オールドタンクシンドロームとそのメカニズム

  • 底床

今回はリーフタンクを長期維持していると起こる、その宿命とも言えるオールドタンクシンドロームのメカニズムについて解説します。

オールドタンクシンドロームとは?

オールドタンクシンドロームとはアクアリウムにおいて長期維持した水槽に発生するさまざまな不具合の総称です。
一般的にリーフタンクにおいては栄養塩、特にリン酸塩の数値が水換えなどを行ってもほとんど下がらなくなってしまう症状を指します。

年単位以上の長期でリーフタンクを維持していると必ず現れるといってもいいこの現象は、長らくサンゴ中心のリーフタンクを維持しているアクアリストにとって避けられない壁として立ちふさがっていました。

リーフタンクにおけるオールドタンクシンドロームの主要因

何度も大量の換水を行ってもリン酸塩の濃度が下がらなくなるこの現象の主要因はいったい何なのか?
その主要因とは「サンゴ砂(炭酸カルシウムを主成分とした砂)を厚く敷いた底床」そのものだったのです。

それではなぜ「サンゴ砂(炭酸カルシウムを主成分とした砂)を厚く敷いた底床」がリン酸値が落ちなくなるオールドタンクシンドロームを引き起こすのでしょうか?

その核となる要素は「炭酸カルシウム+リン酸で生じたリン酸カルシウムが底床へ蓄積してしまうこと」と「熟成した嫌気層によって蓄積したリン酸カルシウムが還元されること」です。

オールドタンクシンドロームの主な発生要因のイメージ図

このふたつの要素が重なることで、飼育水中にリン酸イオンが放出され続けることになってしまい「リン酸塩の数値が下がらなくなる」という現象が起こっていたのです。

オールドタンクシンドロームへの対策

では、このオールドタンクシンドロームが起こらないようにする方法はあるのでしょうか?
挙げられるいくつかの方法を検証していきましょう。

底床にカルシウム系の底砂を使用しない

まず最初に思いつくのが「サンゴ砂がオールドタンクシンドローム引き起こすならカルシウム系底砂を使用しない」ですが、これはこれでサンゴ飼育へデメリットが生じる問題でもあります。

本来、マリンアクアリウムにサンゴ砂が使われていたのは蓄積する硝酸塩やリン酸塩によるpHの低下を抑制するためでした。

サンゴ砂(カルシウム系底砂)が海水のpH低下を抑制するメカニズム

そのため珪砂などの主成分が炭酸カルシウムでない底砂を使用した場合、ろ材や添加剤といった別の方法でpH低下を防ぐ手段が必要になります。

これに対してリーフタンクでの最も確実といえる対策は「pHコントローラーを使用してカルシウムリアクター、もしくはカルクワッサーリアクターを稼働させる」ことでしょう。

しかし、これには設備投資にコストがかかります。
セッティングにも微細な調整が必要となるため、上級者向けのシステムになるでしょう。

カルシウム系の底砂を使うなら嫌気層を機能させない

底床に蓄積したリン酸カルシウムが嫌気層によって還元されるのであれば「嫌気層を機能させず好気環境での作用のみを機能させる」ことで還元によるリン酸の放出を抑えることが可能になります。

この「サンゴ砂をリン酸吸着材とアンモニアの硝化を行うろ材として兼ねる」使い方が、近年ミドリイシを中心としたリーフタンクでの主流となってきました。

この使い方はとても理に適っていて、海水中のリン酸塩濃度を低く保つためには優れた手法と言えるでしょう。

底砂が薄い水槽ではリン酸カルシウムが還元されなくなる

ただし、デメリットとしては「定期的な底砂の交換」と「小まめなデトリタスの吸い出し」が必要になること。
底床で嫌気性細菌による還元とデトリタスの分解を行わせない代わりに、人の手によって処理させる必要が生じてくるというわけなのです。

底砂の厚みによる管理の違いはこちらの記事をご参照ください。

ポリリン酸蓄積細菌の活性化を行う(BPシステムの活用)

現在主流となっているリン酸塩の低減方法は、ポリリン酸蓄積細菌(PAOs)というバクテリアを利用したシステムとなっています。これをBP(バクテリオプランクトン)システムと呼びます。

その具体的なメカニズムは、ポリリン酸蓄積細菌が増殖する際に「水中のリン酸塩を取り込んで体内に蓄積させる」という性質を利用して、増えたポリリン酸蓄積細菌ごとプロテインスキマーで排出する方法です。

ポリリン酸蓄積細菌が資化に利用する炭素源は主に酢酸が使われることが知られています。
そこで酢酸塩が含まれる添加剤を使用することでポリリン酸蓄積細菌を活発化させ、リン酸を取り込む量を増やすことができるようになります。

脱窒菌とPAOsの炭素源を含む
「NO3:PO4-X」

このBPシステムによるリン酸塩の低減は「強力なプロテインスキマーで増殖したポリリン酸蓄積細菌を排出する」ということが要となっています。プロテインスキマーを使用していない、あるいは性能が高くないプロテインスキマーを使用している場合は充分な効果が得られないため、その点を留意しておきましょう。

BPシステムをしっかりと機能させることができればオールドタンクシンドロームもさほど恐れる必要はなくなります。オールドタンクシンドロームの発生要因をしっかりと理解し、発生した後もそれに適した対応を行うことができれば大きな問題は発生しにくくなるのです。

また、ポリリン酸蓄積細菌については単独の解説記事を予定しています。

まとめ

オールドタンクシンドロームはサンゴ砂などのカルシウムを主成分とする底砂を長期間使用することで現れる症状です。カルシウムにはリン酸を吸着する能力がありますが、それが飽和量に達して嫌気領域での還元反応により再び飼育水中に放たれます。

再び飼育水中に放たれたリン酸塩をどのように処理するか?
それがオールドタンクシンドロームが発生した水槽の課題になります。

近年では底床内に嫌気領域を作らず還元反応を起こさせないことで、オールドタンクシンドロームの発生を予防するスタイルが主流になってきています。

しかし、この「徐々にリン酸が放出される」という現象は一見デメリットのように思えますが、LPSなどリン酸塩をある程度必要とするサンゴの飼育においては「リン酸値0環境を予防する」というメリットも生じます。

栄養塩0環境では微生物の多様性が失われ、ダイノスなどの有害な渦鞭毛藻の発生やRTNを引き起こすビブリオの菌の増殖要因にもなります。そのため、栄養塩が徐々に供給される環境というのは決して悪い要素ではありません。

水槽内で起こる現象には必ず原因とメカニズムが存在しています。
そのメカニズムを理解することで、リーフタンクの宿命と言われていたオールドタンクシンドロームすらもメリットに転化することは可能になるのです。

なぜ、その現象は発生するのか?
どうすればその現象に対処することができるのか?

その疑問を掘り下げて対処していくことで、より高いレベルのリーフタンクを構築できるようになっていくことでしょう。

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