マルコロックは空隙の多い多孔質な石灰岩であるため、レイアウト素材として今までになかった自在なカスタマイズ性が最大の魅力であるといえます。
しかし、マルコロックのメリットはレイアウト性の高さだけに留まりません。
今回はろ材としてのマルコロックのポテンシャルについて触れていきます。
目次
マルコロックはなぜろ材にも向いているのか?
マルコロック最大の特徴とも言えるのが、陸上で採掘された石灰岩でありながら内部までサンゴの骨格だった頃の多孔質構造を残しているということ。
通常、石灰岩は形成時に地下で凄まじい圧力を受け変成していく過程で激しく圧縮され、その多孔質構造は失われてしまいます。
マルコロックが採掘されているフロリダ半島は土壌のすぐ下に石灰岩層が形成されており、その形成年代も新生代始新世~漸新世と比較的新しい年代の石灰岩なのです。
さらにフロリダ半島周辺は海溝から離れて地震も少ない地域であるため、激しい地殻変動を受けにくい地域でもあります。
堆積したサンゴの骨格が圧縮されないままアラゴナイト石灰岩として形成されたことで、マルコロックは陸上で採掘された石灰岩ながら非常に多くの多孔質構造が残っているのです。それによりライブロックに匹敵するろ過能力を付与することが可能となっています。
ろ材としての活用方法
マルコロックをろ材として活かすには主に二通りの方法があります。
ひとつは好気性ろ過をメインにした使い方。
もうひとつは好気性ろ過と嫌気性ろ過を兼ねたろ材としても使用できます。
それでは、その二通りのセッティングを紹介しましょう。
好気性ろ過中心のセッティング
好気性ろ過中心のセッティングでは、なるべくサイズが小さめのものを選びましょう。
サイズの目安は直径で3~5cmほどのものが適しています。
製品としてはMRフラグマウントやMRナノシェルフといった小さい径のものが適しています。
もちろん砕いたマルコロックをろ材として使用することも可能です。
好気性ろ材として使う破片は直径1cm~3cmほどのものを選びます。
メンテナンスしやすいようにろ材ネットやバスケットに入れて使用するのがおすすめです。
使い方は一般的な好気性ろ材と同じく外部式フィルターやサンプの中に入れるだけです。
マルコロックは深部まで多孔質構造を残していることからバクテリアの定着の良さだけでなく、良質なアラゴナイトであることからカルシウムが溶出しやすくpHの低下を予防する働きもあります。
海水魚中心のコミュニティタンクでは、このような好気性ろ材として使うのがおすすめです。
好気性ろ過と嫌気性ろ過を併用するセッティング
マルコロックをろ材として使うにあたって突出しているのは、嫌気ろ過を兼ねたろ材として使えることです。
岩表面は好気領域として、岩内部は嫌気領域として機能します。
実質、ライブロックと同じろ過領域を作ることができるのです。
嫌気領域を機能させるためにはサイズの大きなマルコロック(リーフセーバー)を用います。
サイズの目安は直径6~10cm以上。直径が大きくなるほど嫌気領域も大きくなるため、ろ過槽に収容できるなら大きいに越したことはありません。
しかし、大き過ぎるサイズのものを入れてしまうと後々のメンテナンスが大変になってしまいます。
ご自身が扱いやすい範囲のサイズに留めましょう。
セッティング後、マルコロックの隙間にデトリタスやフロック(デトリタスを核にバクテリアのコロニーが付着したもの)が入り込み徐々に内部が嫌気領域化していきます。
そこにフラグやライブロックの欠片に付着した嫌気性バクテリアが入り込み、やがて増殖していくようになります。
「嫌気バクテリアの立ち上がりが遅い」というのは、炭素源となるデトリタスの沈殿と嫌気層の熟成が同時進行で徐々に進むためです。慌てずじっくり待ちましょう。
嫌気層を早めに機能させたいときは
嫌気ろ過を機能させるためには嫌気層に対応したバクテリアが必要です。
そのため、早めに嫌気層を機能させたいのであればバクテリア剤と即効性の炭素源の添加が必要になります。
バクテリア剤の使用
市販されている嫌気性バクテリアは主に「脱窒菌」系の製品と「有機物分解菌」系の製品があります。
これらは通性嫌気性細菌に分類されるタイプのバクテリアで、酸素のある好気領域と酸素のない嫌気領域の両方で活動できるのが特徴です。
「脱窒菌」とは硝酸塩NO₃⁻を窒素N₂に還元する能力を持ったバクテリアです。
この脱窒菌を増殖させ機能させるには嫌気領域を作ったうえで、エネルギー源となる炭素源の供給が必要になります。
「有機物分解菌系のバクテリア剤」はバチルス属細菌や乳酸菌などをはじめとした、さまざまな種類のバクテリアが含まれています。
アクアリウム用バクテリア剤に使われるバチルス属細菌の仲間は割合としては好気性のものが多いですが、有機物分解系のバクテリア剤には乳酸菌など通性嫌気性のものも含まれています。これらはデトリタスの核となる難消化性の多糖類(繊維質)を分解する能力を持っています。
こういった好気と嫌気環境両方での有機物分解菌の働きにより、有機酸をはじめとした多種の炭素源が生成されるようになります。そうして作られた炭素源により脱窒菌が硝酸塩の還元を行いやすい環境が整うようになっていくのです。
即効性(液体)炭素源の使用
脱窒菌をすぐに機能させる液体の炭素源もあります。
「レッドシー NO₃:PO₄-X」には脱窒菌とポリリン酸蓄積細菌(PAOs)が必要とする炭素源と水素供与体(炭化水素)が含まれており、脱窒菌の活動を活発化させる効果があります。そのため脱窒菌を含むバクテリア剤との併用もおすすめです。
使用上の注意点としては、必ずメーカー規定の使用量を厳守してください。
バクテリアを活性化させるという性質上、過剰に添加するとバクテリアバランスが崩れて水槽の環境が崩壊する恐れがあります。
過剰な添加は絶対に避けるようにしてください。
緩効性(固形)炭素源の使用
液体の炭素源は即効性が高い一方で、過剰添加による水槽崩壊のリスクもあります。
そこで安全な炭素源の供給ができるのが固形のバイオペレットです。
バイオペレットは生分解性樹脂を主原料とした製品です。
生分解性樹脂も脱窒菌などの嫌気性バクテリアが炭素源や水素供与体として機能する物質ですが、液体のものと違いゆっくりと分解されていくことで長期間にわたって嫌気性バクテリアが利用できるようになります。
基本的には厚い底砂に埋めたりバイオペレットリアクターを用いるなどして使用します。
活用するには嫌気層が必要なバイオペレットですが、マルコロックと組み合わせた使い方もあります。
マルコロック、特にリーフセーバーロックは内部にまで空隙が続いている構造をしていることから、内部にバイオペレットを仕込むことも可能です。
リーフセーバーロックには2種類の質感のものがあり、plantstechではこれらを選別して販売しています。
内部にバイオペレットを仕込むのであれば空隙が大きい「リーフセーバー エッジ」が向いています。
一方で空隙が小さめの「リーフセーバー エッジレス」は自然に嫌気層を熟成させる使い方が向いています。
「リーフセーバー エッジ」にバイオペレットを詰めたあと、流出防止に穴を接着して埋めればセット後のこぼれ出しも防ぐことができます。穴埋めした部分を自然な質感に仕上げられるのもマルコロックならではの利点です。
これを応用して、平板に加工された「マルコロック STAX」を用いてバイオペレットを挟み込んで使うことも可能です。
理屈としてはバイオペレットを仕込んだディープサンドベッドと同じようなもので、砂ではなくひとつの個体となった岩による運用となることからメンテナンス性も高くなり、オールドタンクシンドロームも見越したセッティングが可能になります。
オールドタンクシンドローム対策として、本水槽に底砂を厚く敷かなくてもバイオペレットを仕込んだマルコロックをサンプに入れることで嫌気ろ過を機能させることもできるのです。
マルコロックはレイアウトのカスタムだけでなく、ろ過システムの拡張も可能としている画期的な素材なのです。
まとめ
マルコロックは今までになかった、自由自在なレイアウトのカスタムを可能とした画期的な素材です。
その拡張性の高さはレイアウトだけに留まらず、ろ過システムをカスタマイズすることも可能としています。
リーフタンクのメカニズムを熟知している人ほどアイディア次第でさまざまな活用方法を生み出せる、非常に高いポテンシャルを持っている素材と言ってもよいかもしれません。
本記事で紹介している活用方法以外にも、今後さらなる有用な使い方が現れる可能性は高いでしょう。
マルコロックを使った新しいリーフタンクの楽しみ方にチャレンジしてみるのもおもしろいかと思います。
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