マリンアクアリウムにおいても水質の目安として最も基本となるpH。
では、そのpHとは何を計るものなのでしょうか?
今回はマリンアクアリウム=海水水槽全般におけるpHの基本部分について解説していきます。
目次
pHとは何か
pH(ピーエイチ または ペーハー)とは、水の酸性度やアルカリ度を示す指標です。
pHは別名「水素イオン濃度指数」とも呼ばれ、水中の水素イオン(H⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)の濃度のバランスを示しています。
具体的には、pHは水素イオン濃度の対数を取ったものです。
pHの数値は0から14まで表されます。
7が中性となり、それより数字が小さいほど水素イオン濃度が高く、酸性度が強いことを意味します。
逆に、pHが7より大きいほど水酸化物イオンの濃度が高く、アルカリ性が強いことを示します。

例えば、pHが1の水溶液は強酸性であり、水素イオン濃度が非常に高い状態です。
よく知られた物質では希塩酸や胃液が相当します。
一方、pHが13の水溶液は強アルカリ性であり、水酸化物イオン濃度が非常に高い状態です。
こちらは水酸化ナトリウムなどがその代表です。
pHの数値によって、ある程度何の物質が含まれているのかの目安として見て取ることができます。
マリンアクアリウムにおいては、pHは水質の健康状態を示す重要な指標となります。
最適pHの目安:淡水アクアリウムとの指標の違い
淡水のアクアリウムとマリンアクアリウムでは、最適なpHの範囲が異なります。
淡水のアクアリウムでは、一般的にpH6.5~7.5の範囲が適するとされています。
ただし、種によって好むpHの範囲は異なります。
一方でマリンアクアリウムでは、pH8.0~8.4の範囲が理想的とされています。

また海水中に生息する生物は、ほとんどの種において上記の範囲が理想的な値となります。
淡水生体のような好適とされるpH範囲のばらつきは、海水生体にはあまり見られません。
この違いは、海水中に含まれる成分や、そこに生息する生物の生理的な要求に基づいています。
特にサンゴ中心のリーフタンクでは、pHが8.0を下回らないように注意してください。
pH7.9以下の環境ではサンゴがストレスを感じはじめ、その健康を損なう可能性があります。
海水魚中心の水槽であれば7.8ほどになっても、あまり問題はありませんが、硝酸塩やリン酸塩が蓄積して下がり過ぎると病気の原因となることがあります。
特に飼育している生体の数が多い水槽では、硝酸塩やリン酸塩が蓄積しやすく、pHが下降しやすい傾向にあるので注意が必要です。
pHコントロール
マリンアクアリウムでのpHコントロールは、魚やサンゴの健康を維持するために欠かせません。
コントロールのために必要な手段としては、以下のものが挙げられます。
- 定期的な水質テスト:pHを定期的に測定し、異常があればすぐに対処します。
- 適切な換水:新鮮な海水を定期的に追加することで、pHのバランスを保ちます。
- 水質調整剤の使用:pHを安定させるための水質調整剤を使用することも有効です。
- カルシウムリアクターの導入:カルシウムリアクターを使用することで、pHを安定させると同時にカルシウム濃度も維持できます。
2種類のpH測定方法
pHをコントロールしていく第一歩として、まずはpHを測定しなければなりません。
pHの測定方法には、主に試験紙や試薬を用いるアナログ式と、専用の機材を用いるデジタル式があります。
コストを重視する場合はアナログ式、精度を重視する場合はデジタル式がおすすめです。
特にリーフタンクでは、サンゴは水質の変化に敏感であるため、デジタル式のほうがおすすめです。
海水魚だけ飼育するのであれば、アナログ式で十分なことも多いです。
試験紙や試薬を用いる方法(アナログ式)
- pH試験紙:試験紙を水に浸し、色の変化をpHスケールと比較してpHを読み取ります。
- 液体試薬キット:水に試薬を加え、色の変化をpHスケールと比較してpHを読み取ります。
アナログ式のメリットは、比較的安価で入手しやすいことです。
また特別な技術や知識がなくても簡単に使用でき、メンテナンスも不要です。
誰にでも扱える点はメリットといえるでしょう。
一方でデメリットは、色の変化は目視での判断となるため、精度の高い測定は難しいです。
また基本的に使い捨てとなるため、消耗品として定期的な補充が必要になります。
試験紙タイプは試薬に比べると精度が若干落ちますが、1枚でpH、KH、カルシウム、亜硝酸塩、硝酸塩を一度に計ることができる製品もあり、pHが下がったり上がったりする要因をある程度把握するために役立ちます。
ひとつは用意しておくと、水槽が急に状態を崩したときにその原因を突き止めやすくなります。

専用メーターを用いる方法(デジタル式)
- デジタルpHメーター:電極を水に浸し、デジタルディスプレイに表示されるpH値を読み取ります。
デジタル式のメリットは、精度の高いpH測定が可能なことです。
デジタル表示により主観的な判断が排除でき、また電極を清掃することで繰り返し使用できます。
一方でデメリットは、試験紙や試薬に比べて高価な点です。
定期的な校正も必要となり、使用の際は正しい知識を持ったメンテナンスも必要になります。
水換えが最善
pH測定をすることにより、ひとまずpHが可視化できるようになりました。
pHの変化は水換えのタイミングを判断する目安にもなります。
最も手軽にできるpHコントロール手段としては、生体の数をなるべく少なく抑え、なるべく残餌が出ない適切な量の給餌を行い、適切な頻度で換水を行うことです。
そのうえで必要であれば、水質調整剤やカルシウムリアクターなどの導入を検討すると良いでしょう。
pH調整剤の使い時
海水水槽では特にpHの低下が問題になりやすいですが、原因を特定せずいきなり水質調整剤に頼るのは良くありません。どんな添加剤にもいえることですが、過剰添加は水槽崩壊の最大の要因に繋がります。
過剰添加をしてしまわないように、必ず水質測定を先に行いましょう。

pHの低下には様々な原因が考えられます。
根本的な原因を特定し、それを解決しない限りは、一時的にpHを上昇させたとしても、その後また低下してしまうでしょう。
試薬類を揃えるのが大変という方はワンセットタイプの試験紙がオススメです。
変化した色を読み取る方式のため、精度はほどほどではありますが、大まかなpH低下や上昇の要因を絞ることができます。

ワンセットタイプの試験紙である程度絞り、精度の高い試薬やデジタルメーターを使用していく計測方法を行う方法がオススメです。
また、pHを上昇させるための添加剤には、緩やかに上げていく初心者にも使いやすいものから、ダイレクトな効果が出やすい中~上級者向けの製品があります。

※ただし、本製品も過剰添加は厳禁です
中~上級者向けの製品は知らずに使ってしまうと、分量を間違えて過剰に入れてしまった場合、水槽崩壊の直接の原因にもなります。

使用にあたってはpHとKHの関係性、およびアルカリ性物質についての化学知識が必要です
pHが急激に上昇下降と変動すると、飼育生体にダメージを与える結果となり、逆効果です。
急激なpHの変動は魚やサンゴにストレスを与え、最悪の場合、死に至ることもあります。
特にサンゴは魚以上にpHの変動には敏感です。適切なpH維持を心掛けましょう。
このことから、水質調整剤はやみくもに利用するのではなく、pHが下がってしまう原因を特定してから利用するのが効果的と言えます。
具体的にはKHやカルシウム、マグネシウムの数値が低い、硝酸塩やリン酸塩などの酸性の栄養塩の数値が高いなどです。pHが上がらない場合はこれらの数値を確認しましょう。
pHとKHを上げるための添加剤については単独で詳しく解説する予定です。
カルシウムリアクターの導入
カルシウムリアクターはメディアとなるアラゴナイトロック(サンゴ礫)を二酸化炭素を使って溶かす装置です。
メディアの溶解により炭酸水素カルシウムが生じ、これがカルシウムイオンと炭酸水素イオンを安定的に供給します。これにより、カルシウムイオンの供給だけでなく、pH安定の観点でもメリットがあるのです。

炭酸カルシウムとCO₂を反応させることで、水に溶けるようになります
カルシウムリアクターを使用することで、pHを安定させるKHと、pHを挙げる作用のあるカルシウムイオンを同時に供給することができるようになります。
なお、カルシウムリアクターの主な導入用途としては、ミドリイシやコモンサンゴといったSPS系ハードコーラルの育成用に使われます。ミドリイシなどのSPSは成長が早く、カルシウムと炭酸塩の消費量が高いために、その数値を安定させる目的で使用されます。

カルシウムリアクターは一般的にサンゴ水槽で使用されることが多いですが、水を汚しやすい大型魚水槽のpH維持のためにも使用することができます。
特に大型に育ちながらもデリケートさを残す大型ヤッコ水槽におけるpH低下予防などにも使用可能です。
※ただし、サンゴ水槽ほどカルシウム消費がないので、カルシウム過剰にならないよう注意する必要があります。

カルシウムリアクターの導入コストは高めであり、ソフトコーラルを中心に育成したい場合は、あまりコストパフォーマンスの良い選択とは言えません。先述したように、SPSを中心に育成したい水槽で、その真価を発揮します。
また、どちらかといえば大型水槽向きの機材であり、小型水槽では添加剤の使用がお手軽です。
大型水槽でミドリイシ中心の場合、カルシウムや炭酸塩といった元素量の消費が激しくなることから、添加剤による調整はランニングコストが高くついてしまうことがあります。
カルシウムリアクターは設置コストは高いものの、ランニングコストを添加剤よりも下げることができるようになります。飼育したいサンゴや生物の種類に応じて、導入を検討してみてください。
▼詳しくはこちらの記事を参照
マリンアクアリウムにおけるpHの重要性 まとめ
マリンアクアリウムにおけるpHの管理は、魚やサンゴの健康を維持するために極めて重要です。
pHは水の酸性度やアルカリ度を示す指標であるため、数値によって何らかの物質が不足あるいは過剰になっていることの目安として見ることができるようになります。
そして、マリンアクアリウムでは、pH8.0~8.4の範囲が理想的とされています。
この範囲を維持することで、海水魚が快適に過ごせる環境を提供できます。
pHが適切でないと、魚やサンゴにストレスを与え、成長や健康に悪影響を及ぼすことにも繋がります
今回はまずpH入門編として、一般的なマリンアクアリウムにおけるpHの基本からコントロール方法について触れました。
次回(Vol.2)はサンゴ中心のリーフタンクにおけるpHの重要性と、どのような物質がpHの上下変動に関わるのかを解説していきます。
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