユラ系LPSの代表といえるナガレハナサンゴ。
独特な触手の形状を持ち、ユラユラと流れに靡かせる優雅なその姿はLPSの代表種といっても過言ではありません。
人気が高い反面、飼育にクセがあることから飼育がやや難しいサンゴと位置付けられています。
しかし、本種もポイントを押さえてしまえば飼育はそれほど難しいものではありません。
今回はナガレハナサンゴの優雅なユラユラを楽しむためのポイントについて触れていきます。
目次
基本情報
流通名 | ナガレハナサンゴ |
学名 | Euphyllia fimbriata(コロニー型) Euphyllia ancora(コロニー型) Euphyllia paraancora(ブランチ型) |
分布 | 太平洋~インド洋の熱帯海域 |
グループ | ハードコーラル(LPS) |
飼育しやすさ | ★★★★☆ 基本を押さえれば容易 |
入手しやすさ | ★★★★☆ 比較的よく見かける |
ハナサンゴグループ(Euphyllia属)の代表種ともいえるサンゴで、触手先端がT字状になるのが特徴です。
英名では、その姿からHammer Coralと呼ばれています。
本種も生息海域は非常に広く、太平洋の亜熱帯海域~インド洋の熱帯海域まで幅広く見られます。
日本近海にも生息しており、西日本の黒潮が流れる海域でも生息が確認されています。
ナガレハナサンゴと呼ばれているサンゴには少なくとも3種が含まれており、骨格と共肉が連続して増殖していく「コロニー型(E. ancora種、E. fimbriata種)」と、ポリプが枝分かれして増えていく「ブランチ型(E. paraancora種)」が存在します。
標準和名ではE. fimbriataをナガレハナサンゴ、E. ancoraをホソナガレハナサンゴ、E. paraancoraをツツナガレハナサンゴと付けられています。

E. fimbriata

E. fimbriata

E. ancora

E. ancora
ワイルドもののハードコーラルが流通していた時代ではコロニー型の流通が多く見られましたが、近年ではフラグサンゴカルチャーの発展により増殖分離しやすいブランチ型もよく見られるようになりました。

E. paraancora

E. paraancora? E. fimbriata?
また、ブランチ型でも骨格が太い枝状になるものと細い枝状になるものがいます。
太いブランチ型はE. fimbriataの可能性もあるということなので、骨格に着目してみるのもおもしろいかもしれません。
ちなみに骨格の形状についての本来の名称は、ポリプが連なるコロニー型を「フラベロ・メアンドロイド型」、枝状に分岐するブランチ型は「ファセロイド型」、両者の中間的形状のものを「ファセロ・メアンドロイド型」と呼びます。

(コロニー型)

(ブランチ型)

(コロニー・ブランチ中間型)
飼育要件
自生地の環境 / Habitat Sea Area |


・光合成のみでは栄養が不足しやすい面があります。
・給餌や栄養剤の使用で調子が上がりやすくなります。
適正水温 / Water Temperature |




・一般的なサンゴが好む水温を維持します。
・水温が28℃を超えるとブランジェリー発症の危険性が出てきます。
光色のセッティング / Lighting Spectrum |




PARの目安 | 100~250 |
・サンゴの蛍光色素に対応した光色のものを使用しましょう。
・光量は中程度。蛍光色がきれいに出る程度で問題ありません。
水流 / Water Flow |



・コントローラー付きサーキュレーターの使用推奨。
・ポリプが左右にユラユラ揺れるような水流を作りましょう。
・触手が一方に倒れてしまうような強い水流は適していません。
エサの種類とサイズ / Feeding Menu |




・動物質中心で消化吸収しやすいサイズのエサを与えます。
・給餌の頻度は2~3日に一度程度を目安に。給餌量は残餌が出ない程度の少量に留めます。
・共肉と骨格の境目(通称:ワックス)が薄いようなら栄養が不足しています。
カラーバリエーション
ナガレハナサンゴのカラーバリーエーションも基本的に「触手先端(チップ)部分」と「触手(茎)部分」とで色が分かれるパターンがよく見られます。一般的には触手先端に色が入るものを「先端○○」、触手の茎部分に色が入るものを「茎○○」と表現されることが多く見られます。
よく見られる4タイプは以下のようなパターンとなります。




部位によって蛍光色が入ったり非蛍光色の色素が入ったりしますが、一見地味なポリプであっても長期飼育で次第に色が変わっていくものも見られます。ナガレハナサンゴの場合はグリーンからイエローに変化するものや、ごく稀にレッドに変わるものなども見られます。


色揚げには安定した環境での長期飼育が必要で、丈夫だからと手を抜いてしまうとなかなかキレイな色に揚がらず苦労することもあります。この美しい体色を引き出すには水質と光をしっかり整え、じっくり腰を据えて飼育に挑むことが大切です。
サンゴの配置場所に注意
本種をはじめとしたハナサンゴの仲間は刺胞毒が強く、他のサンゴを攻撃します。
通常の触手に他のサンゴが触れるのも危険ですが、ハナサンゴの仲間はスイーパー触手という攻撃用の触手を出します。スイーパー触手は非常に毒性が強いため、この触手に触れた他のサンゴは共肉が壊死してしまうので注意しましょう。

このことから、ハナサンゴの仲間はサンゴを多く収容したリーフタンクでは他種を近くに配置しないのが鉄則となることを覚えておきましょう。同種やハナサンゴ属の近縁種では刺胞毒が通じないことが多いことから、近くに配置するならハナサンゴの仲間で統一するのがお勧めです。
リーフタンクにおける飼育のポイント
ハナサンゴの仲間でもナガレハナサンゴはやや気難しい部類とされますが、その理由は外見から調子を見ることが難しいということが挙げられます。
体力が落ちた状態でもある程度ポリプを開けるため、明らかに調子が悪い状態になってしまったときは既に手遅れなことが多いのも、ナガレハナサンゴを気難しい種類であると印象付ける大きな要因になっています。
しかし、実は外見から調子の良し悪しを判別できるポイントがあります。
さらに一度状態が上がってしまえば、丈夫で飼いやすい一面すら見せてくれるようになります。
つまり、ナガレハナサンゴの飼育を成功させるためには「体力のある健康なポリプを選ぶ」にかかっていると言っても過言ではありません。
ナガレハナサンゴを購入するときは以下のポイントをしっかり確認するようにしましょう。
ワックス部分がしっかり膨らんでいるものを選ぶ
ハナサンゴの仲間の健康状態を見るにはポリプと骨格の境目部分、通称ワックスと呼ばれる個所を確認します。


ワックスが発達せずポリプ根本の骨格が剥き出しになっているもの(Ⓐ)は栄養が足りていないことが多く、体力が低い状態です。骨の尖った部分が剥き出しているようだと体力も落ちて感染症(ブラウンジェリー)に罹りやすい状態です。
ワックスがふっくらとしているもの(Ⓑ)であれば体力もあり飼いやすい状態です。
ショップで購入するときは、この部分をよく確認して選ぶようにしましょう。
購入してからのトリートメント
ナガレハナサンゴはワックス部分がふっくらしたものを選べばトリートメントはほとんど必要とせず、環境が適切であれば問題なく飼育はできます。しかし、ワックス部分が痩せているものを購入してしまった場合はサンゴ用栄養剤でトリートメントを行います。
他のサンゴにも言えることですが、水槽導入直後の生存率は栄養剤によるトリートメントが大きく関わります。

サンゴ用栄養剤は必ず規定量に沿った使い方をしてください。
過剰に添加してしまうと水質の悪化や腐敗菌の増殖などを招いてしまうことがあるため、注意しましょう。
栄養剤の過度な添加は、ブラウンジェリーの原因となる繊毛虫やビブリオ菌を増殖させてしまうことがあります。
特にナガレハナサンゴをはじめとしたハナサンゴの仲間は、体力が落ちると寄生性の繊毛虫によって引き起こされる「ブラウンジェリー」という病気が知られています。ブラウンジェリーは体力の落ちたLPSが罹りやすい病気で、茶色くなった部分は既に壊死してしまっています。
ブラウンジェリーは「サンゴの体力向上」と「清潔な環境の維持」でほぼほぼ発症を防ぐことができます。
ナガレハナサンゴのトリートメントはその2点が要となります。
そのような環境をつくるためにも清潔な環境でトリートメントを行うには性能の高いプロテインスキマーが欠かせません。さらに紫外線殺菌灯を併用するのも効果的です。


トリートメント期間はおよそ1~2週間ほどで、その間しっかりと状態を観察してください。
栄養剤によるトリートメントを行っていると、ワックス部分の共肉が少しずつ膨らんでくるようになります。
そのタイミングでより栄養価の高いリキッドフードへ切り替えましょう。
ナガレハナサンゴへの給餌
給餌はスポイトやシリンジなどでピンポイントに与え、残餌が極力出ないように行います。
これはナガレハナサンゴが確実に栄養を摂れるための措置であるのと、同時に水を必要以上に汚さないための手法です。なるべく残餌が出ないような給餌を行ってください。
残餌が多く出るようだとビブリオ菌などの病原菌が増えやすい環境になってしまいます。
給餌を行う際は必ず少量から様子を見るようにしてください。
給餌を行いながら状態が上がっていくにつれ、ナガレハナサンゴの共肉もよりふっくらと膨らむようになります。ポリプがぷくぷくと弾力のある状態で膨らんでいればナガレハナサンゴの状態はかなり良くなってきたと言えます。
共肉が膨らんだ健康な状態になれば給餌は1週間に1~2回程度に抑えても問題ありません。
共肉の膨らみ方をしっかりと観察しながら、時折給餌を行うことでナガレハナサンゴの長期飼育は難しいものではなくなります。
ナガレハナサンゴの寄生虫対策
ナガレハナサンゴをはじめとしたハナサンゴの仲間には寄生性のヒラムシ(体長1cm以上の茶色いプラナリアのような姿:画像Ⓒ)が付いている場合があります。

大きいものはピンセットなどで物理的に除去できますが、外側に姿が見えなくても縮んだポリプの中へ隠れていることもありますので、必ず水槽導入前にサンゴ用の洗浄剤を使って付着している寄生虫類を駆除しておきましょう。

「コーラルクリーナー リバイブ」
体の大きな寄生性ヒラムシだけでなく、他にも茶色い小さな無腸動物が無数に付くことがあります。
このような寄生虫はサンゴの導入時には見つからなくても、いつの間にか水槽内に侵入していることがあります。
寄生虫の付着を見逃すとあっという間にサンゴが体力を失い、ブラウンジェリーに罹って死んでしまいます。
突然死を防ぐためにも、日頃からサンゴの調子をしっかりと観察するようにしましょう。
ナガレハナサンゴ まとめ

ユラユラ系代表種であるナガレハナサンゴ。
飼育のポイントは第一に「体力のある健康状態の良いポリプを選ぶ」ことと「水槽導入後のトリートメントをしっかり行う」ことに集約されます。
長期飼育を成功させるためには「栄養がしっかり摂れているか」を確認しながら「様子を見ての給餌」や「定期的な寄生虫駆除」を行うことが重要です。サンゴの突然死は「栄養が不足しているが、ギリギリ生きている状態」で発生することが多いのです。
その前兆となる要因は管理方法も含めて水槽内の何処かに確実に存在しているため、日頃から水槽内の環境やサンゴの状態をしっかり観察することが重要です。
ナガレハナサンゴを状態良く飼育できれば、ほとんどのLPSの飼育も可能になると言っても過言ではありません。
ユラユラ系LPSの王様にして、その飼育の基本をしっかりと教えてくれるナガレハナサンゴ。
是非その飼育にチャレンジしてみてください。
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